トップが語る、「いま、伝えたいこと」
前回お伝えしたようなアメリカの中堅銀行の破綻による金融システムの崩壊リスクは、一旦は収まったように思えたのですが、中長期的にはまだまだ潜在的なリスクを内在しているのではという連想で相場が下げています。久しぶりに、米株の下落率よりも日本株の下落率の方がかなり高い状態が続くようになったのも特徴なのかなと、あくまで個人的な印象ですが、感じています。どうも、日経新聞の報道を見ていると日本株をあまり上げたくないという当局の意向を反映されていて、市場はそれに敏感に反応している気もします。
ただ、アメリカでは株価の下落を通じてFRBに対して利下げを促しているような様相も感じられます。市場は年内に3回の利下げを見込んでいるという話も取りざたされるようになってきましたが、FRBの高官は逆にまだ利上げを続ける姿勢を見せていて、この辺りの駆け引きがどうなるかが当面の相場の見どころだと思います。これもあくまで個人的な意見ですが、金融危機の到来はかなり近くなった気もしますが、市場はまだ上げたいという余地を残しているような気もします。だから、もう一段の上げはある可能性は考えておかなければいけないのかなと感じます。
為替の方は、全般的には円高傾向が強くなってきたような気もします。私は3月末のドル円相場は140円ぐらいかなと予想していたので、外してしまいました。市場は金融当局に利下げを促して株価を上げたいというエネルギーがまだまだ溜まっているようで、アメリカの長期金利は下がり気味です。FRBはインフレを抑えるためには株価を犠牲にするという姿勢を明確にしていましたが、中堅銀行の破綻が金融システムの崩壊につながるのではという連想で、その流れを逆転できないかとトライを始めたというところでしょうか。金利差の縮小で当面は円高傾向ですが、大きくは、120円から150円のレンジで推移するという見方は維持の方向でいいのかなと思っています。
日本の金利に関しては、植田新日銀政策の方針に注目が集まっています。少なくとも、しばらくは従来の金融緩和の維持を決めるのではないかなという見方が多いような気もしますし、私も経済学者であるがゆえに、急に方向転換をした時の痛みをわかっておられるのではと、少し希望的観測ですが感じています。銀行の方に話を聞くと、足下の変動金利はまだそんなに上がっていないようですが、逆に言うと固定金利はかなり上がってきています。固定金利にはスワップというデリバティブ(金融派生商品)が必ず絡んできますので、投機筋は中期的な利上げを見込んでいることになるのかなと思います。
今回紹介するのは、延岡健太郎著『キーエンス 高付加価値経営の論理 顧客利益最大化のイノベーション』(日本経済新聞出版)です。著者の延岡先生は、大阪大学大学院経済学研究科の教授で、製造業における付加価値について数多くの著書を持っている方です。キーエンスは企業規模の割に、一般的な知名度が高いとは言えない不思議な会社です。最近では以前に比べて企業名が世間に浸透してきた印象もありますが、未だに都市伝説的な扱いを受け『30代で家が建ち、40代で墓が立つ』等と囁かれることもあります。他に出てくるのは、高給、激務、それらと共に有名なのは、高い利益率です。時価総額も実はトヨタに次いで日本企業で2番目に大きい会社(3月末現在)です。
数字的に理想の経営をしながら成長を続ける彼らは実態としてどのような企業なのか、本書を読んでいくと、それが少しずつ理解できます。冒頭にも出てくるように、キーエンスは創業時から『最小の資本と人で最大の付加価値を上げる』という目標を掲げ、実際にそれを実現してきた企業です。付加価値のある商品を創り出し、それを顧客が納得する形で提供する事で、高い利益率を生み出します。
キーエンスの特徴は、機器を売るだけではなく、それを最大限活用するためのサポート体制を整えていることです。蓄積したデータから最適解を探し続け、ケアを欠かさず、徹底的に顧客目線に立って支える。これにより発生する負担が一般的な激務のイメージに繋がっているのかもしれませんが、顧客からすればありがたい話であり、社員側も莫大な報酬を得る事で、皆が利益を享受していると考えられるのかもしれません。
また、営業面にも当然力を入れています。優れた商品を持っているだけでは意味がなく、商品の有用性について正しく売り込む必要があり、付加価値を重視している場合は特に重要になるからです。営業は自社商品だけではなく、顧客についても徹底的に学び、いかにすれば最適な形で自社の商品を活用できるかを考え、売り込みます。
上記二つ、イノベーションとソリューションを上手く組み合わせ、そこで発見したニーズを基に新商品開発も欠かさない、このような隙のない経営方法は、ある種の理想形と言えるのかもしれません。ただ全ての企業がキーエンスのような姿を目指すことが難しいとは思います。本書の内容自体が付加価値や利益率について焦点を当てている事もあり、暗い部分が曖昧になっている印象も受けます。それでも一つの完成形として参考にすべき点は多い、そう感じる内容でもありました。
個人的には、船井総研の経営の在り方と大変似ていることを発見して興奮してしまいました。粗利80%以上を目指す経営で、マス・カスタマーゼーション(顧客のニーズに寄り添った製品開発をするが、必ず大量に販売できるもののみを製品化する)などが大変似ていると感じました。
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2023.04.17:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】欧州の動きに追いつけ!! (※佐野浩一執筆)
2023.04.10:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】付加価値経営 (※舩井勝仁執筆)
2023.04.03:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】目的から考える! (※佐野浩一執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |