トップが語る、「いま、伝えたいこと」

このページでは、舩井幸雄の遺志を引き継ぐ舩井勝仁と佐野浩一が、“新舩井流”をめざし、皆様に「いま、伝えたいこと」を毎週交互に語っていきます。
毎週月曜日定期更新
2021年1月25日
経済と幸せについて (※佐野浩一執筆)

 個々の富を拡大し、経済の成長を実現することで、人は幸福になれると考えてきた私たち。あたりまえにそう考えてきたのですが、いまの時代は、ずいぶん異なった様相に感じます。フランス人経済学者のダニエル・コーエンは、「そのような経済成長が起きるのは歴史においてもごく短い期間だ」と説明します。
 基本的には、人の幸せとは「周りとの関係」から生まれるのだそうです。簡単に言うと、ヒトは社会で生きることをとてつもなく切望する動物なのです。ですから、人にとっての成功とは、何か絶対的な基準があるわけではなく、つねにほかの人と比較してのことなのです。ですから、むしろ問うべきなのは、なぜ資本主義の世界では、このような他人と自分の比較が、「お金」という尺度だけに集中するのか、ということなのです。
 どうやら、人は豊かさの絶対量で幸福になったり、不幸になったりするわけではなさそうです。豊かさの絶対量ではなく、暮らしが豊かになっていく過程が幸福をもたらすと言ってよいと思います。コロナ以前、ビジネスでよくアジアの国々を訪問しました。中国はもちろんのこと、シンガポールもインドネシアもタイも、出会う人皆が元気でイキイキしていたように記憶しています。経済成長が幸福をもたらしていると確信できるかのように……。
 逆に言うと、ある程度貧しくても経済が成長している国で暮らすほうが、それなりに豊かでも経済が停滞している国で暮らすより幸せだったりするということが言えそうです。しかし、いったん経済が停滞してしまうと、自分もいずれは豊かになれるという希望が持てなくなります。故舩井幸雄は、よく講演や著書のなかで、「希望付き夢を持て!」「未来はきっとよくなる!」と伝え続けましたが、おそらく舩井は、このことを知っていたからだと思います。
 将来への希望が持てなくなると、人は強い不満を覚え、生きづらさを感じるようになり、社会内の緊張が高まります。歴史上、経済成長が1人当たりの富を増やした時代は産業革命以降の比較的短い時期に限られると指摘されています。これからは1人当たりの所得が増えない時代が来る可能性が大きいと考えざるを得ません。
 そもそも、1人当たりの所得が増えていくという意味での経済成長には200〜250年ほどの歴史しかありません。それ以前の世界は農業が中心であり、人が所得を増やすことはほとんどありませんでした。それには、「マルサスの法則」というものが働いていたからだと知りました。生産の劇的な向上を生んだところで、同時に人口も膨らむので、1人あたりの所得は増えない……。まるで、万有引力のようなチカラに支配されていたということです。
 産業革命で経済が大きく変化した結果、人類はマルサスの法則から逃れられてきました。しかし、地球温暖化で、また人口の量が所得の水準に影響する時代、世界の有限性を考えなければならない時代になる可能性は大いにあります。そこに、今度は「イースタリンの逆説」という、別の法則に支配されるようになったのだそうです。それは、「豊かさだけでは人は幸福になれず、社会内の緊張を緩和させるには経済成長が必要だった」というものです。 マルサスの法則とイースタリンの逆説は、どちらも私たちの暮らし全体を支配する法則だったのに、私たちはいずれの法則も理解できていなかったようです。農業が中心だった時代、人はマルサスの法則を理解できていませんでした。いまも経済成長が無駄だと言っても、それを認めようとしない人がほとんどです。経済成長こそ進歩だと信じきっているからです。でも、進歩の部分はほんの一部分に過ぎず、大部分は社会の疲弊やエネルギーの無駄遣いだという可能性もあるのです。何千年もの間、人類の前には人口の問題が立ちはだかっていたわけですが、人類はその問題を理解できていませんでした。この200〜250年ほど、人類がぶつかっている問題は、豊かさだけでは社会内の緊張を緩和できないというものなのですが、人類はその問題もしっかり理解できていないということなのかもしれません。
 そこに、新型コロナウイルスのパンデミックが、私たちにのしかかってきています。いよいよ、そうした経済と幸せの両面を回す大きな「仕掛け」が必要に思えて仕方がありません。そんな折、「ベーシックインカム(普遍的基礎所得)」導入への関心が、いま世界中で高まってきています。
 日本でも国民への生活支援で一律10万円の直接給付が行われたことや、菅新政権の経済政策のアドバイザー役の竹中平蔵氏が成長戦略会議で提唱したことで改めて注目が集まっています。
 その描く姿は論者によってさまざまで、給付額や既存の所得保障やサービスをどこまで代替するのかでも大きく違ってきます。この点は、友人である佐々木重人さんが自らの目で海外の動きを見つめ、ダイレクトデモクラシーの実現とベーシックインカムの導入の両輪を日本で走らせるべく活動をされていますので、彼の論調にもぜひ触れていただきたいと思います。
 ベーシックインカムというのは社会の全構成員に1人月額3万円あるいは5万円といった金額を無条件で恒常的に給付する制度です。うまく制度設計できれば、人々はこれまで以上に仕事を選ぶことができるようになります。失業しても家族でベーシックインカムを持ち寄れば一定期間はなんとか暮らせます。またさまざまな経済的ショックや自然災害といったリスクに対応する点でも即効性があると考えられます。
 コロナ禍で特に注目されたのは、経済的被害を受けた人々の多くが失業保険や生活保護といった従来の制度ではうまく救済されないためです。たとえば、営業自粛や営業時間短縮で打撃を受けたサービス関連で働く人たちは、働く日数や給料、売り上げが激減しているという状況なので対象となりません。また生活保護は、働く能力がない、まとまった貯蓄や家、自動車などの資産もない、助けてくれる近親者もいないなど、さまざまな条件をクリアする必要がありますが、コロナで打撃を受けた人たちはこれにも該当しません。自営業で倒産した業者は失業保険にすら入っていない事例が多く、持続化給付金のようなものは手続きがあまりに煩雑で時間がかかります。必然的にそれら以外の救済策が必要となるのです。
 欧州では、コロナ危機の下でスペイン、イタリア、アイルランドなどがベーシックインカムの導入に積極的です。これらの国々は欧州各国のなかでも比較的経済力が弱く社会保障の機能も弱く、これまでも野党勢力を中心にベーシックインカムを求める声が強くありました。その野党の一部がこの間、政権に加わっていたタイミングでコロナ不況が起こり、ベーシックインカムが一気に政策の俎上に載ったという経緯があります。
 日本でもコロナ不況で緊急性は高まりましたが、コロナ以前から多くの人が低所得にあえぎ、また高齢化が進むなかで、老後の年金だけで暮らせないという不安が広がっています。
 確かに最低賃金を上げられればよいのですが、そうすると労務費率が高く、賃金水準が最低賃金と密接に関わる中小零細企業は立ち行かなくなります。最低賃金の引き上げは、低所得中小零細事業者から低所得労働者への水平的な所得移動という性格が強いわけです。
 一方、ベーシックインカムでは、賃金の一部を税収を通じて社会が給付する形を取るため、その問題は回避できます。今の社会状況を慎重に鑑みれば、今こそベーシックインカムの導入に進むべきだと考えています。
 ともかく、現代は、ずっとみんなが「超特急」に乗車して、なおかつその車内でもダッシュしてきたような時代だったと思います。物質的に豊かで治安も良好な日本ですが、個々の人生において「今がとても幸せ」と感じている人はそう多くはありません。コロナ禍で、より一層そのことは鮮明になったように感じます。少し……というか、もっともっとスピードを落として、デンマークの「ヒュッゲ」に倣った幸福度の高い暮らしができる時代にできたらと思います。そんななかで、経済と幸せについて書こうと考え、そのためには「ベーシックインカム」に触れなければいけないと思ったのです。
                                    感謝

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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長
1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。
2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けている。
著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。
佐野 浩一(さの こういち)
株式会社本物研究所 代表取締役社長
株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長
公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事
ライフカラーカウンセラー認定協会 代表
1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。
著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。
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