トップが語る、「いま、伝えたいこと」
株式会社本物研究所は、おかげさまで、本年「創業20周年」を迎えることができました。これもひとえに皆さまのお力添えと応援があってこそと、心より幸せと感謝をかみしめる今日この頃です。
創業当初、舩井幸雄が、「会社経営はそんなにむずかしいものではない」と口にするのを耳にすることがありました。私としては、20年という月日を過ごしたにもかかわらず、まだこの「経営」という正体不明の対象に、日々必死に向き合う……。ただそれだけです。
もちろん、後に、この「むずかしくない」の前提として、つぎにあげるようなことを丁寧に行い、なおかつ人間性を十分に高めていけば……という条件付きであることを知り、経営とは人生をかけた長い“旅路”であることに気付くのでした。
舩井幸雄曰く、
「売上げを上げて、コストを下げればよい」
「質素倹約が一番」
「自然の理にしたがって、ムダ、ムラ、ムリをやめればよい」
「社員とのコミュニケーションは、まず好きになることからだ」
「得意なものを伸ばし、苦手なことには触れてはいけない」
「経営とは効率である。そして、効率とは思いやりである」
「自分を活かすのはあたりまえ。人を活かすのが人財である」
「百匹目の猿の、一匹目になろう」
ずいぶんシンプルだなぁって思いつつ、奥へ、奥へと掘り下げていくと、なんと奥行きの深いことか……。「舩井流」しか知らない私は、今日もまた「舩井流」と向き合い、まだまだ深掘りしないと見えてこないであろう真理にワクワクしています。
さて、そんな舩井幸雄は、「経営は人なり」との言葉も残しています。
実は、この言葉がもっとも私の心の奥深くに届き、教員からビジネスの世界に飛び込む原点となりました。
そして、ご縁あって、株式会社船井総合研究所で仕事をさせていただくことになり、最初に触れた大きなテーマが「フロー」だったのです。人財育成のコンサルティングや研修をやらせてもらうことになったとき、リクルート出身のバディから教わりました。
時を同じくして、舩井幸雄がよくセミナーでゲストとしてお招きしていたのが、元ソニーの役員でいらっしゃった天外伺朗先生。
天外先生は、現在の日本の会社組織が行き詰まりを覚えイノベーションを起こせない背景に、行き過ぎた成果主義などいわゆる合理主義があると指摘されています。そんな合理主義の特徴として、確固たるピラミッド型の組織、上意下達の命令系統、細かなルール、責任や役割の細分化などが挙げられます。この組織の中で、そこで働く社員の皆さんは報酬やポジション、名誉など外的要因による動機づけのもと、成果を求め競争を繰り返してきたのです。天外先生は、こうした環境下では、豊かな発想は生まれず、イノベーションは起こらないと説かれたのです。
創業期のソニーはこれと対極にあり、形の上では組織はあったものの、上司・部下の壁は薄く、社員には自由と自主性が保障されていました。ソニーの設立趣意書にある「自由闊達にして愉快なる理想工場」が風土として根付き、創業者、井深大氏の「仕事の報酬は仕事」という言葉にある通り、社員の皆さんはより面白い仕事を自ら求め、つまり内発的動機に突き動かされて仕事に励んだと教わりました。天外先生はこうした環境があったからこそ、トランジスタやテープレコーダーなど世の中になかった技術がソニーで開発されたと強調されています。
そう、あの「フロー理論」です。コンサルタントとして人財育成に取り組むためには、この「フロー」こそが起爆剤になると知り、当時、勉強を重ねたことを思い出しました。
「フロー」の提唱者はミハイ・チクセントミハイ、アメリカの心理学者です。チクセントミハイは、「幸福」、「創造性」、「主観的な幸福状態」、「楽しみ」といった「ポジティブ心理学」を研究対象とするなか、「フロー」という心理状態に着目したのです。フローとは、「時を忘れるくらい、完全に集中して対象に入り込んでいる精神的な状態」を指しています。舩井幸雄も、その人の役割や使命を見出す視点として、「時間を忘れるくらいに没頭できる対象」を挙げています。
皆さんも、子どものころ、時間も周囲のことも完全に忘れ、ワクワクしながら、夢中になって、没頭した経験がおありになるかと思います。もう目の前のことに吸い込まれているような、あの感覚……。それは、この体験を語る多くの人が、この状態を淀みなく自然に流れる水に例えて「フロー〈流れ〉の中にいるようだ」と表現したからだといいます。
ちなみに、大人においては、この「フロー状態」は、面白いことに「仕事をしているとき」により多く報告されているといいます。舩井幸雄は「仕事を趣味にすればよい」とよく言いましたが、舩井自身がそうであったこともあり、まさにこの「フロー理論」に則って、こうしたことを伝えていたのではないかと、ふと思いました。
ちなみに、「フロー」体験に共通した条件を挙げると、次のようになります。
@目標が明確で、達成のために何をすべきかが明らかである。
A迅速なフィードバックがある。
Bスキルとチャレンジのバランスがぎりぎりで取れている。
Cその活動に集中している。
D時を忘れ、忘我の状態にある
E自分の行動をコントロールできていると感じている。
F世界と一体化していると感じている。
