トップが語る、「いま、伝えたいこと」
最近、特に感じることですが、いまの人間社会は実にムダが多い。新聞は、2日も見るヒマがないと30〜50枚もたまってしまいます。しかしそれらに目を通してみても、どれも似たりよったりの内容で、しかもほとんど必要ないことが書いてあります。いかにムダなことを発信しているかがよくわかります。テレビをつけてみてもつまらないことが多く、いまの時代は本当にどうでもいい情報が氾濫しているのだと思います。
ムダについてや今後の経済システムなどについて1996年に発刊した拙著の、『百匹目の猿』(サンマーク出版刊)に紹介したことがあります。この本の第2章に、『文藝春秋』について書いた一節があります。ここに紹介しますのでご一読ください。
近代文明とはいったいなんだったのか
●終戦直後の雑誌が教えていること
私の手もとに古い『文藝春秋』があります。昭和20年10月号。戦後の復刊第一号の復刻版です。定価は60銭、たった30ページの薄っぺらなものです。
終戦直後のモノ不足、用紙不足の真っただ中で発行されたのだから無理はありません。広告ページの銀行広告などにも、「食料の増産」「最低の生活、最少の支出」などとキャッチコピーがあって、往時の困難を彷彿させます。
しかし、その中身はたいへん濃いものです。敗戦の悲憤と戦争への反省、それから未来や復興への意志などが熱気をともなって同居しています。執筆陣は菊池寛をはじめ、武者小路実篤や大佛次郎など当時の代表的な学者や文化人13人です。
たった十数人が薄い30ページの雑誌の中で、戦争や戦前の分析、将来の展望、新しい日本の進路などを的確に記していて、まったくムダというものがありません。これを一冊読めば、当時の日本の様子が手にとるようにわかります。つまり最少の資源で最良の雑誌をつくっているのです。資源対効果は最大です。
この復刻版は平成7年10月号の同誌についていた特別付録なのですが、これを見て私は、言論メディアの原点が体現されているとともに、現在の経済行為の大きな落とし穴を指摘しているように思えて、非常に感じるところが大きかったものです。
ちなみに現在の『文藝春秋』は500ページ近くあるぶ厚い雑誌で、情報量はあふれんばかりですが、世の中の本質にとどくような記事で全ページがうずまっているとはいえないようです(別に『文藝春秋』にかぎったことではありません。毎日のぶ厚い新聞もときどき「なんとムダなのだろう」と思います)。紙と情報のムダづかいの面が強いといえます。
資源を湯水のように使いながら、われわれはたいして重要とも思えない情報をたれ流しています。それは出版界にかぎったことでなく、他の企業でも同様です。いや、経済システムそのものがそうなっています。
「大量生産、大量消費、大量破棄」。それが近代資本主義の鉄則でした。もっと豊富に、もっと便利に、もっと快適に――人びとの欲望を過剰にあおり、たくさんのモノやカネを生産・流通・消費・廃棄してきました。永久的なスクラップ・アンド・ビルドの繰り返しです。
その繰り返しこそが経済を拡大、発展させる資本主義の仕組みです。また、いまのルールでは経済をかぎりなく成長させないと社会も個人ももたなくなります。
そのルールのもとでは、企業は原則として増収増益を続けなくてはなりませんし、個人の給料もふえ続けなくてはいけません。雑誌も30ページから500ページまでページ数が増加していかなくてはならなかったのです。
そして現在、ツケがまわってきたように、環境破壊と資源枯渇の問題が人間の足もとをおびやかしはじめました。少なくとも、これまでの経済システムや科学・技術の枠組みが今後も変わらないのなら、地球規模の危機は加速をつける一方でしょうし、人類の将来もあやうくならざるをえないのです。
これからの私たちは「厚いが中身に乏しい雑誌」より、「薄くても中身の濃い雑誌」のスタイルを必要としているのです。(転載ここまで)
=以上=
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