中村陽子の都会にいても自給自足生活

このページは、認定NPO法人「メダカのがっこう」 理事長の中村陽子さんによるコラムページです。
舩井幸雄は生前、中村陽子さんの活動を大変応援していました。

2023.02.20(第100回)
「大地の再生」実践マニュアル

 2023年1月に、待望の「「大地の再生」実践マニュアル」という本が農山漁村文化協会から出ました。
 昨年来「杜人」という映画でロングランで人気を博した矢野智徳さんの著書です。

 矢野さんとは10年ほど前、田んぼでお会いし、草刈り鎌による風の草刈りで地中の滞っているヘドロ化した部分を解消したり、移植ゴテ1本で、地表の水の流れ空気の流れを変え、水浸し道を直してしまう道普請にびっくりし、船井の雑誌に「地球の庭師」として紹介したことがあります。それ以来、いつか本を出してくれないかと、ずっと願っていたのが叶いました。

 本のカバーにある矢野さんの言葉を紹介しましょう。
「環境再生の手がかりは、雨と風の動きを丹念に追うこと。雨が降っているとき観察すると、水と空気の動きが良くわかる。自然地形やそこにある構造物、ものの間をすり抜けていく水と空気を読む。地上と地下で滞っているところを探す。そこを再生していく。人目線から外れ、自然目線で探っていくと見えてくる」

 大地の再生、7つの手法も紹介してあります。
@「風の草刈り」…基本は高刈り、地ぎわ切りは一部だけ A「風の剪定」…自然樹形に戻す、風通しのために切る B小さな水切りが与える変化…表層5cmの水脈と空気流に着目 C水脈溝と「点穴」は地下部施行の核心部…荒療治にはコルゲート管を D抵抗作と植栽土木…荒れた里山は有機資材の宝庫 E沢や水路の再創造…流路をつくり泥アクを流域に分散、浸透させる F仕上げはグランドカバー…炭の効用と枝葉のフィルター
 初めての方には、これだけでは何のことか分からないと思いますが、地下が見えるらしい矢野さんに魅了され、追っかけをしていた私には、端的に教えてくれる言葉です。

 この本のもう一つの魅力は、大内正伸さんのイラストと写真です。実践し理解している人でなければ描けない見事なものです。手元に置いておくバイブルにして下さい。

 さて、今日は、この本には載っていない現代の土木工法の問題点が噴き出した例をご紹介します。
 2013年、伊豆大島で台風26号による土砂災害が起きた2日後、私は矢野さんに呼ばれて伊豆大島に行きました。そこで、コンクリート構造物(主に砂防ダム)が、山から丘陵地に向かう斜面の水と空気の吹き出し口を遮断していたことが、この時の土砂災害の原因であることを確認しました。以下の土石流発生エリア内における主要水脈上のコンクリート構造物の分布や大きさと、土石流の規模の大きさの様子をご覧ください。

伊豆大島
 土砂災害が起きる理由を説明します。山から丘陵地に出る部分は、地球からの空気と水が噴き出すところです。いつも谷に吹いている沢風がそれにあたります。伊豆大島では、その谷が合流する部分に溶岩流対策の砂防ダムが造られています。この部分は山からの空気と水が一番噴き出す部分です。ここをコンクリートの壁(砂防ダム)で塞いでしまうと、壁に閉じ込められた空気と水が有機ガスとヘドロとなって山の斜面を上に広がっていき、大量の雨が降っても浸透できず、表層がぶわぶわになって剥がれ落ちたと考えられます。またこの閉じ込められた有機ガスとヘドロはアク溜まりとなり、斜面の木々の根を傷め、山全体を弱らせていたと推測されます。

 以上が、私が大地の再生の意味を芯から理解した体験です。鉄骨とコンクリート主流の現代工法が、いかに地球の表層の自然を傷め、息の根を止めているか、人間でいえば、身体のあちらこちらの血管を堰き止められ詰まらされ、その先が壊死していくのと同じです。土木工法とは、土と木を使い、大地の水脈や空気の流れ(呼吸)を止めないでその土地を便利に使わせていただく工法なのです。

 この「大地の再生」実践マニュアルは、すでに作ってしまったコンクリート構造物を壊すことなく、鎌と移植ゴテと、溝堀りと天穴掘りで、大地の健康を取り戻していく手法です。次世代に良き大地を残すのが私たち大人の責任だと思うと、これは必修科目です。日本の大人よ、これをバイブルにしてがんばりましょう!

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Profile:中村 陽子(なかむら ようこ)
中村 陽子(なかむら ようこ)
首のタオルにシュレーゲル青ガエルが
いるので、とてもうれしそうな顔を
してい ます。

1953年東京生まれ。武蔵野市在住。母、夫の3人家族。3人の子どもはすべて独立、孫は3人。 長男の不登校を機に1994年「登校拒否の子供たちの進路を考える研究会」の事務局長。母の病気を機に1996年から海のミネラル研究会主宰、随時、講演会主催。2001年、瑞穂(みずほ)の国の自然再生を可能にする、“薬を使わず生きものに配慮した田んぼ=草も虫も人もみんなが元氣に生きられる田んぼ”に魅せられて「NPO法人 メダカのがっこう」設立。理事長に就任。2007年神田神保町に、食から日本人の心身を立て直すため、原料から無農薬・無添加で、肉、卵、乳製品、砂糖を使わないお米中心のお食事が食べられる「お米ダイニング」というメダカのがっこうのショールームを開く。自給自足くらぶ実践編で、米、味噌、醤油、梅干し、たくあん、オイル」を手造りし、「都会に居ても自給自足生活」の二重生活を提案。神田神保町のお米ダイニングでは毎週水曜と土曜に自給自足くらぶの教室を開催。生きる力アップを提供。2014年、NPO法人メダカのがっこうが東京都の認定NPO法人に承認される。「いのちを大切にする農家と手を結んで、生きる環境と食糧に困らない日本を子や孫に残せるような先祖になる」というのが目標である。尊敬する人は、風の谷のナウシカ。怒りで真っ赤になったオームの目が、一つの命を群れに返すことで怒りが消え、大地との絆を取り戻すシーンを胸に秘め、焦らず迷わずに1つ1つの命が生きていける環境を取り戻していく覚悟である。
★認定NPO法人メダカのがっこうHP: http://npomedaka.net/

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