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船井総研に籍を置いていたときに外食企業のコンサルタントを担当していたことがあります。飲食店を経営する場合は、FLコストをどのように管理するかが大事になります。
FLコストのFとは、フード=材料費、Lとは、レイバー=人件費のことで、売上高に占める材料費と人件費の割合がFL比率です。あくまでも一般的な話ですが、FL比率とお店の経営の関係は下記のようなものとされています。
FL比率が50%以下で売上げも十分確保できていれば超優良企業です。具体名はいいませんが、ほとんどの皆様がよく知っている全国チェーンを展開している企業でもこのコントロールに優れていて、この水準で運営できていて、安定的に利益を出している企業があります。
FL比率が55%以下なら何とかやっていけますが、東京などの家賃が高いところでは安定的な利益を出していくのは難しくなります。また、60%以下なら回転率が異常に高いなどよほどの特殊要因がなければ利益は出せませんし、常識的に言うと60%以上になっていたら早晩そのお店は成り立たなくなります。
ところがFL比率が80%以上でうまく経営をしているパン屋さんがとんでもない田舎にあります。昨年、鳥取県の智頭町にオープンした「タルマーリー」というお店です。私は、お店がテレビで取り上げられているのをたまたま見て、オーナーの渡邊格さんの『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社)を読みました。この本は2013年に出版されたものですが、ロングセラーになっているそうです。
この本の冒頭にある「この世に存在するものは、すべて腐り、土に帰っていく。それなのにお金だけが腐らないのはなぜか?」という問いがとてもセンセーショナルでした。最近の私が標榜している「お金は単なるエネルギーである」というテーマに感応しているのでとても楽しく読ませていただきました。渡邊さんは、マルクスの「資本論」を読み、目からうろこだったと言います。
本書はタルマーリーがまだ岡山県の真庭市にあったころの話になっています。真庭には実は私はご縁があります。真庭にあったスーパーマーケットのご支援をさせていただいたことがあるのです。大阪から高速バスで行くか、時々は東京から飛行機で行って岡山空港まで迎えにきてもらっていたのですが、お世辞にも便利な場所とは言えません。
現在お店がある鳥取県の智頭町もかなりの田舎だと思います。残念ながら私は行ったことがありませんが、産業用の大麻草の栽培を積極的に認めている町ということで有名になっているぐらいですから、林業以外にはほとんど産業がないような山間部の典型的な過疎の町だと思います。
渡邊さんの発想はマルクスから学んだものですが、おカネという商品だけ腐らないのはおかしい。腐ったお金を発酵させることによって腐る経済を作り上げる(取り戻す)ことが、人間が豊かに幸せに暮らしていけるようにする第一歩になるという考え方です。説明するのは難しいのですが、腐る経済を実現しているポイントは以下の4つになります。
1.発酵:借菌をしない、菌本位体制
人間の都合ではなく菌の意思を実現するパン作りをする。そのためには砂糖もバターも牛乳も卵も使わない引き算のパン作りをする。
2.循環:地域通貨のようなパン作りをする
売れれば売れるほど、地域の経済が活性化し、地域で暮らす人が豊かになり、地域の自然と環境が豊かさと多様性を取り戻していくパン作り。
3.利潤を生まない:パンを「正しく高く」売る
田舎で小商い(生産手段を職人が自分で持つ、取り戻す)に徹する。拡大は求めずに同じ規模で経営を続ける。お金の流れをスタッフにオープンにすることで人件費と原材料費が40%強で合わせて80%でも成り立つ経営を行う。パンの価格は平均400円以上になる。そして、それでも飛ぶように売れていく。
4.パンと人を育てる
地域と子供たちが共に育っていくようなパン作りを行う。営業は週4日のみ、年に1度は1か月の長期休暇を取る。お金は未来への投票権。おカネの使い方が新しい社会を作る。
コンサルタントの常識を見事に打ち破ったパン屋さんが実際に存在することは衝撃でした。新しい世の中の萌芽を感じることができたすごい本に出会いました。ぜひ、じっくりと読んでいただいて新しい時代がどんな時代になるかを感じていただければと思います。
=以上=
2016.06.20:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】ペプチドプリマ (※舩井勝仁執筆)
2016.06.13:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】封印が拓かれるとき (※舩井勝仁執筆)
2016.06.06:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】腐る経済 (※舩井勝仁執筆)