トップが語る、「いま、伝えたいこと」

　新型コロナウイルスの影響はかなり広がってきています。ちょっと贅沢ですが、都心に住んでいることもあり、通勤にはなるべくタクシーを使わせていただいています。1か月前までは朝の通勤時間帯は空車のタクシーを見つけるのは難しかったのですが、いまは簡単に停まってくれるようになりました。先日乗り合わせた若いタクシーの運転手さんに話を聞くと、1日当たり1〜1.5万円ぐらい売り上げ減になっていて、どう生活していけばいいか頭を悩ましていますと語っていました。
　私はタクシーに乗せてもらうとなるべく運転手さんのお話を聞いて景気の状況を判断するようにしているのですが、それでも10年ぐらい前の本当に景気が悪かった時に比べればまだ余裕が感じられるように思います。大体、若い運転手さんの存在がその頃はとてもまれで、私よりも年輩と言うかはっきり言って高齢者の運転手さんしかいませんでした。私たちはある程度年金などがもらえるから運転手でがんばれますが、若い人ならこの収入では生活できませんと言う方が多かったので、少なくても東京で見るとかなり改善されたのだと感じていました。
　京都や大阪などはインバウンドのおかげでかなり景気がよくなっていたので影響は大きいのかなと思っています。毎月のようにある大阪出張が先月は一度もなく、来週久しぶりに大阪に行く予定が入っているので見てこようと思います。京都の知り合いの経営者に聞くと、小さいホテル等はつぶれるところも出てきているようです。地方を中心に、まだしばらくは景気に対する影響が出ることは間違いないと思います。

　典型的なのは、アメリカの株式市場です。連日のように千ドル前後の乱高下を繰り返しています。気になるのはとても落ち着いていた為替市場が円高になってきていることです。この原稿を執筆している金曜日の午前中の水準ですが106円台になっていて、ここまで円高になるのは久しぶりのことだと思います。プラスにとらえれば、原油の値段が下がっていることと合わせて、日本の貿易赤字が減る要因にはなります。それにほとんどの大企業はバランスシートの改善を図っていて、しばらくなら耐えられる体力はありますので、早く収束の兆しが見えることを願わずにはおられません。

　ある高齢者の方が「第二次世界大戦の末期よりも今回の方が深刻な騒動だ」と言いました。詳しくはおっしゃいませんでしたが、先が見えない、というとこのみならず、周りにも自分にも信頼と希望が持てないということでしょうか。以前読んだ本を開いていたら、このような言葉にであいました。「もし私たちが、物事を『問題』としてではなく、何かを学ぶ『機会』としてとらえることができたら、その教訓を得ると同時に、喜びと満足感をも得ることができるはずです。ある教訓や課題が目の前に現れるということは、私たちにその教えを学ぶ心の準備ができたということにほかなりません。」
　1925年生まれのアメリカの精神医ジャンポールスキーの「ゆるしの法則」という著書に出てくる一節です。この後には「ゆるすためには、『過去の出来事は必ずまた繰り返される』という思い込みを克服して、心の準備をしなくてはなりません。『過去の出来事は繰り返される』というエゴの思い込みのせいで、私たちの心には、怖れ、責める心、罪悪感、ゆるしたくないという思いが、たえず生じてきます。すると人間関係が築けなくなり、本当の自分を見失い、愛や神の存在を実感できなくなります。」と続くのですが、この後半は、少しスピリチュアルだと感じられる方もおいでになられると思うのですが、本当に前半は、シンプルに危機管理の考え方、行動の指針になると思います。
　「なぜ」と問題にして考える癖のある人は、心配や不安が形になりやすく、「どうすればよくなるのか」と学びの機会と捉えて考える人は、未来に向かって歩き始めているように思うのです。父が繰り返し言っていた『大難を小難に、小難を無難に、無難を無事に』ということも合わせて胸においておくと、落ち着いて次の一手が考えられるような気がします。一人一人が心をかき乱されることなく出来るだけフラットに、淡々と自分にできることをやる、そんな時期なのかな、と考える私です。
　少なくとも、東京のタクシーの運転手さんの収入で考えると、いまの状態でも10年前よりはましだと感じます。ちょっと振り返ると私たちは、とても大変なフェーズを見事にクリアして生き残ってきています。これからしばらく大変なことが続くと思います。ただ、絶望するのではなく、それをたくましく乗り越えて行けるのが私たちの潜在力だと思います。時代は確実に進歩しています。ゆるしの法則を感じながら、助け合いが有効な時代に生きていることに感謝したいと思っています。
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