トップが語る、「いま、伝えたいこと」

このページでは、舩井幸雄の遺志を引き継ぐ舩井勝仁と佐野浩一が、“新舩井流”をめざし、皆様に「いま、伝えたいこと」を毎週交互に語っていきます。
毎週月曜日定期更新
2023年2月27日
抜擢の意味 (※舩井勝仁執筆)

 総務省が2月24日に発表した消費者物価指数(CPI)は前年同月比で4.2%の上昇となり、1981年9月以来の上昇率になりました。1981年というと私はまだ高校生でした。来年還暦を迎える私の高校生のとき以来ということは、いまの現役層の大半の人にとってインフレを初めて実感を持って体感しているということになるのだと思います。新聞などでは円安資源高が原因だと解説されていますが、経営者の方と話している実感では、経営者マインドとして、いま値上げをしなければやっていけなくなるという危機感が物価高の背景にはあるような気がします。
 日本の物価は安すぎるというのは海外に行ったときに感じる実感です。24日は新しい日銀総裁にほぼ決定している植田和男氏の所信聴取も行われました。国会で人事承認をするためのものなので、市場にインパクトを与えるような発言はないだろうという市場の見方通りの内容で、金曜日午前中の日経平均は好感して上げています。4月の就任以降に経済学者である植田日銀がどのような政策を取っていくのかが明らかになってくると、インフレがこれからも進んでいくのかどうかを見極められるようになるのだと思います。
 黒田総裁は近年の日銀総裁としては、はじめて日本経済の大きな方向転換を可能にした政策を実行できた総裁だったと思っています。ただ、任期末になって欧米の中央銀行が引き締めの方向に明確に舵を切ったのに対して、日銀はそれに頑なに抵抗している状態です。植田次期総裁が黒田総裁の路線を引き継ぐのか、欧米の路線に従って、日本も引き締め政策に転換するのかを、市場は固唾を飲んで見守っている状態です。日銀の最も大事な役割は物価の安定であり、すなわちインフレ・ファイターであるという原点にどこまで立ち返えるべきかという議論になります。

 そういう意味では消費者物価指数(CPI)の数値はこれからの金融政策を決定していく上でカギを握るということになると思います。1月は季節要素もあるので、2月のCPIは1月ほど高くならないのではないかという見方が流れていますが、短期的な数字に右往左往するのではなく、今年の前半か、もしかしたら新総裁が就任されてから半年ぐらいの推移を見守りながら政策が決まっていくのではないかと思います。日経新聞を読んでいますと、一方では日本の株価を上げたいという意向も見え隠れしますので、それぞれの相場観を楽しみながら作っていくといいのかなと思っています。

 今回紹介する本は、曽山哲人著『若手育成の教科書――サイバーエージェント式 人が育つ「抜擢メソッド」』(ダイヤモンド社)です。曽山氏はサイバーエージェントの常務執行役員CHO(最高人事責任者)を務めている方です。デジタル方面で圧倒的な影響力を持つサイバーエージェント。日本では貴重な世界で通用するIT企業のひとつであり、一般的にも関連会社のネットテレビやソーシャルゲームなどで高い知名度を誇っています。私もなぜ同社が現実的でありながら、圧倒的にデジタル分野で強みを発揮しているかの原因を知りたいと思っていたのですが、本書を読んで人事戦略が強みの背景のひとつであることがよくわかりました。
 サイバーエージェントが成功を収めてきた秘訣は、有望な若手社員を多く輩出し、若くして多くのグループ会社の社長として活躍している部分にもあります。曽山氏はその為に必要な人事の仕組みを築いてこられた方であり、本書はそのノウハウの一部を知ることができます。少し深読みをしてみると、同社は健全なライバル会社の出現を願っていて、あえて同社のノウハウをわかりやすい形でオープンにしているのかなという気もします。日本のデジタル業界全体のレベルアップを図ることが同社にとって有利なエコシステム(生態系:従来の考え方で言うと業界秩序)を形成していく上で必須事項と考えているのかもしれません。
 対応が難しくもあります。やや受動的であり、能力を生かしきれていない若者のモチベーションを高める方法として、タイトルにもある抜擢は非常に有効なようです。もちろん、ただ抜擢をすればいいというわけではありません。きちんと過程を踏みながら、実行していく必要があります。基本は『言わせて、やらせる』、という部分が重要であり、抜擢をしたい若手にこちらから指示を出すのではなく、誘導しつつ、自ら考えて主張させる方向へ誘導するための投げかけをおこなうというのが重要で、コミュニケーションを取り、インプットとアウトプットを繰り返しながら成長を促し、自信を持たせ、何かを任せられる人材をとして育成していくのです。
 また、実行する為にも、挑戦をしやすい、失敗を必要な経験だとポジティブに解釈できる環境づくりも欠かせないようです。抜擢をすると言っても、本人のやる気がなくては意味がありません。それを引き出すためにも、風通し良くして意見を述べやすい環境を構築して、失敗を恐れ消極的にさせないよう、セカンドチャンスを与えるという姿勢を持つ必要があります。それらの為に必要な方法が、様々載っていますが、結局必要なのは、コミュニケーションという事のようです。
 一方的ではない、双方向的なやり取りを重ねていき、信頼関係を築く。そこから生まれていく、それが若手を生かすのに必要な事なのではないでしょうか。デジタル産業でなくても、大変参考になる内容なので企業のマネジメントに携わる方にはぜひ読んでいただきたいと思います。
                           =以上=

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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長
1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。
2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了)
著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。
佐野 浩一(さの こういち)
株式会社本物研究所 代表取締役社長
株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長
公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事
ライフカラーカウンセラー認定協会 代表
1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。
著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。
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