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「人間は考える葦である」
17世紀フランスの哲学者、パスカルが遺した言葉の1つで、私の大好きな言葉の1つです。人間は、大きな宇宙から見たら1本の葦のようにか細く、少しの風にも簡単に揺らされてしまうような弱いものです。ただ、人間は「思考する」ことができる存在であるということが最大の強みであって、偉大である……、ということだと理解しています。
この名言は、ご存じのとおり『パンセ』と呼ばれる書物に記されています。『パンセ』とは「断想」という意味で、39歳で亡くなったパスカルが生前に書いていたノートにあった断片の文章をまとめたものです。パスカルの死後、友人たちにより編集されたと言われています。
『パンセ』には、「人間は考える葦である」という言葉はもちろん、人間に対する思索や文章について、神について、賭け事についてなど、さまざまな対象に対するパスカルの考えがまとめられていて、めちゃくちゃ面白いです。
ところで、「人間は考える葦である」には、続きがあるって、ご存じでしたか?
もちろん、学生時代に習ったときには知りませんでした。
でも、ここからが真骨頂というか、面白いのです。
「人間を押しつぶすためには宇宙全体が武装する必要はなく、蒸気や一滴の水でも人間を 殺すことはできるだろう。もし宇宙が人間を殺しても、人間は尊い。なぜなら、人間は自分自身の死を理解している点で、宇宙よりも尊厳のある存在といえるのだ。人間の尊厳は、すべてその思考の中にある。よく考えることに努めよう。考えることにこそ、道徳の原理があるのだ。」
人間はこの「考える」という行為でもって、その尊厳が認められるということなんですね。思考こそが、人間の尊厳を決めているということです。
深読みをすると、この「人間は考える葦である」という言葉には、いくつかの意味が込められていると考えられます。
@小さくか弱い存在としての人間
あえて細い葦にたとえたことで、人間という存在が宇宙から見れば本当に小さく、か弱い存在であることを表現していると考えられます。ちなみに「葦」は聖書の中にも出てくる植物で、これは偶然ではなく、キリスト教徒として自覚していたパスカルの意図的な選択だと考えられます。
A思考力を持つ存在としての人間
寿命が来たときやアクシデントが生じたときは、どんなに素晴らしい存在として認められていても、その命には限りがあります。しかし、考えるかどうかという点では、人間と植物は異なります。葦はきっと考えない存在ですが、人間は考える存在です。葦の中は空洞ですが、人間の中には思索が詰まっています。
B考えて出した答えがその人を表す
考えて答えを出し、世界をより良くすることができることが人間を他とは異なる存在にしているということです。また、考えることは人間の一部ではありますが、「考えて出した答え」もまたその人の一部です。パスカルは、人間の尊厳は思考の中にあり、よく考えることが大切だと述べています。単に考えるだけでなく、よく考えることを日々の生活の中で習慣にしていきたいですね。
そんなパスカルですが、彼は10歳になる前に三角形の内角の和が180度(二直角)であることを自力で証明しています。19歳で最初の機械式計算機を発明し、他に「パスカルの定理」「パスカルの三角形」「パスカルの原理」の業績を残し、フェルマーの定理で有名なフェルマーとの文通の助けもあって確率論の基礎を考案しました。社会的には、貧民救済の資金をつくるために乗り合い馬車を考案して会社を創り、1662年の春にはパリに乗り合い馬車を開通させたのだそうです。
パスカルの考え方の特徴は、「人間」「時間」「自然」「存在」「神」といった、ふだんよく口にしたり、身近であったりするものを「無定義概念」と見たところです。要するに、どれもが私たちにとってはよくわからないものではあるけれども、事実として、いろいろと利用して生きているわけです。しかも、すべて、なくてはならないものとして存在しています。そうした、極めて曖昧で、中途半端な立ち位置にあるのが、人間そのものということです。にもかかわらず、人間は、自分自身の生活のしかたによって、その「無定義概念」、つまり定義されていないものに自分なりの概念を与えていくことになります。
ここからは、少々、『パンセ』から引用する形で、パスカルの考え方を見ていきたいと思います。
「世には証明される事物がいかに少ないことか!…中略…習慣こそ、もっとも有力なもっ
とも信頼すべき証拠となる。…中略…あすはくるだろう、われわれは死ぬだろうということを、だれが証明したであろうか?…中略…だから、それらをわれわれに信じさせているのは、習慣である」
「想像力はすべてを左右する。それは美や正義や幸福をつくる。それはこの世のすべてである」
「神を直感するのは、心情であって、理性ではない。これこそすなわち信仰である。心情に直感される神、理性にではない」
パスカルは、神の存在は論理や知性では証明されない、と考えています。それでもなお、人間は神がいるだろうということを否定できない心情を持つ傾向があります。たとえ、神が存在していないとしても、神がいると前提して良く生きることに賭けるほうがましだと考えていました。なぜならば、神がいないとわかった場合でも、良く生きたこと自体が結局は自分の得になるからです。この考え方が、有名な「パスカルの賭け」と呼ばれるものです。
「人間には決してわからないことがある」
人間は自分の可能性は無限大と考えがちですが、実際には人間は両極端の中間にいることでしか生きられないとパスカルはいいます。たとえば、人間の感覚は極端なものは知覚しないし、快楽だと感じるようなものであっても、それが過剰であれば不快になることがあります。
また、「知る」という行為においても、ある対象に対してその全体やすべてを知ることは不可能です。つまり、ある程度しか知ることができないけれど、完全に無知だということでもないということです。
私たちは、自分の身体が何であるのかを知らないのに身体を動かしています。精神が何たるかを知らないのに、精神の働きを実感しているのです。このように、人間の「生」というものは、極端の「中間」にのみあるとしている点が、とても面白く感じます。
パスカルは科学者でしたから、当然自然の原理については、様々に研究してきたわけです。でも、結局私たちが発見して利用している原理というのは、自分の生活に習慣づけることのできた原理のみであって、習慣からまったく離れた純粋な原理というものはないとしています。これが、私たちが知ったり利用したりできるものすべては、この人間の「中間的な生き方」に合った形でしか存在していないという思索につながっていきます。
でも、マクロに捉えてみると、私たち人間の現実性を深く洞察していて、理性と呼ばれるものよりはむしろ、心情や習慣の大切さを説いている点が、とても人間臭いと感じます。こうした捉え方が、ある意味ギュッと凝縮されたのが、「人間は考える葦である」という言葉なんだと感じます。考えることで、人間は、人としての実存性を確認するわけですからね。
感謝
2023.08.21:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】30周年に思いを馳せる! (※佐野浩一執筆)
2023.08.14:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】死の捉え方を変える (※舩井勝仁執筆)
2023.08.07:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】『人間は考える葦である』 (※佐野浩一執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |