トップが語る、「いま、伝えたいこと」
金融マーケットは相変わらず落ち着かない動きをしています。2008年のリーマンショックやコロナ禍を乗り切るために異次元の金融緩和をして事態を打開するところまでは、過去に事例がありました。それは、1931(昭和6)年から1936(昭和11年)まで続いた高橋是清大蔵大臣が行った高橋財政です。世界で最初に本格的にケインズ政策を実行した事例として高く評価されています。
リーマンショック時のFRB議長であったバーナンキ氏は実は、高橋財政の研究者であり、ヘリコプターマネー政策(お金をばらまく政策)の専門家でした。あの時に専門家が世界の金融政策の実質的な責任者の立場にいたから、世界は金融破綻から免れたと言えるのかもしれません。しかし、高橋蔵相はインフレ懸念が強くなってきたことから引き締め政策に転じていくのですが、結果的に軍備の縮小に待ったをかけることになり、それで二・二六事件のターゲットになって暗殺されてしまいました。昭和初期の日本はそれから軍部の独裁が始まり、敗戦後のハイパーインフレに向かってまっしぐらに進んでしまうことになります。
バーナンキ議長も2013年に出口戦略(金融緩和の縮小)に舵を切ることを示唆してバーナンキショックを起こしてしまいます。このことで世界中の株価が急落し、中でも新興国の株価は暴落と言ってもいい水準まで下がってしまい、翌2014年には退任にまで追い込まれてしまいました。マクロ経済学的に言うとあのタイミングでの金融緩和の縮小が必要だったのですが、マーケットがそれを許さなかったのです。そして、その後のトランプ政権の誕生で緩和処置の継続を続けることになっていくのです。
いよいよ、昨年末ぐらいからインフレの流れが顕著になってきたことから、ようやく金融引き締めの方向に変化してきたのですが、実はこれは世界で最初に行われている壮大な実験とも言えるのだと思います。だから、マーケットは異常なぐらいにビビっている状態です。
いつ暴落が起こってもおかしくないと参加者全員が思っている状態で、それでも金融経済が実体経済よりもはるかに大きくなっている現状を考えると投資に資金を回さなければいけないジレンマから、ちょっとした情報に市場が振り回されている状態です。
確信はありませんが、ビビりながらも市場はなんとか最低限の平静さをしばらくは保てるのではないかと思います。嫌なのは、高橋財政の後始末を経済的に見ればですが、結局は戦争とハイパーインフレが強制的に解決したように、リーマンショックから14年経ったいま戦争が始まってしまいました。今回はロシアとNATOという大国同士が実際に表面に立って実質的に戦っているという面で、核戦争にまで発展してしまう懸念すら漂ってきました。早期の解決はなかなか望めない雰囲気ですが、何とか叡智を結集して危機に至る前に収めていかなければならないと思います。
今回紹介する本は珍しく小説で、真藤順丈先生の『宝島』(講談社文庫)です。暑くなってくると日本では終戦のことを考えるのが習い性になっています。今年は夏の到来がちょっと早いのですが、日中国交回復(逆に言うと台湾との外交関係の断交)や沖縄の本土復帰から50年の節目の年に当たるので、例年よりも早く戦争のことを考える季節が来たのかもしれません。沖縄のことを考えていて目についたニューズウィーク日本語版の沖縄特集に真藤先生が寄稿されていたことでこの本の存在を知ったのですが、非常に興味深い一冊でした。
本書は、簡単に言ってしまえば戦争後の米軍施政下から、日本復帰までの沖縄を舞台に描かれた小説です。当時、実際の記録を基に、そこにいた人々が何を想い、どのように生きていたのかが書かれています。定期的に米軍基地の問題などで話題になる沖縄。近年では当たり前のように日本として扱われていますが、そうではない時代もありました。私たちは多くはその時代のことを忘れ、あるいは知らずに生きていますが、実際に当時を経験したり、話を聞いて育った方々はどうでしょうか。
本土の人間として、申し訳なさというか、やや複雑な気持ちになる部分もあります。当時の沖縄の方々の気持ちを少しでも理解し、寄り添いながら歩んでいく、そんな必要性を感じています。勿論、本作は小説であり、エンターテインメントとして楽しむことができる作品です。行方不明となった英雄を巡る謎、感動的な結末、それらを興味を傾けることもできるでしょう。しかし主人公の三人の目を通じて見えてくる、七年間に及ぶ綿密な取材によって生み出されたリアルな空気感、迫力。実際に体験したわけではない私たちに現実を訴えつつ、歴史を教えてくれる。気分が悪くなる、人によっては非常に不快に感じるかもしれない生々しさ、だからこそ読む価値のある、そんな一冊です。
=以上=
2022.07.18:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】時代に挑む (※舩井勝仁執筆)
2022.07.11:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】レジリエンスと自己コントロール (※佐野浩一執筆)
2022.07.04:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】宝島 (※舩井勝仁執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |