トップが語る、「いま、伝えたいこと」

　いろいろなことが起こりそうですが、当面は世の中平穏無事に収まっているようです。
　アメリカの株価は史上最高値水準で推移しています。また、アメリカが金利を下げるのではないかという見方から市場では円高説が徐々に高まっているようですが、目先の相場は膠着状態で背景には日本の財政状況の悪さや成長率の低さ、それに人口減が確実に予想されていることなど、日本が抱える問題点も意識されていて方向性が定まらないようです。
　アメリカの大統領選挙が来年に迫る中、民主党から現代金融理論（MMT）というアメリカや日本など自国建ての通貨で国債を発行できる国は、政府がいくら国債を発行しても問題がないのではないかという新論が提唱されるようになってきました。日本でも積極的に財政政策を打つべきだという一部の論客が積極的にこの考えを支持しています。私もまだ詳しくは検証していませんが、実はこの論議は結構本質をついているのではないかと思っています。
　１０月に消費税の増税が迫ってきましたが、やはりこれが景気に与える影響は大きなものがあると思います。安倍総理以降の新しい政権がこれ以上の消費税増税はしないということを明確に打ち出して、日本が抱えるいろいろな問題に対処するための新しい方向性を打ち出して欲しいなあと思っています。アベノミクスの目玉であるインフレターゲット理論と、それの具体策である異次元の金融緩和もかつてはかなりの暴論だと思われていました。
　マイルドなインフレは達成されていませんが、東京や大阪などに限られているのかもしれませんが、景気にプラスに働いている面は大きいのだと思います。
　MMTも財政ファイナンスを容認するというかなりの暴論のように思いますが、現代のように金融マーケットが発展していて、先進国がどこも一様にデフレ状態になっていることを考えれば、真剣に議論されてもいいのかなと思います。多分、残された任期で安倍総理は憲法改正に取り組むことになると思いますが、これも議論をすることもダメだというのではなく、いろいろな意見を国民を巻き込んで盛り上げていけばいいのかなと最近は思っています。

　山崎雅弘著「歴史戦と思想戦 ――歴史問題の読み解き方」（集英社新書）という本を手に取りました。著者の山崎氏は1967年生まれの戦史・紛争史研究家で日本会議の実態を明らかにして注目を浴びた方です。「従軍慰安婦はいなかった」「南京虐殺はなかった」「GHQが日本人を洗脳した」といった内容に対して本当にあったのかといった読者の疑問を、極めて論理的に検証していく内容で、内田樹、津田大介さんの推薦の帯が目立ちます。
　前述のような問題に対する中国や韓国の批判を「不当な日本攻撃」と解釈し、日本人は狼煙を上げるべきだと考える勢力のスタンスを作者は「歴史戦」と名付けています。太平洋戦争の最中、政府が掲げたプロバガンダ政策の「思想戦」が、国民を歪んだ方向に押し出した過去を、作者は憂い、同じ轍を踏まないように、歴史問題にまつわるトリックを読み解いていくというのが、この本の主な内容です。
　この作者の立ち位置はリベラルだと思います。保守、リベラルといったある意味煽りを含む対立めいた本がたくさん書店に並んでいますが、イデオロギーをそのように見るのは、少々乱暴な切り口だと思っています。この本を読むときにも心がけていましたが、本の内容を帯のまま評価しないことです。自分なりに考えを見定めていくことが大切だと思っています。流れに乗る危険さはもちろん、考えすぎて流れに逆らうのも危険だと感じます。
　考え方の針路、次元を自分なりに見定めないといけない時代になってきたのではないでしょうか。その見定めのトレーニングを積んでいくことは、これからの日本という国で生きていくための応戦力としてはとても重要なので、バランスよく読書をしていきたいと思っています。またそのような視点でオススメ本がありましたらこの欄でもご紹介したいと思っています。

　憲法改正の問題が議論されることも、トランプ大統領が日米安保条約について大阪で開催されたG20の直前にコメントしたことも、大阪からの帰りに板門店で金正恩委員長と会談したことも後から振り返れば大きな歴史の流れを作っている重大事項だったということになると私は思っています。そんな流れの中で他人の意見に流されていては、いまの世の中をうまく生きていくことはできないと思っています。保守もリベラルもどちらの考え方も学んで、バランス感覚を大事にしていきたいと個人的には思っています。
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