トップが語る、「いま、伝えたいこと」
物事には、「真実」と「現実」があると考えています。
「真実」は一つしかありません。
でも、「真実」はその当事者にしかわかりません。
舩井幸雄が伝え続けたように、メディアの情報ですら、「一次情報」ではないわけで、「真実」を伝えられているかどうかは判断する必要があります。
一方、「現実」は、どこから観るか、どちらの立場から観るかによって、捉え方が変わります。いまのウクライナ情勢一つとってみても同様です。でも、その当事者にとっては、いまのその状況こそが「現実」であり、それは「真実」よりも確からしいものとして捉えられるのです。
しかしながら、いま、世界で起きている様々な「現実」を見つめてみたとき、どう考えても絶対に許せないことがあります。
それは、政治や国、あるいは歴史を背景にして、人を殺めてはいけないということです。そこに何があったとしても、これだけは絶対に許してはいけないのです。
さて、あの舩井幸雄も、若かりし頃、「ケンカの舩井」の異名をとった時代がありました。そもそも経営自体が競争戦略で成り立っていて、相手にどうやって勝つか、相手をどうやって叩くかがその要諦であったわけです。
そんな舩井幸雄が、「ケンカの舩井」を“卒業”しようと決めた経緯においては、それこそ命がけの決断があったようです。そのときのエピソードは、あまり書物には記されていないのですが、舩井が天に召される直前に発刊された一冊に、赤裸々に表現されていました。
「競争」から「共生」へと舩井幸雄が大きく舵を切った瞬間です。
それ以来、舩井は「競争は善ではない」「共生、包み込みこそが善である」との姿勢に立ち、経営はもちろんのこと、世の中全体を見つめていくことになったのです。
「未来への言霊」(2014年・徳間書店刊)、第1章「これから日本はどうなるのか?」
まさに「遺言」とも言える内容です。
今では戦うことなく、ケンカすることなく、社会を変えていけると確信している私ですが、昔はケンカの船井と呼ばれ、競争では誰にも負けない自信がありました。
卑近な例で申しわけありませんが、18歳の時に病気で頭が禿げてしまったので、若い頃はよくからかわれました。それが悔しくて仕方がなかったので、ケンカのコツを習得しました。それほど負けず嫌いだったのですが、私をからかうとひどい目にあうことが分かると、誰からもからかわれなくなりました。
コンサルタントとして流通業界で競争に明け暮れていた時も、現場の戦いでは絶対に負けない自信がありました。初期の頃の私のマーケティング戦略は、ランチェスターの法則という戦争の戦い方をもとにしてできたマーケティングの競争戦略でした。
それに私独自の包み込みの手法を加えて、長所伸展法さらには長所を引き出すための圧縮付加法などをベースとして、私のマーケティング戦略が確立していきました。いまの包み込みは、「みんなが共生していける社会を百匹目の猿現象を使って実現していきましょう」というように、エヴァ(エゴの反対で共生を中心に成り立っている社会)的な手法の代名詞のようになっていますが、最初は競争戦略から生まれたものだったのです。
もうずいぶん昔のことですが、私は大阪の心斎橋のそごう百貨店のコンサルティングを引き受けることになりました。いろいろな手法を駆使して、隣にある大丸に勝てる戦略を考えました。しかし、残念ながらなかなか成果は出ませんでした。
「おかしいな……」と思ってお店に出て、現場で対策を考えていたら、絶対に勝てない理由が分かったのです。それは、大丸の社員が一日に何回もそごうの視察に来て、新しい商品を見つけるとすぐに大丸でも販売していたのでした。それならばと、オリジナル商品として絶対に大丸では売れない商品を作っても、またもや大丸の社員がそれを買って持って帰り、同じ価格で販売しているのです。その結果、売り場面積は大丸の方が大きく、当時は大店法の関係で簡単に売場面積を増やすことはできなかったので、生意気で絶対に競争に買ってやると思っていたさすがの私でも、どうすることもできませんでした。
そこで、外商を強化する戦略を考え出しました。外商で伝統のある三越のような重厚なサービスをするだけの体制がありませんでしたので、いまで言うイケメンの若手社員に担当させ、とにかくお客様の要望なら何でも聞くという戦略を取ったのです。それが、後に外商に強いそごうという評判を取るようになるのですから、まさに瓢箪から駒のような話ですが、この心斎橋での経験から思いついたのが包み込み戦略なのです。
