トップが語る、「いま、伝えたいこと」

このページでは、舩井幸雄の遺志を引き継ぐ舩井勝仁と佐野浩一が、“新舩井流”をめざし、皆様に「いま、伝えたいこと」を毎週交互に語っていきます。
毎週月曜日定期更新
2026年2月23日
インフレの時代 (※舩井勝仁執筆)

 マクロに見ると右肩上がりではありますが、世界の株式市場は乱高下を繰り返しています。いろいろなことがはっきりとしない中で、材料があるとそれに基づいて大きく変動することが日常的になっているように感じます。
 いまの大きな懸念は2つあるようです。まずは、アメリカがイランを攻撃するのではないかという中東の地政学的リスクで、もうひとつはいわゆる「SaaSの死」というソフトウェアをクラウド経由で使ってもらうという流行していた業態が生成AIの台頭で不要になるのではないかという連想で、関連する会社の株価が暴落していることです。
 アンソニー・ギデンズ著『暴走する世界』(ダイヤモンド社)という原著で1999年、邦訳が2001年に出版されている名著があります。トランプ大統領が批判しているグローバリズムの行き過ぎに対する警告を最初期に発した書で、当時のイギリスのブレア首相の考え方に大きく影響を与えたと言われています。ブレア首相は労働党ですので、クリントン大統領と同様に中道左派政権なのですが、新自由主義の行き過ぎに警告を発していたという意味ではトランプ大統領と同じということが面白いと思います。
 『暴走する世界』を読み直してみて、ちょっと驚いたのはリスクという考え方は近代以降の考え方であるということです。それまでの社会は現在の価値から言えばほとんど発展をしていない社会だったので、そもそもリスクという考え方がなかったというのです。インフレの時代になって感じるのは、成功するためにはリスクを取る勇気が必要だということです。金融市場でリスクが高いということは変動率が高いということになります。これは、現代の金融の基本はデリバティブ(金融派生商品)の計算根拠になっているブラック・ショールズ方程式によって計算されていてこれは変動率を計算するもので、金融工学という考え方はこれですべてできあがっています。
 身近にあるリスクについて考えを深めておくことが、激動の時代を乗り切るためのキーワードになるのかもしれないと感じ始めています。繰り返しになりますが、インフレ時代を乗り切るためのコツはリスクを恐れずに適切にコントロールすることです。個人で言えば、株式投資をする。企業で言えば適正水準の借入をすることに躊躇しないことが大事になると思っています。

 そんな環境下で、今週紹介するのは渡辺努著『インフレの時代 賃金・物価・金利のゆくえ』(中公新書)です。著者は日銀出身のエコノミストで、ハーバード大学で博士号を取られた後、東大教授などを歴任された物価を専門とするマクロ経済学の第一人者です。2022年に出版された『物価とは何か』(講談社)を読んだ時に個人的にははじめて感覚的かつ学術的に物価のことが分かった気になりました。当時は、ここまで日本でインフレが定着するか半信半疑でしたので、いまほど真剣にインフレについて考えていたわけではないのですが、簡単に言うと多くの人がインフレになると思うことがインフレなんだということがわかったのは大きな収穫だったと思っています。
 コロナ禍以前の日本は、インフレやデフレと言っても本当に身近な生活への実感は少ない国でした。しかしここ数年、生活として実感できる範囲、食料品や日用品などにもインフレの波が到達するようになり、全国民がそれを実感し、意識している時代であると言っても過言ではありません。これらの大多数の方にとって強い関心ごとであるインフレについて、専門家が解説する内容になっています。
 個別に見ると、インフレ社会では賃上げは必須的なことですが、全体的に見ると賃上げ傾向が加速することが最も大きなインフレを増大させる要因になります。インフレ率はまだ3%前後の許容範囲なので、日銀もそれほど明確にインフレファイターになっていませんが、これが止まらなくなってくると景気を冷やして賃下げを実現するために金利を極端に上げていく政策を採らざるを得ないようになります。それは避けたいので、いまの日銀は政権与党とも上手く妥協しながら、賃上げによる景気刺激も許容しながら、なるべくインフレ傾向がマイルドになるように金融政策を考えている状況にあるのだと感じます。
 本書では、どのようにしていまのインフレ状態にたどり着いたのか、現状はどのような状態であるのか、これから先の未来はどうなっていくのか、詳しく解説されており、現代の社会の流れを知るためには必読の一冊であると言っても、決して過言ではないでしょう。ただ、筆者が序章で描かれている通り、2022年以降の日本でもインフレ傾向が明らかになってきた当時のエッセイをそれほど手直しすることなしに再掲されているので、当たっていない事も目立ちますが、それだけ物価を考えることの難しさを示しているのではないかと楽しく読めました。
 インフレ自体、その予兆自体は『物価とは何か』の時点から存在したようです。日本では市民レベルではデフレの方が歓迎される傾向にありますが、インフレの必要性はかなり以前から叫ばれていました。筆者も、インフレは日本経済にとっていいことだと言い切っておられます。そして実際に潜在的にそれは進行していましたが、顕在化することはなかったというのが現実であり、それがいきなり吹き出した結果、現状のような急激な物価の上昇に繋がった側面もあるようです。
 新書という形式上、専門的でありながらも読みやすい内容ともなっており、世間的に大きな話題となり、象徴的な事象として取り上げられる日本を代表する主食である米の高騰についても、本書ではしっかりと触れられています。これにも様々な要因があったと分析されており、乱暴に一括りにされていないのは個人的に有り難く感じます。インフレは短期的には生活に悪影響を及ぼし、忌避されがちではあるのですが、長期的に見れば、現在の社会構造では間違いなく必要なことだと感じています。政治家やマスコミの発信している情報の背景にある経済学的な見方を簡単に掴める素晴らしい内容になっていると感じています。
                     =以上=

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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長
1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。
2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了)
著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。
佐野 浩一(さの こういち)
株式会社本物研究所 代表取締役会長
公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事
ライフカラーカウンセラー認定協会 代表
1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。
著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。
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