トップが語る、「いま、伝えたいこと」
戦後の高度経済成長期。
少々雑な言い方になりますが、とにかく作れば売れた時代です。
「去年と同じ製品を、より効率的に、大量に生産すればいい」
「これまでの改善をもっと積み上げればいい」
「より便利なものを開発し、より安く売れば、売れる」
……という考え方の全盛時代であったと言ってよいと思います。
しかし、時代は変わりました。
世の中にモノが溢れ、とくに若者世代に至っては、万事(?)整っているので、欲しいものが見つからない……、「これが欲しいだろう?」ともう押し付けられたくない……といった感覚さえ芽生えているいま。
これまで「正しい」と考えてきた取り組みが瞬く間に陳腐化し、過去からの懸命なる努力の継続がかえって事業をマイナス方向に導くことさえあります。
いま……という時代は、そういう意味でめちゃくちゃシビアです。
これまで以上に、「未来を創る」という発想で動いていかないと、知らぬ間に置いてきぼりになってしまいます。
かつては「バックミラー思考」をベースに過去の延長線上に未来を見てきたわけですが、そうではなく、「望む未来を最初に描く」ことが大切になってきます。その未来像から現在に立ち戻り、その実現に必要な手段を見つけ出すこと……。過去が起点であった「バックミラー思考」を抜け出し、未来を起点とする「バックキャスト思考」にシフトするということです。
舩井幸雄はよく、「時流を読むことで、先の一手が打てる」と申しましたが、まさにこうした思考の転換が、私たちに強く要請されていると言っても過言ではありません。
先行きが不透明だからこそ、「バックキャスト思考」が必要です。
未来を創出するためには、創出したい未来を実現する方法を逆算することが必要です。
だからこそ、「バックキャスト思考」が必要となってきます。
それでは、なぜ「目的」について考える必要があるのでしょうか?
それは、未来起点で物事を考えることが必須の時代にあって、目的というのは「未来像そのもの」です。どこを目指すかが定まれば、「そこまでどうやって行こうか」「実現には何が必要か」という逆算の創意工夫が生まれてきます。
かつて、教員時代にテニスの指導をいていたころ。
たいへん有り難いことに、当時のテニス界の重鎮から、この考え方の基礎を教わりました。もう、かれこれ30年以上前のことです。
まずは、どこにボールを落としたいかをイメージする
=【目標】
それは、なぜそこに打つ必要があるのかを考える(考えられた配球)
=【目的】
そこに、どのようなスピードで、どのような軌道で打つのかをイメージする
=【方法の明確化】
その「的」にボールが当たったとイメージし、そこから描いた軌道のボールをラケットの
打点まで戻してくる
=【イメージの確定】
このイメージを明確にしたあとに、実際に球を出して、打ってもらいます
=【実践】
このような段階を経て、1球のボールを打つ練習をするのですが、慣れてくると選手たちは瞬時にこのイメージを働かせられるようになり、見事に思ったところに、思った通りのボールをほぼほぼ打ち込むことができるようになるのです。これは上級者だけではなく、初心者やあまり上手でなかった選手にも、それなりに有効でした。
思えば、この「バックキャスト思考」は、この流れそのものです。ですから、余計に腑に落ちてくるのです。
目的が何かをわかっていなかったとしたら、やみくもに来た球を打ち返すだけで、それではゲームメイクはおろか、テニス自体も上手くなりません。
目的がわからないと、目指す先が見えないまま前に進むことになります。そのような状況に陥ると、人は決まって「これまでどうやってきたか」と過去を振り返るのです。つまり、「バックミラー思考」に頼ることになります。
でも、これが有効でないことがわかってしまったのです。
前回触れた「VUCA時代」を生き抜くためには、はじめに「目的」を見定め、そこから達成に必要な手段を逆算し、望む未来を実現させる「バックキャスト思考」を使いこなすこと。
望むべき未来は、待っていてもやってきません。でも、実現の意思があるなら、未来は創り出すことができます。「目的」とは、その起点に他ならないのです。
では、その「目的」というややもすれば得体のしれないものについて、少々考えてみたいと思います。先述したテニスのゲームメイクであれば、そう難しい捉え方をする必要はないのですが、やはり、経営においてはなかなか抽象的でつかみどころがないところもあります。
それを極めてシンプルに表現すると、「何のために?」という問いに対する答え……と言えるかと思います。
「何のために」売るのか?
「何のために」新たなシステムを入れるのか?
「何のために」制度改革を行うのか?
「何のために」組織を再編するのか?
「何のために」商品を採用するのか?
これらそれぞれの「何のために」こそが、「目的」だと考えられます。
さらにもう少しわかりやすく理解できるために、英単語で考えてみたいと思います。
「目的」を英語で表すとき、それには次の3つの単語が当てはまります。
★Purpose
★Objective
★Goal
これらはいずれも「目的」を意味する単語です。
でも、それぞれの単語は、少しずつ捉える意味が異なっています。
最近よく注目されている、このPurpose(パーパス)という単語。その語源は、「前に置かれたもの」(pur「前に」+ pose「置く」)を意味します。ここでいう「前」は、いまよりも先の時点=将来と考えられますし、現状よりも高いレベルを実現している状態とも解釈できます。
要するに、「より大きな価値を実現している将来の状態」という「目的」の1つの性質を表しています。「目的は未来像そのもの」という考えは、ここから出てくると考えられます。
2つめのObjective(オブジェクティブ)は、Object(オブジェクト、対象)から生まれた単語です。対象は「ターゲット」とも言いかえられ、「ねらい」の意味です。何かを狙おうとするとき、そこには人の意図を伴いますから、Objective(オブジェクティブ)は「意図を持って狙いとするところ」という「目的」の2つめの性質を示していると考えてよいと思います。逆にいえば、人の意図を欠いた客観的な事実(ファクト)だけでは、目的は成り立たないという解釈にもなります。
最後のGoal(ゴール)は、「限度」や「リミット」を意味します。つまり、「到達点」という「目的」の3つめの性質を表しています。マラソンのゴールというイメージで考えるとわかりやすいと思います。つまり、中継地点や通過点は、「目的」ではないということです。
これら3つの性質を融合したものが、「目的」と考えるとわかりやすいのだと思います。
「目的」とは、「新たな価値を創造し、実現するために目指す未来のゴール(到達点)」。このように捉えると、よりよく「目的」の本質が見えてくると思います。
私も、昭和、平成の時代を駆け抜けてきた人間の一人ですが、どうしても「過去」を照らし合わせて考える習慣がこびりついているようです。
繰り返しますが、「目的」は「過去の延長線」にはありません。未来にしか存在しないのです。未来の到達点として描く以上、どのような姿を目指すのか、その高みをどこまで届かせるのかは、すべて私たちの思い描くままです。
私たちは、自由です。
小さく描くか、大きく描くかも、自由なんですね!
感謝
2023.04.17:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】欧州の動きに追いつけ!! (※佐野浩一執筆)
2023.04.10:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】付加価値経営 (※舩井勝仁執筆)
2023.04.03:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】目的から考える! (※佐野浩一執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |