トップが語る、「いま、伝えたいこと」
この原稿は配信する前の週の金曜日の朝に書くことが多いのですが、今回は日本時間の8月25日(金)の午後11時頃から始まる、ジャクソンホール会議でのFRBのパウエル議長の発言に注目が集まっていて、その発言を見極めたいということとちょうど週末になるためにポジションを持っていたくないという投資家心理が働いて、日米とも株式相場が大きく調整しているという中で、原稿を書き始めました。
アメリカの金融業界の人は夏休みにはあまり働きません。だから、日銀やFRBやECB(ヨーロッパ中央銀行)の首脳も避暑地であるジャクソンホールに集まって本音の会議をするという毎年の習慣があります。
いつもの金融政策決定会合やFOMC(連邦公開市場委員会)の場での固い発表ではなく、避暑地に集まって気さくな雰囲気で本音の発言をしてもらおうという趣旨ですが、平素よりは各中央銀行の首脳も本音が話しやすく、重大な金融政策の転換点になることが多く、市場の注目を集めるようになりました。
今回は特にパウエル議長が更なる金融引き締めに向けての発言をするのではないかという憶測が流れていて、市場のコンセンサスとしてはそろそろ金利の引き上げは打ち止めで来年になれば利下げが開始されると織り込まれており、これと違うシナリオの発言が出ることに対する警戒感が強くなっているというところです。
また、初参加になる日銀の植田総裁の発言にも注目が集まっています。
前回の金融政策決定会合でややサプライズ気味に実質的な長期金利の上げや、ひいては禁じ手であるとも一般的には考えられている長期金利を中央銀行がコントロールする政策を解消するための道筋をつけたことを市場関係者からは賛同を持って受け入れられているのですが、もっと踏み込んだ発言をするかどうか、それによって日本の長期金利の行方はどうなっていき、ひいては為替相場や株式市場にどのような影響を与えるのかにも注目が集まっているのです。
ちょっと余談になりますが、日本企業も1年に1度ぐらいはリゾート地で取締役会などの会社の方向性を決める重要な会議をするべきだと思っています。会社の会議室では出てこないような発言や発想が生まれてくる可能性が極めて高く、経費や時間がもったいないと考える経営者が多いのだとは思いますが、場を変えることの効果の方がはるかに高いと思います。残念ながら日本の避暑地でエグゼクティブが集まって会議をするような設備が少ないような気もしますが、日本がダイナミックスさを取り戻すには、こんな試みから始めればいいのかなと思います。
話しを戻すと木曜日の株価は、どちらかというと上げ基調だったので、中央銀行の首脳たちの発言次第で市場の方向性が決まることになりますし、実際に去年のジャクソンホール会議でのパウエル議長の金融引き締め方針の発言を転換点として株価の調整が始まっていることもあって、欧米のインフレが本当に沈静化したかという大事なポイントの確認が行われることになるのだと思います。
今回取り上げるのは、白井聡、雨宮処凛著『失われた30年を取り戻す』(ビジネス社)です。失われた30年とはバブル崩壊後から現在までの日本を示す言葉であり、本書はその影響を強く受けたロストジェネレーション世代、略してロスジェネ世代に焦点を当てたものとなります。本書によると、ロスジェネ世代は氷河期世代、1993〜2004年に社会へ出た世代を指します。昨今、様々な経緯から取り上げられる事の増えた彼らの実態を辿っていくと、バブル崩壊後の失敗続きの日本について理解できる、というものです。
貧困についての専門家である雨宮の存在もあり、幅広い範囲で弱者について触れられています。貧困女性、最近取り上げられる事の増えた弱者男性など。弱者と言われるロスジェネ世代はどのような考えを持っているのか、時事ネタを含めて基礎的な部分を知る事ができる構成となっています。それだけではなく統一教会や政治など、とにかくそれぞれの専門的な視点から失われた30年の原因について語り合っています。あけすけな内容もあり、このような視点もあるのだなと感心する部分も多々あります。
特に面白い部分としては、ロスジェネ世代の特徴として嘲笑と冷笑をあげていますが、確かに世代に当てはまるお二人の対談にも強くその要素は示されており、なるほど身を持ってそれが事実であることを示しているのだと、納得させられるある種絶妙な構成でもあります。ニヒリズム的、ロスジェネ世代はこのような視点で世間をみて生きているのだなと、非常に説得力を持っています。ただ、さらに下の世代についても一部触れられていますが、そこは若い人から見ると偏見的な部分が多く見受けられるので、あまり参考にはならないかもしれません。
登場するフェニミストを目の敵にするロスジェネ世代の所謂弱者男性、自らの価値観に合わない人間はすべて悪だとでも言いたげな主張を当たり前のように振りかざす対談をするお二方。共通しているのは、自分の主張を受け入れない相手側は全て間違っていると、非常に極端な主張をしており、まるで子どもが駄々を捏ねているような様は非常に滑稽で、極端な思考というのは人間性をも尖らせてしまうという教訓を得られたのが、一番の収穫かもしれません。
ただ、まともな就職ができていない人が多く、貧困層が確実に生み出されたロスジェネ世代の主張を確認するということも大事なことで、お二人はあえて極論を話されているという面も考えながら読むと、世代間ギャップを埋めるという面では面白いのでないかと思います。少し、リベラル的な意見に偏っているのかなと思える白井先生の「永続敗戦論」(講談社+α文庫)は、名著だと思いますので、合わせてお読みいただければと思います。
=以上=
2023.08.21:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】30周年に思いを馳せる! (※佐野浩一執筆)
2023.08.14:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】死の捉え方を変える (※舩井勝仁執筆)
2023.08.07:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】『人間は考える葦である』 (※佐野浩一執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |