トップが語る、「いま、伝えたいこと」
「環境問題」と聞いて、皆さんはどんなことを思い浮かべるでしょうか。
地球温暖化、異常気象、豪雨や干ばつ、森林火災、海洋プラスチックごみ、生物多様性の喪失……。毎日のように報じられるニュースに触れるたび、「地球は大丈夫なのだろうか」と不安を覚える方も多いと思います。
実際、この数十年で地球環境は大きく変化しました。世界各地では、これまで経験したことのないような高温が続き、豪雨による災害が頻発し、農作物への影響も広がっています。日本でも四季の移ろいが変わりつつあることを、肌で感じている人は少なくないでしょう。
しかし、環境問題を取り巻く状況は、「悪くなっている」という一言では語れない、新しい段階に入り始めているようです。
かつて環境問題への取り組みは、「いかに環境を壊さないか」が中心でした。電気を節約する、ごみを減らす、リサイクルを進める、二酸化炭素の排出を抑える、そして環境に負荷をかけない生活を心がける……。もちろん、こうした取り組みは今も大切です。
しかし近年、世界ではそれだけでは十分ではないという考え方が広がっています。単に「悪くしない」のではなく、「良くしていこう」という発想です。言い換えれば、「環境を守る時代」から、「環境を再生する時代」への転換です。
この変化を象徴する言葉が、「リジェネレーション(再生)」や「ネイチャーポジティブ」という考え方です。
これまで私たちは、自然を人間が利用する対象として考えてきました。必要な資源を取り出し、経済を発展させ、便利で豊かな暮らしを築いてきたことは事実です。その一方で、森林は減少し、海は汚れ、多くの生きものが住む場所を失ってきました。
そこで今、世界は新しい問いを立てています。
「どうすれば自然を元の姿以上に豊かにできるだろうか。」
森林を育てることはできないか。
土壌を元気にできないか。
海を再生できないか。
生きものが戻ってくる環境をつくれないか。
こうした取り組みは、もはや一部の環境保護団体だけの活動ではありません。世界の企業、研究機関、自治体、そして地域の人々が、それぞれの立場で知恵を出し合い、新しい挑戦を始めています。
私は、この流れを見ていて、舩井幸雄が繰り返し語っていた「自然の理」という言葉を思い出します。
人間の都合だけを優先したものは、長くは続かない。
自然の摂理に沿ったものだけが、持続し、繁栄していく。
今、世界が向かおうとしている方向は、まさにこの考え方と重なっているように感じるのです。
環境問題は、決して「環境」だけの問題ではありません。それは、私たち一人ひとりの生き方であり、働き方であり、社会や経済のあり方そのものを問い直す、大きなテーマなのです。そして、その問いに対する新しい答えが、世界中で少しずつ形になり始めています。
世界では今、「環境を再生する」という新しい挑戦が、さまざまな分野で始まっています。その代表例が、「リジェネラティブ(再生型)」という考え方です。
これまでの農業は、収穫量を増やすために土を深く耕し、化学肥料や農薬を使うことが一般的でした。その結果、土壌の力が弱まり、微生物が減少し、土地そのものが痩せてしまう地域も少なくありません。
そこで注目されているのが、再生型農業です。土をできるだけ耕さず、土壌に住む微生物や菌類の働きを活かし、多様な植物を育てることで、本来の生命力を取り戻そうという考え方です。驚くべきことに、健康な土壌は大気中の二酸化炭素を大量に吸収し、炭素として土の中に蓄える力を持っています。つまり、農業は環境に負荷を与える産業ではなく、「地球を元気にする産業」に変わる可能性を秘めているのです。日本でも自然栽培や有機農業、微生物を活かした農法に取り組む生産者が増えていますが、その背景には、こうした世界的な流れがあります。
そして、もう一つ大きな期待を集めているのが「ブルーカーボン」です。
これまで二酸化炭素を吸収する存在として注目されてきたのは森林でした。しかし近年、海藻や海草、干潟などの沿岸生態系が、非常に高い二酸化炭素吸収能力を持つことが分かってきました。海の中に広がる藻場は「海の森」とも呼ばれます。この海の森を再生することは、二酸化炭素の吸収だけでなく、魚や貝が育つ環境を取り戻し、生物多様性を回復し、漁業資源を豊かにすることにもつながります。海を豊かにすることが、そのまま地域を豊かにすることにつながるのです。
さらに近年、注目されている技術があります。
それが「バイオ炭」です。間伐材や剪定枝、農業残渣など、本来であれば廃棄される植物資源を酸素の少ない状態で炭化し、土壌へ戻すことで、炭素を数十年から数百年という長期間にわたり固定することができます。
植物は成長の過程で大気中の二酸化炭素を吸収します。その植物をバイオ炭として土に還元することで、吸収した炭素を再び大気へ戻さず、土の中に蓄えることができるのです。しかも、バイオ炭は土壌の保水力や通気性を高め、微生物が住みやすい環境をつくるため、農作物の品質向上にも役立つと期待されています。「環境対策」と「農業振興」が一つになる発想です。
また、テクノロジーの進歩も見逃せません。
AIは森林の健康状態を分析し、人工衛星は地球全体の環境変化をリアルタイムで監視します。ドローンは植林や農薬散布だけでなく、海洋調査や災害対応にも活用されています。かつて人間の勘や経験だけに頼っていた分野に、科学技術が新しい可能性をもたらしているのです。
さらに、「循環経済(サーキュラーエコノミー)」という考え方も広がっています。大量につくり、大量に消費し、大量に捨てる時代から、資源を循環させ、長く使い続ける時代へ……。製品は修理され、再利用され、素材として生まれ変わる。廃棄物は「ごみ」ではなく、「次の価値を生み出す資源」と考えられるようになりました。
こうして見ていくと、環境問題への取り組みは、もはや「何かを我慢すること」ではありません。新しい技術、新しい知恵、そして自然の力を活かしながら、人も地域も豊かになっていく未来を創ることなのです。
その実践は、世界のどこか遠い場所だけで始まっているわけではありません。実は、私の住む熱海でも、その挑戦が静かに、しかし力強く始まっています。
環境問題というと、どうしても「世界規模の課題」と考えてしまいます。国連の会議や各国政府の政策、大企業の取り組みなど、どこか自分とは遠い世界の話のように感じてしまうことも少なくありません。
しかし、本当の変化は、いつの時代も地域の現場から始まります。その一つの象徴が、私の住むまち・熱海で進められている新しい挑戦です。
環境ジャーナリストの枝廣淳子さんや環境活動家の光村智弘さんらが中心となって活動する未来創造部では、「未来の子どもたちへ、きれいで楽しい地球(ほし)を残そう」という願いのもと、環境再生を軸にしたさまざまなプロジェクトが展開されています。
その代表的な取り組みが、「ブルーカーボンプロジェクト」です。
近年、海藻や海草が大気中の二酸化炭素を吸収し、海の中に炭素を蓄える働きを持つことが世界中で注目されています。熱海の海でも、かつて豊かだった藻場が減少し、生態系への影響が課題となっています。
そこで未来創造部では、海藻を育て、藻場を再生し、「海の森」を取り戻す活動を進めています。海が豊かになれば、小魚が戻り、魚介類が育ちます。生きものが増え、海の景観もよみがえります。そして、その営みそのものが、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の吸収にもつながっていくのです。
環境を守ることと、地域を元気にすることは、本来、別々のものではありません。
自然が元気になれば、人も元気になる……。
地域が元気になれば、子どもたちの未来も明るくなる……。
そんな「循環」が、熱海では少しずつ形になり始めています。
もう一つ、未来創造部が力を入れているのが、「二酸化炭素の固定化」という取り組みです。これまで、端材や剪定枝、農作物の残さなどの多くは、燃焼されて二酸化炭素の排出源となっていました。これらの未利用資源を適切な形でバイオ炭(バイオマス資源からつくられた炭)にすることで、地域資源として循環させ、地域循環共生圏の一端を担います。同時に、バイオ炭を化石燃料の代替とすることで二酸化炭素の排出を抑えたり、土の中に埋めることで土壌を改良するとともに、植物が隔離した二酸化炭素を数百年〜数千年貯留させたりすることができます。また、この技術は、気候変動対策であると同時に、土壌の改善や農業の活性化にも役立つ可能性を秘めています。
実は、熱海、舩井幸雄記念館と同じ敷地内に、未来創造部が新しく開発したバイオ炭(炭化)製造装置・「未来ロケットカーボナイザー」が設置されました。よかったら、舩井幸雄記念館へ来館されるついでに、実際にご覧になられてください。
ここで大切なのは、「環境のために我慢をする」という発想ではありません。自然の力を活かしながら、農業も、漁業も、地域経済も、人々の暮らしも、みんなが豊かになっていく。そんな未来を実現するための知恵なのです。
師・舩井幸雄は、「自然に学ぶ」ことの大切さを何度も説いていました。いま世界で広がっている「リジェネレーション(再生)」や「ネイチャーポジティブ」という考え方は、まさにその延長線上にあるように思えてなりません。
私たちは長い間、「経済か環境か」という二者択一で物事を考えてきました。
しかし、これからの時代は違います。
環境を良くすることが、経済を良くする。
自然を再生することが、地域を元気にする。
未来の子どもたちのために行動することが、今を生きる私たち自身の幸せにもつながっていく。そんな新しい価値観が、少しずつ社会に根づき始めています。
環境問題とは、自然だけの問題ではありません。私たち一人ひとりの生き方であり、価値観であり、未来への責任でもあります。だからこそ、「何を失ったか」を嘆くだけではなく、「何を育て、何を未来へ残していくのか」を考える時代なのではないでしょうか。
一人の力は小さいかもしれません。しかし、一つの行動が人を動かし、その輪が地域へ広がり、やがて社会を変えていく……。
未来は、その積み重ねの先にあります。
未来は、誰かがつくるものではない……。
海藻一本を植える手から、一本の木を炭にして未来へ託す手から、未来は静かに形づくられていく。その現場が、いま熱海にも育まれています。
2026.07.13:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】レゾナンス (※舩井勝仁執筆)
2026.07.06:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】「変化こそ不変の原理」〜今だからこそ、未来を明るくする仕事を〜 (※佐野浩一執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役会長公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』 |











株式会社船井本社 代表取締役社長



