そういえば、創業期、まさに時間を忘れて仕事に取り組んだ創業メンバーたちは、こうした経験を何度も何度も積んでいたのではないかと思い返しています。
あれから20年が過ぎ、時代も大きな変化を遂げました。いつしか、ワーク・ライフ・バランスが重視されるようになり、近年はさらに「働き方改革」が提唱されるなか、少しでも多くの休みを取り、少しでも労働時間を短くすることが強調されるようになりました。多くの人はなるべく早く仕事を離れ、私生活で自由な時間をより多く取ることが幸せな生活だと考える傾向も強まってきています。こうした背景として、長い間働く人たちが過酷な長時間労働を強いられてきた歴史があり、労働時間の短縮を勝ち取ってきた歴史から、自由時間が多いほど幸せだとの考え方が定着したからだと考えられます。
コロナ禍も、こうした流れに拍車をかけました。仕事は会社の外に持ち出され、顔は見えているというものの、それはパソコンの画面上の世界です。情熱や気概、信念を表現するには、あまりにこの画面、空間は狭すぎました……。さらには、仕事の生産性や効率が重視されるあまり、メンバーは自分の仕事以外に関心を持ちにくく、チームワークが育まれる素地が一旦は失われてしまったのです。
もう未来を託す若い人たちにとって、「フロー」は昔話になってしまうのでしょうか?
チクセントミハイは、つぎのように述べています。
仕事を意義あるものにしようとして本気で取り組むことで、平凡な仕事でさえ人生の質を向上させうる事例も存在し、本来可能なことだと……。そのために、経営者・管理職・リーダーが仕事の意味づけや方法を工夫し、社員・部下・後輩に適切な支援を行うことと、働く個々人が自分の仕事を意味あるものにする努力と工夫を行うことで、職場でフローを実現することは十分可能であると……。
そのためには、チームが同じ目的に向かって仕事をしていることを理解し、お互いの役割を把握した上で、各自が切磋琢磨している様子を共有することが大事です。一人ひとりが当事者意識を持って仕事に取り組み、自ら創意工夫できていることを共有できたら、「メンバー皆が頑張っているのだから、私も頑張ろう」と、チームの中にお互いが啓発し合う風土が生まれるものです。こうなれば、チームの成長はぐんと加速していきます。
本物研究所では、20年間、「全体会議」の時間を大切に考えてきました。形は少しずつ変化させてきましたが、ここに投じる思い、目標は変わりません。実は、今年度より、「スポットライト」という時間を設けました。各部署のなかで実践していること、注目されるべき仕事、成長著しいキャストなどにスポットライトを当て、成果を共有する時間です。互いの仕事の関連性を意識してもらえたらと考えると同時に、他のキャストの仕事についてもよく理解してもらい、「どうチーム(会社)の目的達成により近づけるか」を考えるきっかけにしてもらいたいと思ったのです。質問やアドバイスもし合えるようになれたらと思います。近い将来、私ではなく、ファシリテーターの役割を自覚してくれるキャストが育ってくると、「○○さんから何かアドバイスできることはない?」と、他のキャストに話を振って、巻き込んでしまう……。こんな風になれたらと期待しています。
うまくいっているキャストの報告でも、皆に「さらによくしていくためのアイデアは?」と投げかけ、より前向きな議論に発展するといいですね……。お互いの仕事について考え合い、安心して意見を言い合える場をつくることが、チームが目的に向かって一丸となり、相互啓発し合う関係につながると考えます。
こんな流れから、この時代にこそ生まれる「フロー」を会社に取り戻し、醸成していけたらと願っています。
日本のメンバーシップ型雇用の中でチームがうまく回ってきたのは、互いの仕事の境界が不明瞭な部分があるなかで、ちょっとしたサポートを互いに「あうんの呼吸」で担い合ってきたからです。しかしながら、世の中は、一人ひとりの役割を明確化するジョブ型へと少しずつ、いや大きく舵を切り始めているように感じます。
でも……、いや、だからこそ、人生の多くの時間を充てる「仕事」をとおしてこそ、役割や使命を見つけ、幸せな人生を送ることができるとした舩井幸雄の哲学を、いま一度見つめ直してみたい……。そう思ったのです。
その答えは、だからこそ「フローに向かう!」。
時代が変化するにしたがってより貴重な体験となる「フロー」を経験してもらうために、あるいは「フロー」に近づいてもらえるよう、その道筋を何本も設計することが、経営者としてのミッション。
そんなことを感じる今日この頃。
「フローに向かおう!」
感謝
2023.06.19:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】家族の枠 (※舩井勝仁執筆)
2023.06.12:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】フローに向かう! (※佐野浩一執筆)
2023.06.05:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】インドを感じる (※舩井勝仁執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |