トップが語る、「いま、伝えたいこと」

このページでは、舩井幸雄の遺志を引き継ぐ舩井勝仁と佐野浩一が、“新舩井流”をめざし、皆様に「いま、伝えたいこと」を毎週交互に語っていきます。
毎週月曜日定期更新
2022年6月13日
自己肯定感、低くて何が悪い!? (※佐野浩一執筆)

 近年、心理学の分野において、自己肯定感に関する研究が急激に進んでいます。書店にもやたら自己肯定感をテーマにした書物が数多く並んでいます。たしかに、自己肯定感は低いよりは高いほうがよいこともあるのですが、日本人がどちらかというと低く、なおかつ不安傾向が強いことの原因は、どうやら遺伝子にあるということもわかってきました。
 コロナ禍が続くなか、自己肯定感が低いことを悩んでいる人が増えてきているようです。書物のなかには、自己肯定感を一瞬で高める方法などが記されたものもあり、カウンセラー育成にあたる立場としては、少々複雑な思いもあります。 
 アスリートをはじめとして、「自分はこれで大丈夫」「自分はできる」「そのままの自分でよい」などと自己暗示をかける方法論を活用している人も少なくありません。ただ、日ごろからメンタルトレーニングに取り組み、その土台がある人にとっては有効だと思います。しかし、一般の私たちにとっては、一時的には有効かもしれませんが、砂上の楼閣のようにも感じてしまいます。それよりも、何かに真剣に取り組み続け、試行錯誤し、失敗を積み重ね、そこから得られた成果こそが、自信の裏打ちとなり、自己肯定感の醸成につながるように思えるのです。
 また、かつて舩井幸雄も、「思いは実現する」とたびたび申しておりました。しかも、「より鮮明にイメージできれば、実現可能性は高まる」と……。たしかに、多くの成功した経営者や偉人たちが異口同音に伝えているので、その人たちには「ハマった……」のだと考えられます。
 そこで、たいへん書きづらいのですが、心理学者のガブリエル・エッティンゲンが行った研究について触れてみたいと思います。
 エッティンゲン氏は、成功を思い描くことの効果を検討するために、減量プログラムに参加している肥満女性を対象とした実験を行いました。減量プログラムに挑戦中の女性のうち半数には、スリムになって外出する姿など、成功後のポジティブな夢を想像してもらい、半数にはドーナツの誘惑と必死で闘う姿など、ネガティブな障害を想像してもらったそうです。すると1年後、ダイエットに成功したのは、ネガティブな障害を想像していたグループだったのです。その差は、なんと11sもあったそうです。
 目標を達成するには、ひたすらポジティブに夢見るよりも、理想と現実のギャップに注目し、対策を立てたほうが効果的だ……というのが、同氏が導いた結論でした。成功を思い描くことで安心してしまい、気が緩み、モチベーションが低下するといったネガティブな効果を持つ可能性が高いと……。実際、うまくいくかどうか不安な方が必死になるということなのです。一方、ポジティブな気分のときよりネガティブな気分のときの方が、対人場面で用心深く相手の気持ちを配慮し、礼儀正しく丁寧に関わるため、対人関係がうまく行きやすいということも別の心理学の実験で証明されているのです。

 ここで、本稿の目的をもう一度整理しておきます。ポジティブ思考を否定するつもりはありません。ただ、「自己肯定感が強くなくてはいけない」と自身を責めてしまう方が増えてきていることから、「必ずしも、そうでなくていい」とお伝えしようと思ったのです。

 本題にもどります。
 最近の研究では、私たちの持つ心理的性質の多くに遺伝要因が強く関係していることがわかってきました。そして、日本人には、不安傾向の強さと関連するとみなされるセロトニントランスポーター遺伝子の配列タイプを持つ人が非常に多いこともわかってきたのです。反対に、日本人には、新奇性を求める傾向と関連するとされるドーパミン受容体遺伝子の配列を持つ人がほとんどいないことも……。
 一般的な傾向として、欧米人のほうが自己肯定し楽観的かつ積極的に見えてしまいます。その一方で、私たち日本人は何かと不安になりがちです。でも、それには遺伝的な基礎があるのだと考えられるようになりました。ならば、無理して、不安感を払しょくしたり、自己肯定感を高く持つべきだと考えることから解放され、そもそもの自分自身や国民性のよさに注目できるのではないかと思うのです。
 たとえば、日本人の仕事の丁寧さや堅実さは、「不安」がもたらしているとも言えます。日本製品の信頼性の高さ、仕事の丁寧さ、電車の運行時間の正確さなどは、まさに「不安が強い」という特性によってもたらされているように思えます。感覚的に、ポジティブ思考からは、こうした勤勉さ、真面目さ、丁寧さは生まれないように感じるのです。
また、不安が強いからこそ、人への気遣いが育まれ、その結果、争いごとが少なく人間関係を大切にする治安の良い社会をもたらしているとも考えられています。
 自分自身をなかなか肯定しきれず、満足できず、不足を感じてしまう傾向が強い日本人は、国際比較調査などで自己肯定感を測定されると、低くなるのは当然かもしれません。
そう考えると、自身の「思考のクセ」を知るという観点のほうが大事だとも言えます。たとえば、車のブレーキにもクセがあります。レンタカーに乗るときに、ちょっと踏んだだけでキュッと止まるものもあれば、しっかり踏み込まないときかないと感じるものもあります。「あ、この車のブレーキはききが悪いんだな」と気づくことができれば、それに対処して早めにブレーキを踏むことができます。
 この思考のクセも同じで、そのクセに気づいていれば「思い直し」という対処をすることが可能になります。カウンセリングでこうした思考のクセに気づいたときは、「別にそれを変えようとか捨てようとか思わず、自分がそういうクセを持っていると意識しておく」ようお伝えします。
 「あ、また悪い方向に考えてるな。あぶない、あぶない……。もうちょっと前向きに考えてみよう」とか、「せっかくホメられたのに、また何かあるのかと疑ってしまった。素直に『ありがとうございます!』って言ってみよう」というふうに……。
 この「思い直し」を何度も繰り返すうちに、「思い直すこと」もまたクセになっていきます。するとネガティブな思考のクセに対して、すぐに思い直すことも自動化されるので、結果的にそのネガティブな思考が打ち消されるようになります。そして、気づいたときにはそのネガティブな思考のクセがなくなっていることに気付くのです。このように、思考のクセは「思い直し」というトレーニングによって、直すことができます。
 この「思い直し」こそが、舩井流でいう「肯定・感謝」につながり、それを前提とした、舩井流「プラス発想」は、実は「ネガティブ」を包み込むことで成立していることに気づきます。そして、この「思い直し」の積み重ねとクセづけこそが、自己肯定感の芽生えとなり、さらには「思いの現実化」に自動的につながっていくように感じたのです。
 「自己肯定感、低くて何が悪い!」
 ……くらいに思っていても、ぜんぜん大丈夫だと思います。
                           感謝

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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長
1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。
2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了)
著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。
佐野 浩一(さの こういち)
株式会社本物研究所 代表取締役社長
株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長
公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事
ライフカラーカウンセラー認定協会 代表
1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。
著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。
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