トップが語る、「いま、伝えたいこと」

　日本が次なる新しい章を迎えて、すっきりとした心持ちで黄金週間（ＧＷ）をお過ごしになった方も多いのではないでしょうか。「今年はお正月が２回来たみたい」と言ったのは、知人の小さなお子さんですが、そのような空気感を未就学児になんとなくでも実感させるほど、改元は日本人にとってまだまだ大きな区切りなんだなと思った次第です。
　ほとんどテレビを見ない私ですが、ＧＷは例外でテレビでも、新聞でも、今上天皇の神々しいお姿を拝見して、良い時代の幕開けを感じさせられました。災害が多かった平成ですが、ここからリセットして、それぞれが、心豊かにそれぞれの人生の役割を存分に果たして生きていける時代になるといいなと心から願っています。

　アメリカは１日の公開市場委員会（ＦＯＭＣ）で金融政策の据え置きを決めました。ＦＲＢのパウエル議長が利下げに言及しなかったことから株式市場では失望売りが広がり、株価が比較的大きく下げました。昨年の終わりごろには、今年は利上げを何回行うかを巡って思惑が錯綜していたのに、半年足らずで今度は利下げを期待するような流れは、それ以外に株価を上げる手段がなくなってきたことの裏返しなのかもしれません。
　トランプ大統領が１％の利下げに踏み切るように促しているという報道も伝わってきて、これなどは中央銀行の独立性から考えるとあってはならないことだと、ちょっと前なら由々しき事態だと報道されたと思います。でも、どうも安倍総理が２０１２年に白川前日銀総裁に圧力をかけて１か月早く辞任させ、その後の黒田総裁が異次元の金融緩和措置を実行したぐらいから、そんなことはどうでもいいことになってしまったようです。とにかく経済が好調なように見せるためには、どんな手段を取ってでも株価を上げることが各国の重要政策になってきたことが分かります。
　１０連休中に日本の相場が大変なことになるのではないかという見方も一部ではされていたようですが、連休も半ば（５月３日に執筆しています）を過ぎ、２業日を残すのみとなりましたので、連休は相場的に見れば大過なく終わったのだと思います。しばらくは、急落をすれば戻し、徐々に水準を切り上げていく相場が続くのではと思いますが、ちょっと居心地の悪さを感じる相場がこれからも続きそうな気がしています。

　ＧＷの私の勉強は、やはり経済問題が中心でした。これからの予測は今週も書かせていただきましたが、少し前に、「舩井さんの経済トピックスをいつも楽しみに読んでいますが、私の勉強不足を実感させられています。何か経済学を難しくなく学べる１冊はないですか」とメールをくださった方がいて、少し心に引っかかっていたのですが、先日ふと書店で手に取った野口真人さんの『お金はサルを進化させたか よき人生のための日常経済学』（日経ＢＰ）がとても心に残ったので、ご紹介させていただきます。
　みずほやゴールドマンサックス証券を経て、現在、企業価値評価のコンサルティングを経営されている野口さんは、ファイナンスのことをわかりやすく発信されることに定評があります。私もいつも日経ビジネスオンラインのコラムを楽しみに読んでいますが、この本でも、ごく普通の日常生活の中でのお金への思いこみ、経済への視点を日常に落とし込んで平易に解説されています。
　本書がとても素晴らしいのは「お金の正しい使い方」と、「自分への投資」についてしっかりと野口さんの視点を持って書かれていることです。「吾唯知足」の教え、これは竜安寺にある水戸光圀公から贈られたつくばいに彫られた四文字ですが、「われ、ただ足るを知る」と読みます。元々は釈尊のことばです。「足ることを知る人は心は穏やかであり、足ることを知らない人は心はいつも乱れています」と野口さんは解釈します。それぞれがお金の呪縛から自由になるために、普段どのような視座を持てばいいのか、本書の中に散りばめられていますので、すぐに活用できる日常経済学の知識と、すっきりとした精神論と両方を手に入れられる本書は有益だと思いました。お金の使い方だけではなく、人生そのもの、穏やかに、足るを知る……そんな風に新時代を生きていきたいと思います。

　蛇足ですが、人間がこれから進化するに当たって、お金をどう使いこなしていくかが大きな鍵を握っていることは間違いないと思っています。早晩、いまの中央銀行が中心になって銀行がマネーを作り出す仕組みは行き詰まり、新しい仕組みが動き出すことは間違いないと思っています。少し前までは、ビットコイン等のブロックチェーン技術を使ったフィンテックが新しいマネークリエーションの仕組みを担うのかなと思っていましたが、いまは中国で急速に普及しているスマホ決済の仕組みがデファクト・スタンダード（事実上の標準）を握るのかなと感じています。
　連休中の余裕がある間に、近未来の金融システムと人類の進化について妄想を巡らせてみようと思っています。
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