売場面積が大きな店は、競争相手に置いてある商品は全て置き、それ以外の商品を付加すれば競争に絶対に負けないというきわめてシンプルな理屈です。これにランチェスターの法則を加えた私独自の競争戦略は当時怖いものなしで、流通業界では「船井に睨まれたら店を潰される」と噂されていたようです。
しかし、ある時、「競争戦略は間違っている」と思い知る出来事があったのです。昭和50年代の後半のことだと思いますが、九州のある都市に講演に行きました。講演が終わると「殺してやる」と怒鳴って壇上に駆け上がってきた人がいたのです。私はケンカのコツを知っていますので事なきを得ましたが、とても気になったので、その人が落ち着かれてから控室で話を聞きました。
彼は九州のある地方で小売店を経営していて、その地域では名士で通っていたそうです。地域社会にも貢献していた人なのですが、私が支援していた量販店が近隣にできた結果、その店は倒産してしまったのです。きっと本質を見極める力を持っておられたのでしょう。彼の店が潰れた原因が私のコンサルティングにあることを理解して、そのような行為に及んだのです。当時の私は、競争は社会を進歩させる素晴らしいものだと思っていましたので、コンサルタントとして当たり前のことをしただけだということで、納得してもらったのですが、やはりその後もモヤモヤとなって残りました。
そこで、「競争は、もしかしたら間違っているのかもしれない」と考えはじめたのです。私は日本を代表する経済学者であった難波田春夫先生の教えが大好きで、セミナーの講師として毎年お呼びしていたのですが、難波田先生からは「物的モアアンドモアを追求する時代はもうすぐ終わる」というお話をお聞きしていたこともあり、日進月歩に社会を進歩させる競争は大事なものだが、日本はそろそろ競争から脱皮する時代になったのかもしれないと思って研究を始めたのです。
最初は、競争を避けるためには、策略を用いるのがいいのではないかと考えました。私は歴史が好きであり、特に大好きなのは豊臣秀吉の軍師を務めた黒田官兵衛なのですが、官兵衛のやり方は策略で戦に勝つという手法で、大いに参考にしていたのです。しかし、アルフェイ・コーンさんの「競争社会をこえて」(法政大学出版局)と出会ってからは、「策略や騙し合いも使わずに生きていくのがいい」ということが分かり、競争から始まった包み込みの戦略が、相手のすべてを包み込むといういまのやり方として結実していったようです。
日本や欧米などの先進国は充分豊かになりました。だから、本当は競争をやめて包み込みの考え方に立ち、奪い合うのではなく、分け合えば、もしくはもっと進んで与え合えばみんなが豊かに幸せに暮らすことができるのです。中国もそろそろ競争だけではなく共生を考えていくべきステージに入ってきたと思いますので、日本の共生のやり方を包み込みの手法で中国に伝えていくことができたらよいものだと、最近は考えるようになってきているくらいです。
ともかく、時代も考え方も大きく変わったことは事実ですし、これからさらに大きな変化が待ち受けていることも容易に予想されます。
戦い、競争は、決して多くの人を幸せにしないことを明確に述べています。いまのいま、私たちが経験している「現実」を変えていく示唆が与えられていると読み取りました。
舩井がまさに命をかけて、大きく舵を切り、「共生社会」を目指していくこと、エゴからエヴァへと考え方と生き方を変えなければならないと確信したことが、強く、鮮明に伝わってきます。
あらためて、「エゴからエヴァへ」。
皆で真剣に向き合わなければいけないときが、まさに「いま」だと確信します。
戦わないで、世界を変えていかねばなりません。
感謝
2022.03.21:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】戦わないで世界を変えていく (※佐野浩一執筆)
2022.03.14:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】スポーツからみるロシア問題 (※舩井勝仁執筆)
2022.03.07:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】包み込みとインクルージョン (※佐野浩一執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |