トップが語る、「いま、伝えたいこと」

このページでは、舩井幸雄の遺志を引き継ぐ舩井勝仁と佐野浩一が、“新舩井流”をめざし、皆様に「いま、伝えたいこと」を毎週交互に語っていきます。
毎週月曜日定期更新
2025年12月22日
いまの時代に通じる千利休の残した言葉 (※佐野浩一執筆)

 幼いころ、亡き母によくNHKのお茶の番組を観せられたものでした。母は、お茶とお花の先生の資格を持っていたようで、私によく自慢していました。先生のお姿が映ると、「この方が千宗室先生やねんで」と母はなんだか鼻が高そうでした。そして、テレビを観ながら、「これはな、こんなふうにやるんやで……」といちいち先生のあとを追って、説明する母。なんとなく窮屈で、しかもなぜか正座しなければいけなかったようで、それがとってもいやでした。
 しかしながら、いまとなっては、実はお茶の世界は、ぼくの興味、関心の対象となっています。なんとなく、袱紗(ふくさ)の使い方や指先の動きなど、覚えているところがあるんですよね……。これも、母のおかげと言えるのでしょうか。
 私が、とても関心をもったのは、お点前の方法についてももちろんなのですが、現在の茶道の基礎を築いたとされる千利休のことです。なぜなら、そうだとは知らず、茶道から発したとされる名言や教えがとてつもなく多いからです。そこで、今回は、千利休の残した言葉について書かせていただこうと思いました。
 千利休は、茶の湯を芸事や社交の場という枠を超え、人の生き方そのものを映し出す精神文化へと高めた人物として、「茶聖」と称されています。利休自身は体系だった著作を残していません。でも、その思想や姿勢は、弟子たちの記録や伝記、そして数々の名言として現代にまで受け継がれてきています。それらを辿っていくと、利休が目指していたのは単なる作法の完成ではなく、「人はどう生きるべきか」という根源的な問いを、茶の湯を通して探究し続ける姿勢そのものであったことが浮かび上がってきます。
 利休は、当時の主流であった豪華さや格式を誇る茶の湯とは一線を画し、簡素で静かな世界の中に深い意味を見いだしました。その姿勢は、弟子たちとのやりとりの中にも色濃く表れています。あるとき弟子が、「どのようにすればよい茶の湯ができるのでしょうか?」と尋ねた際、利休は「夏は涼しく、冬は暖かに。炭は湯の沸くように置き、花は野にあるように生けよ」と答えたと伝えられています。この言葉は一見すると当たり前のことのようですが、そこには利休の思想が凝縮されているんですね。奇をてらうのではなく、相手の立場に立ち、自然の理にかなった心配りを尽くすことこそが、本当のもてなしであるという考え方です。これは、現在の私たちにも言えることですね。
 この考えは、後に「利休七則」としてまとめられる教えにも通じています。たとえば「先ず客の身になって亭主せよ」という心得は、単なる礼儀作法ではなく、人と向き合う際の基本姿勢を示しています。利休は弟子たちに対しても、形だけをなぞることを厳しく戒めました。道具の配置や動作を完璧に再現しても、そこに相手を思う心がなければ意味がない。そのため利休は、弟子が型にとらわれすぎていると感じたときには、あえて曖昧な言い方で答え、考えさせることもあったといいます。教えすぎず、与えすぎず、自ら気づくことを促す姿勢は、彼の教育観そのものでした。
 利休の思想を語る上で欠かせないのが、「一期一会」という言葉です。そうなんです!「一期一会」って、お茶の世界から生まれた言葉なんです。この言葉は、弟子の山上宗二が記した「山上宗二記」によって後世に伝えられました。茶会は一生に一度の出会いであるという覚悟をもって臨むべきだ、という利休の言葉は、弟子たちにとっても非常に重いものでした。同じ客、同じ亭主であっても、その日の天候、心境、場の空気は二度と同じにはなりません。だからこそ、その一瞬に全てを込める。この思想は、茶の湯の場を超えて、人と人との関係性そのものを見つめ直す視点を与えてくれます。
 また、利休は学びの姿勢として「守破離」の重要性を体現した人物でもあります。弟子の中には、早く独自性を出そうとする者もいましたが、利休はそうした態度を戒めました。まずは徹底的に型を守り、先人の知恵を身体に染み込ませること。その上で初めて、型を破る意味が生まれる。利休自身が、武野紹鷗ら先達の教えを深く学び尽くしたからこそ、「侘び茶」という新たな境地に至ったように、基礎なき革新は空虚であるという認識が、彼の中には強くありました。
 利休の名言の中には、人としての覚悟を感じさせるものも少なくありません。「頭を下げて守れるものもあれば、頭を下げる故に守れないものもある」という言葉は、その象徴的な例です。豊臣秀吉に仕え、権力の中枢に身を置きながらも、利休は自らの美意識と茶の湯の本質を曲げることはありませんでした。金の茶室に代表されるような華美な趣向を好む秀吉と、簡素と侘びを尊ぶ利休の間には、次第に埋めがたい溝が生まれていきます。それでも利休は、自分が信じるものを守るために妥協しませんでした。
 この姿勢は、弟子たちにも強い影響を与えました。利休のもとで学んだ茶人たちは、単に技法を受け継いだのではなく、何を大切に生きるのかという価値観そのものを学んだのです。利休が切腹という最期を迎えた後も、その精神が茶道の中で生き続けたのは、彼が言葉だけでなく、生き方そのもので教えを示したからだと言えるでしょう。
 さらに利休は、「茶の湯とは、ただ湯を沸かし、茶を点てて飲むばかりなることと知るべし」という趣旨の言葉も残しています。この言葉は、茶の湯を難解なもの、特別なものとして捉える心を戒めています。形式や権威に縛られるのではなく、本質は極めてシンプルなところにある。そのシンプルさを、どこまで深められるかが問われているのです。この考え方は、現代の仕事や学びにもそのまま通じます。複雑にしすぎず、本当に大切な一点に集中する姿勢は、あらゆる分野で力を発揮します。
 千利休の生き方から私たちが学べるのは、外側の成功や評価よりも、自分自身の軸をどこに置くかという問いです。人との出会いを一度きりのものとして大切にすること。学ぶときには型を尊び、しかし最終的には自分の責任で選び、決断すること。そして、何を守るために生きるのかを常に問い続けること。利休が茶の湯を通して示したこれらの姿勢は、時代を超えて、私たち一人ひとりの生き方に深く問いかけてきます。
 千利休にとって茶の湯とは、日常から切り離された特別な世界ではなく、生き方そのものを映す鏡でした。一碗の茶に心を尽くすことは、一瞬一瞬の人生に心を尽くすことと同義だったのです。利休の名言や逸話に触れることは、私たち自身が何を大切にし、どのように人と向き合い、どのような覚悟で生きるのかを、静かに見つめ直す機会を与えてくれます。その問いは今もなお色あせることなく、現代を生きる私たちの心に、深く、そして確かに響き続けています。
 素敵ですよね。いつの日か、茶室にてお茶を点てる私自身がいる気がしています。

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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長
1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。
2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了)
著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。
佐野 浩一(さの こういち)
株式会社本物研究所 代表取締役会長
ライフカラーカウンセラー認定協会 代表
公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事
あたみ・パンダの森ほいくえん 学園長
株式会社ヴォイス 代表取締役会長 他
1964年8月5日、大阪生まれ。大阪府立北野高等学校、関西学院大学法学部政治学科卒業。
大学卒業後13年間、私立中高一貫教育校の英語科教員として従事。2001年4月、株式会社船井総合研究所に入社。舩井幸雄より「人づくり法」の直伝を受け、企業幹部向け研修「人財塾」として体系化、その主幹を務め、経営者向け、社内研修向けに150回以上の講演、研修を実施した。2003年4月、株式会社本物研究所を創設し、代表取締役社長(現在会長)に就任。商品の「本物」、技術の「本物」、生き方、人づくりの「本物」を研究、開発し、広く啓もう、普及活動を行う。また、2008年にライフカラーカウンセラー認定協会を、2012 年5月には株式会社51 Dreams’Companyを、2015年9月に株式会社51コラボレーションズを設立。(2023年本物研究所と合併)さらに、2015年1月、舩井幸雄の思想、哲学を世に広めるために、公益財団法人舩井幸雄記念館を設立し、代表理事となる。2021年2月には、株式会社51メディカルを創業。そして、2022年11月、小規模保育事業B型として、「あたみ・パンダの森ほいくえん」を設立。学園長に就任。
2026年6月にヴォイスグループ5社を経営統合し、代表取締役会長に就任。現在に至る。
著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく 幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた 船井幸雄のすべて』(成甲書房)、『本物の法則』(ビジネス社)※船井幸雄との共著、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(きれい・ねっと)※舩井勝仁との共著、『幸せになる働き方の法則』(創藝社)、『舩井幸雄の魂が今語りかけてきたこと』(ヒカルランド)※矢山利彦氏、舩井勝仁氏との共著がある。
講演は、年間講演、研修多数。会社経営、学校経営、幹部育成、健康、食育、カウンセリング、話し方など、幅広いテーマで多数の講演を行っている。
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