トップが語る、「いま、伝えたいこと」

このページでは、舩井幸雄の遺志を引き継ぐ舩井勝仁と佐野浩一が、“新舩井流”をめざし、皆様に「いま、伝えたいこと」を毎週交互に語っていきます。
毎週月曜日定期更新
2021年2月22日
一体化と効率化 (※佐野浩一執筆)

 世の中は、コロナ禍によって、テレワーク、ニューノーマル、働き方改革、サブスク……と、日替わり定食のように目まぐるしく新しい流れが押し寄せてきています。そうした新しく登場した考え方や方法論に対し、経営者としては気ぜわしくも未来を信じ、対応を進める日々であります。
 とりわけ、テレワークについては、私が経営する株式会社本物研究所グループ各社では、昨年3月から、段階的、積極的に取り入れ、二度目の緊急事態宣言から2月17日まで、「完全在宅勤務」としてきました。
 「舩井流」の精神として、「泥縄式でもいいからまず素直に受け入れてやってみる」と教わってきましたので、積極的に世の中の流れに沿い、実施しています。
 そこで感じていることがあります。テレワーク一つ取ってみても、確かに効率は良いかもしれません……。会議も朝礼もzoomで滞りなく行い、コミュニケーションも電話、メール、チャットで縦横に実施できる仕組みはつくりました。でも、何かが足りない……。あの画面上だけでは、一体化をどこまで実現できるのだろう……と悩ましい限りです。
 「一体化」というのは、会社としては永遠のテーマです。
 もちろん、舩井幸雄の口から、「一体化」という言葉を何度聞いたかわかりません。
 「会社が大きな業績をあげることは、案外カンタンなんだ。社長以下、全社員が一体化すればいい……。」
 それこそ、いともカンタンに業績アップの原理を、一言で言ってのけたものでした。
ところが、この「一体化」。
 実際には、そうはカンタンに話が進みません。生まれも性格も、人生経験も考え方も異なる人たちが集まると、ときにベクトルそのものが違う方向を向いていたり、熱意の違いもあったりで、なかなかうまくいかないものだと、いまもなお奮闘の日々です。
 あらためて、先日、舩井幸雄の講演メモをめくって、そのあたりのことを話していた内容をまとめてみると、「なるほどな」って思えたのです。
 その結論は、自然との一体化という捉え方でした。
 要するに、私たちはあくまで自然の一部として生かされているのだから、その自然のなかでは、自然のルール=「自然の理」にしたがうことが大事なんだということです。
 確かにそうですよね。
 サッカーの試合に、ラグビーのルールを持ち込んだら、めちゃくちゃになってしまいます。でも、実際は、世の中でも、会社などの組織体のなかでも、そういうことが行われていると言わざるをえません。
 たとえば、地球上は「自然の理」で動いているのに、そこに自然でないものがたくさん持ち込まれたので、いま地球や自然が悲鳴をあげて、環境問題や尋常でない天災を生んでしまっているのが現実です。
 そもそも「自然の理」とは、つぎのようなことです。
 自然は、@単純で、A調和していて、B効率的でムダがなく、C互助の仕組みがあって、Dできるだけ他者に命令や干渉をしないようになっています。
 つまり、各自が自由に生きていけるようになっています。
 だから、私たちは複雑に生きたり、ムダなことをしたり、調和を乱してはいけないということです。ましてや、足の引っ張り合いや干渉、束縛などはなるべくやめたほうがいいでしょうし、逆にいえば、人は、他者に迷惑をかけない限り、なるべく自由に、したいことをして生きてもいいと教えられているようにも思います。
 こうして、自然と一体化しないと、自然の一部である自分自身もうまく成長できないようにプログラムされているのでしょうか。世の中はルールで動いています。そして、世の中は相似象になっています。だから、私たちは自然と一体化する一方で、自分の所属するところ、たとえば地域や会社やチームなどと一体化したほうが、上手く生きられるのだということです。
 結局のところ、どんな組織体も、私たち自身もすべて自然の一部であると言えるようです。ならば、自然のルールにのっとって、自分の所属する組織体と一体化していくことは、自分のためにも、周囲のためにもなるっていうことだと思えてきたのです。
 舩井幸雄が、「一体化はカンタンだ」と言ったのは、実は、自然の一部の存在として、「あるがまま、なるがまま」生きればよいからだ……ということなんです。
 違うベクトルを向けるよりも、流れに逆らって無理を重ねるよりも、同じベクトルで一体化していったほうが、はるかに気持ちよく、ラクに、やわらかく、しなやかに生きられるということなのかもしれません。
 一体化の一つの尺度として、数字(=売上げ・利益等)を持ち込むことは簡単です。しかし、それでは、ここまで述べてきたように、理念や目的、行動指針、あるいはその上位にある自然の摂理が阻害されてしまうこともよくあるケースです。やはり、ここにも、渋沢栄一先生が主張された「論語と算盤」両方からのアプローチが肝要であると考えます。
 効率化については、たしかに、物事の効率を改善すれば、同じ苦労や同じ負担で得られるものの価値を増やすことができます。大事なことです。しかし、常日頃から、「すべてを『効率化』という旗印のもと、バッサリやってしまうのは極めて危険だ…」と考えてきました。その論理的根拠を、経営学の大家ヘンリー・ミンツバーグが、実に面白いことを論じています。
 結論を先に言うと、「結局、数値測定できるものしか、効率化はできない」ということです。
 世の中も、会社内も、人間関係も、おおよそ、人の心や感情や思い、言い換えれば五感に関係することは極めて多く、それを数値化して効率化するのは無理があります。そこを決して勘違いしてはいけません。
 「効率化」について、ミンツバーグが示した事例から少し検証してみたいと思います。
 まず、効率的なレストラン。この場合、料理が提供される速さのことだと思った人が多
いのではないですか? 料理の味を思い浮かべる人はおそらく少ないでしょう。
 次は、効率的な住宅。最も多くの人が連想するのは、エネルギー効率だと思います。で
も、家を購入するとき、デザインや交通の便、近所の学校の評判ではなく、エネルギー効率を基準に家を選ぶ人は、いったいどれくらいいるでしょうか?
 つまり、人は「効率」という言葉を聞くと、無意識に最も数値計測しやすいものに目が
向きます。要するに計測しやすいものを偏重しているということです。
 ところが、この傾向は、つぎのような問題を生みます。
 計測しにくいベネフィット(周囲に与える恩恵)を犠牲にして、計測しやすいコストを減らすことばかりが追求されがちになります。多くの国の政府が医療費や教育費を削減し、その結果として医療や教育の質が低下しているのは、そのわかりやすい例です。たとえば、子どもたちが教室で何を学んでいるかを数値で示せる人は、世界中に 1人としていません。
 つぎに、経済的コストは社会的コストより計測しやすいため、効率の追求は経済的コストの削減に向かいやすく、それがしばしば社会的コスト(代償)を増大させている点です。工場や学校の経済的効率を高めることはできたとしても、その代償として空気が汚染されたり、子どもたちの学習に悪影響が生じたりする場合が多くあります。
 さらに、もう一つの問題は、結局、数字で表される経済的な効率を目指すことになるため、社会的に不当な状況をもたらすことが多くあります。効率を優先させると、質の高い料理よりファストフードを選びがちになるのと同じことです。効率的な教育、効率的な医療、効率的な音楽、効率的な顧客対応、効率的なサービス…。その裏側でヒューマンな問題、課題を見逃してしまっているということに気づいていません。
 さて、今一度、結論を言うと、「効率化は大事なアプローチではあるが、すべてではない」ということです。効率化してはいけないものを明確に見極めることができてはじめて、効率化を議論できるといってもよいと思います。
 これからの新しい時代。どうか、人が人らしくありながら一体化し、デジタルを活用して効率化しつつ、どんな大きな変化に遭遇しようとも、大事なことは大事にしていきたい…。そんな月並みな結論で、今回は閉じたいと思います。
                              感謝

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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長
1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。
2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了)
著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。
佐野 浩一(さの こういち)
株式会社本物研究所 代表取締役社長
株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長
公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事
ライフカラーカウンセラー認定協会 代表
1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。
著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。
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