トップが語る、「いま、伝えたいこと」
前回のはじめに、つぎのようなことを書かせていただきました。
高校時代、当時存在した「倫理社会」という科目がとても好きでした。
珍しくその授業を楽しみにしていたことが記憶から蘇ってきました。
2年生の「倫理社会」の初めての授業。
「君らな、これ、なんでチョークっていうか知ってるか?」
先生は、指にチョークを持ち、いきなりこの訳の分からない質問を私たちに投げかけました。もちろん、全員が口あんぐり……。
先生:「ここに存在しているのは、ほんまにチョークなんか?」
「みんな、この見えているものが『存在する』と考えていいんか?」
生徒:「・・・・・・・・・・・・」
「(なんや、この先生は……?)」
きっと、皆がそう感じていたと思います。
それくらい強烈なインパクトで、「倫理社会」の授業がスタートしました。
先生は、「存在」というものについて、先入観を取っ払ってとらえさせようとされたのですね……、きっと。もちろん、これはかなり後になっての気づきではあります。
この授業展開、実は、もう哲学の本質というか、本質的課題にグイっと切り込まれているんですね。超ベテランの先生でしたが、自分自身も長年教師をやっていたからこそわかるのですが、これほど強烈で、核心に迫る「授業開き」はまずできない……という達人の領域です。あれから40年経っても、まだ記憶に残っているのですからね!
さて、私……のことですが、幼いころ、一人っ子であったこともあり、一人で空想の世界で遊ぶのが好きでした。経済的におもちゃなどなかなか買ってもらえなかったものですから、石鹸の小箱やお菓子の箱、そしてはさみとテープでいろんなものを作って、大好きな仮面ライダーやウルトラマンの人形といっしょによく遊んでいました。
「ない」けど「ある」世界……。
この「ない」と「ある」の間を行き来しながら、いつしか、不思議なことを考えるようになったのです。
いまこの目に見えているもの、ひと、建物、自動車……。
これって、本当に「ある」のかな……。
見えていたら「ある」?
見えていないものは「ない」?
本当は、この見えているものは(存在し)なくて、ぜんぶうそかもしれない……。
「ある」と思っているものは、実はなくて、その「ない」も存在しない、またその「ない」も実は「ない」……。また、その「ない」も結局は「ない」……。
つまり、世界は、「ない」の無限連鎖で「存在」している……と。
でも、私自身は、いまここに「いる」(ある)……。
こんなことをイメージする不思議っ子だったのです。
だから、「ある」と「ない」に滅茶苦茶興味を持てたのでしょうね。
さて、さて、いきなりですが、ニーチェの「神の死」宣言……。
これによってよりどころを失った人間に残された最後の砦は、まさに「存在(ある)」だったのです。神という唯一無二の存在が失われたとしても、少なくとも何かが「存在」していることだけは間違いない……。だから、この「存在」について考えれば、人生の秘密がわかるかもしれない……と。
ここで登場するのが、あのハイデガーの主著『存在と時間』。
「ある(ザイン)」ということについて、徹底的に分析した一冊だと言われていますが、解説付きで読まないと理解できないところもあり、そういう点でもまさに偉大な書です。
「コップがある」「ペンがある」などの「ある」を説明せよと改めて問われるとよくわかりません。「ある」は「ある」という観点からすれば、「ある」に決まっているからです。でもハイデガーはこの「ある」についてぎっしり説明しています。
ハイデガーは「存在者」と「存在」を区別します。これを「存在論的差異」と言います。コップについて言えば、「コップ」(存在者)と「コップが存在する」(存在)することとは違います。
存在している「コップ」「ノート」「鉛筆」などは存在者です。これらは手に取ったりできますが、すべてに共通していることは「存在していること」です。「存在」それ自体は見えません。だから「存在者」(コップなど)の中に、「存在」そのものを探し求めても無駄だというわけです。
では、存在者を存在たらしめている存在とは何なのか?
面倒くさい問いなのですが、この著によると、「それは人間(現存在)だ」というのです。別に人間が妄想で外部の世界を作り出しているという話ではありません。「あるなぁ!」とリアルに感じている存在が人間(現存在)なのですから、その人間を分析すれば、存在の謎が解けるのではないかとハイデガーは考えました。人間は自己の存在と人間以外の存在者の存在について認識する唯一の存在者だからです。
では、その現存在はどのようなあり方をしているのか?
まず、私たちは存在しようと決めたわけでもないのに、知らぬ間にここに存在してしまっています。それは、箱の中にケーキが入っているように、自分自身がこの空間の中に入っているのとはちょっと違うわけです。
空間というか、この世界が一つのパッケージになっているので、人間だけをそこから切り離して取り出すことはできません。ということは、自分自身がこの世界の中にいることを事実として求めざるを得ません。こうしたあり方を、ハイデガーは、「世界的内在」と表現しました。
ところで、私たちの日常を取り巻いている世界にまず現れる物は「道具」です。道具は、いつも「〜のために」というように互いに指示し合って一つの連関をなしている……というのが、「道具連関」というとらえ方です。こうした道具連関を成り立たせているものは、現存在がそのつど自分自身の可能性を気にかけているからだといいます。これを、「気遣い」という表現をしているのは、とっても違和感を感じると思います。
雨が降りそうだから、傘を用意しよう。もちろん、雨に濡れないように……。そして、明日も一日この傘をさしながら存在していられますように……。つまり、明日も無事でありたいと、自分の存在の可能性を「気遣って」いるからこそ、道具の意味があると伝えています。このことを、「有意味性」と言います。
「気遣い」というのは、普通、他人を気遣うという文脈で使われます。ここがミソのようです。つまり、「気遣う」とその対象は他人となって、他人が基準となります。つまり、そこで自分は「なくなって」しまうということです。そのとき、人間は自分自身として生きているのではなく、自分が世間的なレベルにあわせて生きている「ダスマン(ひと)」だと、ハイデガーは考えたのです。
ここからが、とても哲学的で、論に飛躍があると思うのですが、なぜ人は他人を気遣うのかというと、それは「死」から目を背けたいからだというのです。人生のラストが「死」ですから、「存在」は時間から説明されると考えます。「最後は死ぬ」ということは、他人事ではありません。人それぞれが「死への存在」であることを直視して、自分の死を受け入れる立場、「先駆的覚悟性」を持っているのです。
ということは、存在の意味は「時間性」ということになりますね。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
訳が分からない……とお感じになられた方も多いでしょうね……。
でも、いまの私たちにはあたりまえに持っている「ある」という感覚を、徹底的に究明しようとしたところが、とても面白く感じたのです。私自身は、かねてから「ない」ことに興味を持っていたからこそ、この「ある」っていうことがすごいことなんだって感じられたんだと思います。
結局は、なんだかんだ言っても、「ある」のだから、そこから広がる世界をありのままに受け入れ、人生という時間のなかで、この「ある」を存分に味わえたらいいですね。
感謝
2023.05.22:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】超訳「五輪書」 (※舩井勝仁執筆)
2023.05.15:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】本当の『無知の知』 (※佐野浩一執筆)
2023.05.08:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】インベスターZ (※舩井勝仁執筆)
2023.05.01:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】人生はご縁のたまもの (※佐野浩一執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |