トップが語る、「いま、伝えたいこと」

このページでは、舩井幸雄の遺志を引き継ぐ舩井勝仁と佐野浩一が、“新舩井流”をめざし、皆様に「いま、伝えたいこと」を毎週交互に語っていきます。
毎週月曜日定期更新
2023年9月25日
ベーシックインカムの副産物 (※舩井勝仁執筆)

 先週行われた、FRBのFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げは見送られましたが、来年の利下げの幅が0.5%に抑えられる見込みが発表されるなど、市場の予想以上にFRBの姿勢がタカ(金融引き締め)派に寄っていることから、世界中の株式市場が調整局面に入っています。それまで、特に日本株は好調に推移していたのですが、この流れには逆らえず調整圧力が強まっているようです。
 締め切りの関係で、金曜日の午後に結果が発表される日銀の金融政策決定会合の結果はわかりませんが、植田総裁のやり方を考えると多少は市場へのインパクトはありますが、十分マーケットが吸収可能な線での発表になるのではないかと思っています。FOMCの政策も市場予想よりも強気だったというだけで、多分すぐに織り込んで少し長い目で見れば大きな問題にはならないように思います。ただ、FRBのパウエル議長の方向性に対するブレを市場は敏感に感じ取っていて、それに対してゆさぶりをかけて儲ける機会を虎視眈々と狙っているといったところでしょうか。
 金曜日の日経新聞電子版に、マイクロソフトが任天堂の買収を検討していたという記事が流れました。日本人の感覚で言うと、にわかには信じがたい話ですが、マイクロソフトの時価総額が350兆円あるのに対して任天堂は8兆円ですので、十分実現可能な数字だということがわかります。岸田総理がアメリカでもっと日本への投資を呼び込む施策を実施して日本の株価を上げようという方針を打ち出されましたが、そうすると任天堂のような日本を代表する企業すらアメリカの大手ハイテク企業からすれば十分に買収の対象になってしまうことがよくわかります。
 同じ日の日経電子版には円の実力が1970年8月の水準を53年ぶりに下回り過去最低になったという記事も載っています。1970年というとニクソンショックの前なので、為替が固定レートで1ドルが360円だった時よりも円の実力が下がったということです。そういう意味では、円の実力が実効レートという指標で見ればですが、戦後最低になったということとも言えるのだと思います。
 いくら何でも実感としては、これはおかしいのだと思います。1970年と言えば三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊に突入して自決した年になります。私はまだ6歳なのでそんなにはっきりとした記憶はありませんが、家のトイレはまだ和式の汲み取りで白黒テレビしか家にはありませんでした。親戚の家にはカラーテレビがあったのですが、そこで見るサンダーバードというアメリカの番組を見て、なんてきれいなんだろうと感激したことをいまでも覚えています。それほどの貧しさは生活をしていて感じませんので、はっきりいって政治の失敗と言わざるを得ないような惨状になってしまっているということです。
 足下はインフレも進んで、マクロに見ればこの状態は少しだけ改善されていることになりますが、私たちも相対的な日本の国力を強くしていくにはどうすればいいかを考えてみなければなりません。できることは小さなことかもしれませんが、例えばご自分の会社の製品やサービスを輸出するなどすれば国力が上がることになりますので、他人事にせずに私たち一人ひとりが何をできるかを考えていくべきときなのかもしれません。

 今回紹介する本は西野卓郎著『ベーシックインカムから考える 幸福のための安全保障』(幻冬社)です。ベーシックインカム関連書籍は多数存在しますが、本書は特に社会的弱者に寄り添った視点で書かれています。著者は東京都の公務員だった方で、いろいろな政策に関わってこられました。それが理由なのかどうかはよくわかりませんが、社会的弱者についての話題が多く上がっています。若い人の間ではいまの世の中で弱者が成り上がるにはYouTuberになるしかない、という話もありました。極端なようですが、その考え方は実際に説得力を持って広がっており、再生数を稼ぐために社会に害をなす迷惑系と呼ばれる人々も出現していて最近では私人逮捕動画という冤罪と私刑というものまであり、多くの問題を孕んでいるものが流行っています。
 本書内では、社会的弱者という定義に該当する、障がい者、シングルマザー、生活保護受給者等の救済や、上記のような極端になっている格差社会を是正するためにも、ベーシックインカムは有用であると書かれている点です。その中でも特に面白いなと感じたのは、一般的に広く効果的だと言われる弱者支援や賃金の問題から厳しいと言われている地方移住が可能になるというだけではなく、企業誘致や職人的な職業復権についても触れられていた事です。考え方次第では、我々が考えているよりも多くの副産物が生まれるかもしれません。
 また、本書の中でも触れられていますが、ベーシックインカムはセーフティーネットとしては非常に強力なものです。生活保護とは違い受給のハードルもなく、収入を得ることによって発生するデメリットの解消にもなるのは、大きなメリットです。今後、現在のままの仕組みでは生活保護が増え、ただでさえ少ない現役世代の労働人口がそれによって減ってしまう事は予測されます。その部分を改善できる可能性は非常に価値のあるものでしょう。
 本書は、ベーシックインカムのみに焦点を当てた本ではありません。他の福祉についての内容も多く含まれています。ただベーシックインカムについて学びたいのであれば、それを強く推進しようとする竹中平蔵氏が監訳された『ベーシックインカム』(クロスメディア・パブリッシング)などが解説書としては有用だとも思います。しかし、それらを読んでいく中でどこか違和感を覚えた方は、本書に関心を持つ可能性が高いようにも思います。
 資産に対する課税など一部の内容について、行き過ぎだという意見はあるかも知れません。しかし私たちが完全に理解しているとは言い難い社会的弱者の視点からすれば、それぐらいの措置が必要であると考えているかもしれないのです。今の弱者は、自らがそのような存在であり、そうである原因は生まれや育ちという理不尽も影響していると自覚している方がほとんどです。その点について、きちんと理解した上で読むと、さらに楽しめる本かもしれません。
                        =以上=

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2023.09.25:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】ベーシックインカムの副産物 (※舩井勝仁執筆)
2023.09.18:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】縦の糸 横の糸 (※佐野浩一執筆)
2023.09.11:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】選挙学 (※舩井勝仁執筆)
2023.09.04:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】推しの時代 (※佐野浩一執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長
1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。
2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了)
著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。
佐野 浩一(さの こういち)
株式会社本物研究所 代表取締役社長
株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長
公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事
ライフカラーカウンセラー認定協会 代表
1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。
著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。
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