トップが語る、「いま、伝えたいこと」
教員時代のある日、生徒たちとのコミュニケーションにいくつかの課題を感じていたころのこと。カウンセリングの宿泊研修の案内が回覧されてきました。それまでなら、あまり関心がなくやり過ごしていたのですが、ふいに感じたことがあったのです。
「自分に足りないことが学べる……。」
その直感を信じ、すぐさま参加を決めました。
研修は2日間でしたが、あっという間に時間が過ぎていきました。
受講後、しばらくして実感したのは、生徒たちとの関係づくりと自分自身のスタンスがダイナミックに変化していったことでした。
それまでは、自分が話しているほうがはるかに多かったこと。つまり、生徒たちの話をきちんと聴けていなかったこと。この気づきは、その後の人生を大きく左右するものとなりました。
カウンセリングの基本は、「受容」と「共感」。そのために、「よく見る」「よく聴く」力が要求されます。近年、効果的な指導法として脚光を浴びるコーチングも、基本は同じ。結局のところ、“人間”に温かい興味、関心を持とうとすることが基本条件なのです。
経営者目線でいうと、そもそも指示、命令だけでは、人は動いてくれません。対象が子どもであろうと、大人であろうとそれは同じです。ベースになるのは、すべて「人間関係」。さらにいうならば、相手に対する「愛」が必要なのだと考えています。このことは、教員時代を含め、たくさんぶつかり、たくさん悩み、それらを一つずつ乗り越え、精一杯学び取った“発展途上の結論”でもあります。
たとえば、同じ人の行動を見ても、見る側の心のあり方で、見え方は異なります。同じ人の言葉を聴いても、聴く側の心のあり方で、「聴こえ方」「キャッチしたこと」は変わります。相手に対して、マイナスの思いや否定的な感情を持っていたのでは、なかなか素直になれないものです。しかし、どんな相手に対しても、受け入れよう、認めよう、大事にしよう、できれば何かを学ぼう……という気持ちを常に持って対応することが、人間関係構築の基本であることを学び、まだまだ反省は日々続くものの、少しは成長できたかと自己満足しています。
これは、まさに船井流の基本である「素直」「勉強好き」「プラス発想」=成功の3条件の「素直」にあたります。素直な心で相手を受け止め、真摯に理解しようとする姿勢。
こうした姿勢は、結果として互いの力を引き出す大きな源泉ともなります。さらに、互いを「よく見て」、互いの言葉を「よく聴く」環境のなかでこそ、指示、命令、叱咤激励などもその本質が理解され、活かされてくるのではないかと思います。
舩井幸雄は、私にとって「よく見る」「よく聴く」の師匠でした。こんなに聴いてもらっていいのか……と内心驚いてしまうほど聴いてもらえたことを覚えています。しかも、その目は優しさに満ちていましたね……。
さて、いま、ケイト・マーフィの「LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる」(日経BP)という書物を読み進めています。
「私たちは、きちんと話を聞いてもらえた経験が少ない。」
この書物の章題でもある一文を読み、あらためてドキッとしました。
聴いてもらっているように感じていても、たとえば、相手が時計に目をやる動作に気づいたり、話の途中で遮られたり。自分の話を最後まですることを諦めるシーンは、職場や家庭や友人との会話の中で、誰もが日常的に体験していることだと思います。
そして逆もまた然(しか)り……。
私たちは、もしかしたら、ほとんど相手の話を聴けていないのかもしれない……と、今一度、教員時代の経験をフラッシュバックしたのです。
ふだん何気なく行っている「聴く」という行為。
本稿では、あえて、「聞く」ではなく「聴く」と記していますが、これにも意味があります。NPO法人ネットワーク地球村の高木義之先生に、かつて教わったことです。
「聞く」は、もんがまえの中に「耳」がありますよね。
つまり、「聞こえている」「耳に入る」とうこと。
「聴く」は、「耳」「目(横になっていますが……)」「心」を使って相手に対応するということ。
「この2つでは、天と地の差くらい大きな違いがあるんだよ……」と、優しい、温かい目で教えてくださいました。
実に奥深いと思われませんか?
本書のテーマは、ある意味、とてもオーソドックスな内容です。多くの人が聞いていながら実は聞いていないということ。相手の話しを聞いて、相手のことを理解しようとしているつもりでも、自分のことを考えて自分が話そうとすることを考えているということ。
たしかに、そう指摘されると、耳が痛くなります。
そこで、人の話を「聴く」ということがどういうことなのか、18章に渡って語られています。
人の話を聞いていないことが孤立感を生み出し、信頼を損なっていることから、本当の意味での「聴く」ということ、それにより生み出される信頼や価値について、具体的な事例や豊富な実験・研究の成果をもとに解説されています。アメリカのビジネス書の定番といってよいと思いますが、これでもか……というくらいふんだんに事例が挙げられています。
Chapter16(16章)にこんなメッセージがありました。
「人間関係の破綻でもっとも多い原因はネグレクトであり、中でももっとも多いネグレクトは、相手の話をきちんと聞かないことです。「聴く」ことを生き抜くための生物進化上の戦略とみるにせよ、道徳の基本、もしくは愛する人への義務とみるにせよ、私たちを人類としてひとつにつなげるのが、人の話に耳を傾けるという行為であることは、間違いありません。」
本書の裏のオビに、つぎのように書かれています。
「聞くことで他人の才能も共有できる」
「友情を保ついちばんの方法は『日常的な会話』」
「うなずいたり、おうむ返しは『聞くこと』ではない」
「孤独をいちばん感じるのは、『よいことが起こった』のに誰にも気づいてもらえないこと」
「チームワークは、話をコントロールしたいという思いをやめた人のところにやってくる」
「つじつまが合わない会話をそのままにしておくとだまされる」
「『アドバイスをしよう』と思って聞くと失敗する」
「つまらないギャグを言う人は、大抵人の話を聞いていない」
これらに関しては、本章でたっぷり触れられていますので、ぜひ、お読みいただけたらと思います。
「聴く」ことができるようになるのは。「一生の宝」だと思います。
先ごろ、神田沙也加さんが自らの命を絶たれたと報道がありました。
残念でなりません。
コロナ禍が続き、悲しくも自死を選ぶ方の数が増えてきています。
せめて、話を真剣に聴いてくれる、聴くことができる人が周りにいる、いろんなことが相談できる環境がもっともっと整っていたら……。そんな思いで、ライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げて約20年。これからのライフワークの1つとして取り組みを続けます。
寄り添い合える社会が築けていけたらと、心から願っています。
ニューヨーク・タイムズなどで活躍するジャーナリストが、自らのインタビュー経験と文献、さらにはバーテンダーから牧師、人質の解放交渉人まで様々な職種への聞き取りをもとに、「聴くこと」の効用と「聴く姿勢」について探究する本書。
「聴く」プロである著者自身が、好奇心たっぷりに多くの人の言葉に耳を傾け、あらためて「聴く」価値の再定義を重ねつつ、その魅力を膨らませていく展開。
ぜひ、年末、年始のゆっくりした時間にお読みになられたらと思いました。
「聴く」力は、きっと尊い命を育み、ひいては明るい未来をともに創っていく、大いなる力になると信じています。
どうぞ、よいお年をお迎えください。本年もありがとうございました。
感謝
2021.12.20:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】舩井幸雄が一番伝えたかった事 (※舩井勝仁執筆)
2021.12.13:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】オキシトシンは幸せ感の特効薬! (※佐野浩一執筆)
2021.12.06:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】ブランディング (※舩井勝仁執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |