トップが語る、「いま、伝えたいこと」
「ニッチ」という言葉が使われ始めてからもう久しいわけですが、いま、この「ニッチ」がとても賑やかになってきていると実感します。
そもそも地球の生態系は想像を絶するほど多様で、それぞれの生物は自分に適したニッチ(生態的地位)を確保することで、過酷な進化の歴史を生き延びてきたわけです。
もちろん、私たち「人」も同じで、この地球上に約80億の人々が織りなす状況も、ほかの生物以上に複雑な生態系であると考えられます。だからこそ、「ニッチ」が注目を浴びるようになってきているのでしょうね。
いまや、インターネットの高速化やSNSの登場によって、若い人たちが続々とこのニッチ戦略で成功するようになりました。ユーチューバーやVチューバーなどの職業は10年前にはかけらも存在しなかったわけですし、これから先は、きっと現実世界(の一部)がメタバース(仮想空間)に置き換わり、そこで「暮らす」人々が増え、ビジネスをするようになるとも言われています。
テクノロジーの急速な進歩によって、世界がより一層複雑になり、社会には、ある意味の「不安」がまん延しています。でも、その逆に、社会が複雑になればなるほどより多くの小さなニッチが生まれて、そこで生きられる人々が増えてくるのだろうと推察できます。
一昔前は、女性誌がドル箱で、各誌が乱立している状況でしたが、いまでは「絶滅危惧種」であるという指摘を否定できない状況になってきています。
私自身は、「アイドル全盛時代」にドハマりした年代です。男性は、男前はもちろん、長身でやせていて、足が長い……のが基本。女性アイドルもやはりスマートでかわいい子たちばかりでした。極めつけは、ファッションモデル。長身でやせている白人女性ばかりでしたよね。平均的な日本人の体形とはぜんぜん違っていました。それでも、「あんなふうになりたい」と、髪型からファッションまで、アイドルやモデルのマネをするのが当たり前だったのです。
ところが、2000年代になると、より読者にちかい「読者モデル」が全盛期を迎えます。それでも体形は一人ひとりちがうので、雑誌で見て「いいな」と思っても、実際には「似合っていない」ことに愕然とした経験は、多くの方がお持ちになっていることと思います。
しかし、こうした「問題」をSNSのテクノロジーが解決しました。自分と同じような体形の方がどのような着こなしをしているかをインスタグラムで確認したり、自分と顔が似ている女性のメイク法をYouTubeで勉強したりすることができます。各ブランドのサイトでも、身長や場合によっては体重まで記された「顔出し一般人モデル」(そのブランドのスタッフやファン客が活用されています)の写真がアップされていて、確認できるようになっています。
こうなると、「マス」はもうこの「個性化」「個人化」というテーマに対抗できなくなりますね。「舩井流経営法」は、そもそもこのニッチ狙いが大きなテーマであって、「地域一番店主義」も「長所伸展法」も、そして「包み込みの戦略」も、「弱者」が強くなれる黄金則であったわけです。
強者が退場すれば、その分だけ弱者が生き延びるニッチが広がるわけですね。このようにして、たとえば、限定された(自分に似ている)女の子たちにファッションやメイクを教えることが「小さなビジネス」として成立するようになり、やがてはそのなかからプチ有名人が登場することになります。
このニッチ戦略は、最近では「推し」と呼ばれています。どんな小さなジャンルでも、そこでナンバーワン(ロングテール)になれば、熱狂的なファンから「推される」ようになります。舩井幸雄は、ずっと「ファン客」と「信者客」を構築することを強調し、自身でも壮大なる実践を重ねたわけですが、まさに本格的に、そういう時代に変化してきたとも言えます。
さて、2021年の流行語大賞にノミネートされるなど、「推し活」という言葉の認知度が上がってきています。一口に推し活といっても、その活動内容はさまざまです。
ちなみに、「推し」の対象は、大きく分けて以下の3つに分けられると言われています。
@二次元のキャラクター
A三次元の人物
B人物以外
二次元のアニメ・ゲーム・漫画のキャラクターをはじめ、アイドル・俳優・声優・スポーツ選手・歴史上の偉人などの三次元の人物、さらには鉄道や建造物、動物といった人物以外と、推し活の対象は幅広いです。
一方、作品を楽しむ方法もさまざまです。雰囲気や世界観を楽しむ推し活もあり、ゲームやアニメなどのBGMやテーマソングを交響楽団の生演奏で楽しむコンサートイベントなども開催されています。
こうした「推し活」と似た意味で使われる言葉に「〇〇担」や「ヲタ活」があります。それぞれの推し活との共通点や違いについて触れてみます。
「〇〇担」は、あるグループの中の自分が好きな人物や物を明言し、応援することを指す言葉です。「〇〇推し」とも言い、グループ全体を応援する場合は「箱推し」や「オール担」などと言うそうです。
「ヲタ活」は、推しのイベントを楽しむ活動全般を指します。アイドルなら、握手会やサイン会、コンサートなどが挙げられます。そう考えると、推し活との明確な区別はあまりないようです。
また、1990年代後半から2010年までに生まれた若い世代「Z世代」の間では、推し活のことを「推しごと(おしごと)」とも呼ぶ文化もあるそうです。この言葉には、仕事のように日常の割合を大きく占める重要な活動という意味がかかっています。
「推し活」をとおして、
@人生を豊かにする楽しみ
A心身の癒やし
B仕事や勉強・自分磨きのモチベーション
C同じ趣味を持つ友だちやネットワーク
推し活は、このように人生を豊かにしてくれる楽しみであり、実生活での身体的・精神的な疲れを癒してくれるものと考えてよいと思います。推しが存在するだけで、幸せな気持ちになれ、落ち込んでも嫌なことを乗り越えられたり、ストレスを軽減できたりする人もいます。
私自身は、もう50年以上、プロ野球の「オリックス・バファローズ」を応援していますが、スマホで全試合を観ることができるようになり、またグッズも球場に行かなくても簡単に手に入る時代になりました。テレビやスポーツ紙での扱いが小さかろうと、試合ごとの記事やヒーローインタビュー、動画でのダイジェストも当たり前に観れますので、その“熱狂度”は明らかにグンと高まっていることを自覚します。「推し活」は、球場に足を運び、楽しむことですね……。
横道に逸れましたが……、仕事や勉強を頑張る原動力にもなり、推し活をすることで、日々の生活にハリが出ます。また、対象が実在の人物ならば、推しに会う時に恥ずかしくないようダイエットやオシャレを頑張ったり、推しに見合った自分になるよう言動に気を付けたりする動機にもなり得ると……、若い子たちから聞きました。
もう少し掘り下げてみると、「推し活」にはさまざまな活動があるそうです。
@推しに会う(「逢う」という人もいます)
対象が三次元ならば、「握手会やライブ・コンサートに行く」「推しゆかりの地を聖地巡礼する」「ファンレターやプレゼントを贈る」などです。ライブやコンサート、映画、アニメなどの作品鑑賞も含まれます。二次元キャラクターの場合は、作品の鑑賞がメイン。また鉄道や建造物などの人物以外が推しなら、直接現場に行って、写真を撮ったり電車に乗ったり建物の中に入ったりする楽しみ方もあります。
A推しに触れる
「推しのグッズを買う」「グッズをコレクションにする」「写真や動画を観る」など。グッズは定番もあれば、限定販売のものもあり、珍しいグッズを集めることを楽しんでいる人もいます。自作のオリジナルグッズを作るのもありです。推しをイメージしたマグカップやオリジナルTシャツ、トートバック、マスクなどのオリジナルグッズを作れば、日常生活で推しに触れられます。
B推しに染まる
「概念推し」などとも呼ばれています。たとえば、服やネイル、アクセサリーなどを推しのイメージカラーに統一するなどです。家具を推しのイメージカラーにすれば、日常生活で推しに囲まれている雰囲気を味わうことができます。推しと同じアイテムを持って、推しに染まれば、何気ない日常で推しを感じられます。
C推しを広める
推しの良さを周囲に布教する、「推しを広める」活動も、推し活に含みます。同じ楽しみを共有できる人が増えて、より推し活が楽しくなります。また、ファンが増えれば増えるほど、推しの人気が高まり、長く活動してくれたり、コンテンツが長く続いたりする可能性が高まります。やはり、SNSの活用が中心となります。
D推しを感じる
「ひとり静かに推しのことを考える」「推しが生きていることに感謝する」のも推し活の方法です。推しへの思いを馳せていれば、それは立派な推し活といえます。日常生活の何気ない瞬間にも推しを感じるには、公式グッズなどを身の周りにおけるような人形や写真立て、キーホルダーなどもおすすめです。
ふと我に返ると、私の部屋はバファローズの推しの選手のユニフォームや応援タオルがズラリ……。日常使いのリュックも、バファローズファンクラブの公式グッズです。すっかり「推し活」をやってるんだなって自覚した次第です。
舩井幸雄がもう早くから伝えていた「ニッチ戦略」が、いよいよ「推しの時代」になったことで、さらに明確になってきたと感じます。
日本では、秋元康さんがプロデュースした「おニャン子クラブ」、つんく♂さんがプロデュースした「モーニング娘」などが、おそらく推し活の原点だったのでしょうね。そしていまや、YouTubeやTikTokなどの普及により、一人のカリスマではなく、だれでも「推し」の対象になれる、あるいは対象に育てられる時代。
舩井流マーケティング自体が、古くてもっとも新しい黄金則であることを、あらためて確認できたと……、思わず膝を叩いてしまいました。
感謝
2023.09.18:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】縦の糸 横の糸 (※佐野浩一執筆)
2023.09.11:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】選挙学 (※舩井勝仁執筆)
2023.09.04:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】推しの時代 (※佐野浩一執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |