ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測

このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。

2024.04.01(第122回)
中国経済の背後で起こる構造的な転換

 この数年ほど、中国経済の悪化を伝えるニュースが連日のようの報道されている。
 これまで中国の高い経済成長をけん引してきた不動産バブルが崩壊し、ひどい状況になっている。不動産市場の暴落による不動産会社の倒産ラッシュは他の産業分野にも波及し、経済の減速が顕著になっている。最近開催された「全人代」で李強首相は、5%前後の成長目標を掲げたが、達成は容易ではないことを認めた。賃金の未払いへの抗議は全国で見られるようになり、また中国からアメリカに亡命する中国の不法移民もここ数年で激増している。日本のメディアでは、中国は終わったとの報道が多くなっている。
 たしかに中国経済の現状は厳しい。すでに周知だろうが、なぜ中国経済が失速しているのか、簡単に振り返って見よう。

●中国不動産バブル崩壊の経緯
 2013年に就任した習近平政権は、2002年から2012年まで続いた胡錦涛政権から、不動産投資の拡大で成長する中国経済の成長モデルを引き継いだ。
 周知のように中国では、土地の所有権は地方政府に属し、私有は認められていない。国有地である。一方土地の使用権の売買は認められているので、マンションや住宅の販売が活発になると、その使用権販売の収入は地方政府に入る仕組みになっている。このため、不動産開発が盛んになればなるほど、地方政府の財政も豊かになる構造になっている。
 地方政府は毎年8%程度の高成長に後押しされた不動産開発投資の波に乗り、「地方融資平台」という投資会社を作り、債権の発行や銀行からの融資などで資金を集め、不動産開発を行った。このため不動産開発は活況を呈し、中国のGDPの約40%も占める巨大産業に成長した。また一般の不動産会社も銀行からの低利の融資を受け、積極的に開発を行った。

 しかし、投資目的の不動産購入が増えたため、マンションや住宅価格は急騰し、一般の国民が買える水準よりもはるかに高くなった。また、不動産投資で大儲けする富裕層も生まれ、社会格差はさらに拡大する結果になった。
 2019年、不動産バブルのコントロールの効かない崩壊を懸念し、また社会格差の拡大に脅威を感じて「共同富裕」を理念に掲げた習近平政権は、不動産部門に対する大規模な規制に乗り出した。銀行の利子率を引き上げ、また「3つのレッドライン」を定めて「地方融資平台」を含めた不動産産業に総量規制を実施し、金融機関からの資金の流入を止めた。また、住宅ローンに必要な頭金の最低額も引き上げ、以前のように簡単に不動産を買えないように規制した。

 この効果はすぐに現れた。中国の大都市を中心に不動産バブルは崩壊し、不動産市場は暴落した。また「地方融資平台」の破綻も相次ぎ、これの実質的な融資の保証先であった地方政府の財政状況も悪化した。不動産開発で得られる土地使用権の収入が激減したからである。地方政府の債務残高は1100兆円にもなり、返済が不可能でデフォルトする政府も出る始末だ。
 さらに、不動産部門に融資をしていた銀行は大量の不良債権を抱えて経営が悪化したので、他の産業への融資も困難になった。また、不動産部門は中国のGDPの40%も占めるので、その崩壊による負の波及効果は絶大だった。

●不況下の中国経済の背後で進む構造転換
 こうした状況がいまの中国経済だ。
 不動産バブルの崩壊は市場の動きの結果、自然に起こったものではない。
 習近平政権が導入した総量規制(不動産部門に流れる資金の規制)による人為的な崩壊である。このため、いまの不況は習近平不況と呼ばれている。そして日本のメディアでは、格差の少ない「共同富裕」の社会の実現を自らの功績にしたい習近平個人の野心が引き起こした状況だとして、中国を揶揄する報道がほとんどだ。
 しかしこれは、現在中国が大規模な構造転換の過程にあり、この転換が終了すると中国は新たな成長の軌道に乗る可能性が高いことを示す事実も実は多い。

 1月のコラムで、「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」の報告書、「重要技術競争をリードするのは誰か」の衝撃の調査結果を紹介した。
 それによると、中国は、重要な最先端技術分野の大半において圧倒的に進んでおり、世界最先端の科学技術大国となるための基盤を構築している。
 44の最先端分野のうちアメリカが首位なのは7分野だけで、それ以外の37分野では中国が首位だった。ちなみに、日本がリードしている分野はゼロである。特に10の分野では中国の科学技術が他国の追随を許さず、この分野の製品の供給は、すべて中国が独占していた。
 これを支えているのが、中国政府の科学技術への支援方針である。
 昨年9月、習近平は初めて「新しい生産力」の構築という考えを提起した。「新生産力」という言葉は、科学技術のイノベーションを活用して新産業を創出し、国の経済発展を加速させるという中国の計画を指す。
 習近平は今年2月1日、「新生産力とは、伝統的な経済成長モードや生産性発展路線から解放され、ハイテク、高効率、高品質を特徴とし、新たな発展理念に沿った高度な生産性を意味する」と述べた。
「国家情報センター」の上級エコノミスト、余鳳霞は政府のサイトで、新たな生産力を実現する唯一の方法は、中国の国民全体の努力でコア技術をブレークスルーさせることだとした。基礎的な部品、材料、ソフトウェア、ハイエンド半導体、産業用ソフトウェアを生産する国内の部門、特に外国の抑圧に直面している産業を更新するために、先端技術への投資を増やすべきだと言う。
 中国は人工知能、インターネットのメタバースと、ヒューマノイド・ロボットやブレイン・コンピューター・インターフェイスの製造に従事する自国のテクノロジー企業や研究機関を育成すべきだともした。さらに中国は、AI、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータを活用して、先進製造業の競争力を高めるべきだと付け加えた。
 すでに中国は、44の最先端分野のうち37分野で世界をリードする圧倒的な優位性を示しているが、さらに中国は、「新生産力」の開発を柱にした成長のモデルに転換しようとしていると見て間違いないだろう。
 いま中国経済は厳しい時期にある。それは習近平による不動産バブルの意図的な破壊の結果であるが、それを行ったのは習近平の個人的な野心なのではなく、新しい成長モデルへの大規模な構造転換を目標にしたからだろう。GDPの40%が不動産部門に依存する経済は明らかに健全ではない。この不健全な構造を、最先端テクノロジーの開発と、それによる新製品の生産という方向に舵を切るためには、相当な犠牲を覚悟したのだと思う。

●中国の貿易構造の変化
 こうした構造転換の効果はすでにいくつかの分野に顕著に現れている。その一つが、貿易である。まずは以下の表を見てもらいたい。2024年1月から2月の中国の先進国への輸出入の前年同月比である。単位は%だ。



 
輸出
輸入
  合計
10.30
6.70
  EU
1.6
-6.80
  米国
8.10
-7.00
  日本
-7.00
-2.50
  豪州
-4.80
2.20
  韓国
-6.80
12.30
  台湾
7.70
12.00


 これを見ると分かるが、台湾を除くと、中国の先進国への輸出入は相対的に減少する傾向にある。これが中国経済が減速している証左だとする意見もあるが、実はそうではない。
 次はBRICSとグローバルサウスの国々だ。


       
   
輸出
輸入
  アセアン
9.20
6.60
  ロシア
15.50
9.90
  インド
16.20
39.30
  中南米
24.10
11.30
  アフリカ
24.40
7.90
  南ア
-10.90
14.80
   (出典:中国税関)

 最大の伸びを記録したのは、BRICSメンバーのインド(16%増)、ブラジル(37.1%増)、南アフリカ(14.8%増)、そしてベトナム(28.4%増)とインドネシア(22.2%増)であった。
 2022年後半から2023年にかけて、中国のグローバルサウスに対する輸出は、すべての先進国市場向け輸出を上回った。1-2月期の速報データは、この傾向が加速していることを示している。中国の「一帯一路」構想や民間チャネルを通じたグローバルサウスへの対外投資は、この成功の一端を説明している。アジア太平洋地域への中国の対外投資は、2023年中に37%増の200億ドルに急増した。
 この増加の背景にあるのは、電気通信機器、ソーラーパネル、とりわけエレクトロニクスを含む最先端の主要産業のサプライチェーンを中国が実質的に支配していることだ。「再シェアリング」と「友好的シェアリング」というスローガンを合言葉にして、メキシコ、インド、ベトナムをはじめとする第三国を経由する中国貿易が増加しているのだ。「IMF」のエコノミストや「世界銀行」、「ピーターソン研究所」、「国際決済銀行(BIS)」の研究者らによる最近の研究でも、この結果は確認されている。「国際決済銀行(BIS)」のレポートには次のようにある。

「中国のサプライチェーンには、他の地域の企業が組み込まれている。組み込まれている企業の多くはアジア太平洋地域の企業だ。これらの企業の輸出先はアメリカである。だから、アメリカがアジア太平洋諸国の国から輸入しても、実質的には中国から輸入しているのだ」
 つまり中国は、半完成品や部品を第三国に出荷し、最終的に組み立てて第三国経由で先進国に再輸出しているのだ。また、「世界銀行」のエコノミストは次のように言っている。
「米国の中国からの輸入は、発展途上国からの輸入に取って代わられている。しかし、中国に取って代わる国々は、中国のサプライチェーンに深く組み込まれている傾向があり、特に発展途上国では、最先端の戦略的産業において、中国からの輸入の伸びが加速している。別の言い方をすれば、輸出面で中国に取って代わるためには、各国が中国のサプライチェーンを受け入れる必要があるということだ」

 つまり、これはどういうことかというと、中国企業は戦略的に重要な最先端の産業では、BRICSやアセアン、そしてグローバルサウスの国々に組み立て工場などの生産拠点などを設置し、世界的なサプライチェーンを構築しているということだ。このグローバルなサプライチェーンは、先端的なテクノロジー分野、再生可能エネルギー、グリーンエネルギー、電気自動車、あらゆるタイプのデジタル産業を対象にしている。
 このようなグローバルなサプライチェーンの構築の動きは、中国の対外投資の急増として現れている。2023年だけでも、中国からアジア太平洋地域への対外直接投資は37%急増し、200億ドル近くに達した。この投資は、海外での成長を目指す中国企業が、アジアから欧米、ラテンアメリカに至るまで、いかにグローバルなサプライチェーンを変化させているかを物語っている。
 香港の大手銀行、「HSBC」の調査によると、中国企業の対外投資は、年間フローは50%以上増加し、現在から2028年の間に少なくとも1兆4000億ドルが海外に投資される可能性があるとしている。

●先端的テクノロジーの優位性が基盤の成長構造
 さて、これらの動きを見るとはっきりするが、中国は不動産部門のバブル的な拡大に依存した不健全なモデルから、中国が技術的に優位性がある先端的テクノロジーを基盤にした産業分野のグローバルなサプライチェーンを新たに構築し、開放的な世界経済のネットワークを形成することで成長するモデルを追求しているようだ。
 中国経済は厳しい状況にある。この厳しさは、経済の大規模な構造転換を実現するためには避けて通ることのできない道だ。
 ただ、この困難な状況を乗り越えると、その先には先端技術を基盤にしたさまざまな産業のグローバルなサプライチェーンがけん引する新たな成長モデルがあるに違いない。整理と刷新の期間はあと3年は続くと思われる。その後には、新たなモデルで成長する中国が出現する可能性が高い。
 残念ながら日本のメディアと中国専門家は、過去30年の間、中国崩壊論を主張し、すべての予測と観測を外してきた歴史がある。今回も、中国の不動産バブルの崩壊と、それがもたらしているマイナスの余波に目を奪われ、その背後で展開しているダイナミックな構造転換を見失うと、また同じ間違いを繰り返すことになるだろう。
 これがメディアとそこに出演する専門家だけであればよい。だが、意思決定を行う政治家が同じような見方をしていると、日本が大変なしっぺ返しを受けることにもなる。こうしたミスだけは避けなければならない。

*  *  *  *  *  *  *  *  *

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 コロナのパンデミックは収まっているが、やはり大人数での勉強会の開催には用心が必要だ。今月の勉強会も、ダウンロードして見ることのできる録画ビデオでの配信となる。ご了承いただきたい。

 【主な内容】
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 ・中東大戦争のリスクを評価する
 ・イスラエルが引き金を引いたハルマゲドン
 ・2024年5月に日本の食料危機はあるか?
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Profile:高島 康司(たかしま やすし)
高島 康司(たかしま やすし)

社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
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★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/

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