ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
トランプが任命した億万長者のイーロン・マスクが主導する「政府効率化庁(DOGE)」は凄まじい勢いで米連邦政府の省庁の改革を実施している。省庁や部局の閉鎖や縮小が断行されると同時に、約200万人に上る連邦政府職員の解雇を目標にしている。期限内に自主的に辞める職員には9月30日までの賃金と福利厚生の提供を保証し退職を促したが、7万5000人しか応じなかった。残りの職員は、これから省庁や部局の閉鎖で強制的に解雇する予定だ。
「DOGE」が実施しているこの計画は、実はさほど突飛なものではない。トランプ政権の政策綱領の骨子であり、政策実現の具体的なマニュアルである「ヘリテージ財団」の「プロジェクト2025」がある。これは、連邦政府を大幅に縮小して中央集権制を弱め、権限を州を単位とする地方自治体に委ねる分権制に移行するプランである。いま「DOGE」が行っていることは、すでに「プロジェクト2025」に明記してある事項を実施しているに過ぎない。予見可能な内容である。
●閉鎖や縮小の対象になる省庁
しかし、そうではあっても「DOGE」の改革のスピードは驚くべきものだ。2万人の職員を要する「国際開発庁(USAID)」の閉鎖などはその典型だが、あっと言う間に省庁や部局が閉鎖になっている。「TikTok」のようなSNSには、突然と解雇された連邦政府職員の嘆きの声や抗議が溢れている。また全米各地で、連邦政府職員の激しい抗議運動が起こっている。以下はすでに閉鎖や縮小が決まったか、またはこれから監査が予定されている省庁だ。
・アメリカ航空宇宙局(NASA)
「NASA」の支出に「DOGE」の監査が入ることが決まった。これから大幅な支出削減が提案される予定。
・教育省
トランプ大統領は「教育省」の廃止を望んでいる。教育長官に辞職するように求めている。「DOGE」も同省の閉鎖の方向で動いている。
・DEIイニシアチブ
「DEIA」とは
多様性、公平性、包摂性、アクセシビリティを促進する連邦政府のプログラムおよびイニシアチブのことである。「DOGE」はこれにかかわる104件の政府契約を解除した。「DEIイニシアチブ」全体を廃止する方向。
・国際開発庁
同省は閉鎖された。2万人の職員は解雇の対象とされ、200人の職員による大幅に縮小した体制に移行する予定。
・連邦政府の職員
約200万人の政府職員に退職勧奨を電子メールで送った。退職勧奨通知は、退職と引き換えに、職員に9月まで働く必要はなく、給与と福利厚生を全額支払うという内容だった。7万5000人が受け入れ退職。残りの職員は暫時解雇する予定。
・連邦航空局
1月にワシントンDCで発生したアメリカン航空の飛行機墜落事故を受けて、「DOGE」は監査に入る。規模の大きい改革が予定されている。
・財務省
「DOGE」は社会保障給付から税金還付まで、国民への何兆ドルもの給付を管理する「財務省」のデジタル決済システムへのアクセス権を取得。「DOGE」はこれから「財務省」の不正な支払いの監査を行う。
・連邦緊急事態管理庁(FEMA)
トランプ大統領は同庁を全面的に改革するか、あるいは完全に廃止すると警告。「FEMA」は全米で2万人以上の職員を雇用している。すでに同庁の最高財務責任者、プログラムアナリスト2名、補助金専門家1名を含む「FEMA」職員4名が解雇されたと発表。
・アメリカ海洋大気庁(NOAA)
「DOGE」は「NOAA」を内部調査し、同庁を解体して「内務省」と合併する方針。
・消費者金融保護局
米国民に提供される金融商品やサービスを監督するために設立された同局を「DOGE」は廃止する方向。すでに「DOGE」は数十人の職員に解雇通知を送った。
・FRBとフォート・ノックスに監査
「連邦準備制度理事会(FRB)」は連邦政府には属さない独立した組織である。しかし「DOGE」は職員数が多すぎるとして調査する構えだ。また、アメリカの金銀塊保管所のある「フォート・ノックス」も調査し、どのくらいの金銀があるのか調査する方向だ。
これがいまの状況だが、「DOGE」は200万人の公務員のリストラを宣言しているので、これは序の口だ。「国防総省」や「財務省」を始め、メインの省庁の監査とリストラが始まるはずだ。
●「DOGE」の改革がもたらす経済危機の可能性
まだ日本の主要メディアではほとんど報道されていないが、通常であれば何年もかかるこれだけ大規模な省庁改革を、就任して1カ月も経たないうちに一挙に断行しているのだから、これがもたらす経済的な余波は大変に大きくなることが予想される。さまざまな記事の分析を総合すると、懸念される余波には次のようなものがある。
・商業用不動産の暴落と金融危機
・税の還付金の遅延による個人消費の落ち込み
・連邦政府職員解雇による地域労働市場の影響
・米国債の利払い延期と信用不安、国債下落
それぞれ重要な内容なので、別個に解説する。
●商業用不動産の暴落と金融危機
「DOGE」が実施する連邦政府の閉鎖や解体は、これらの機関が使っていたオフィスビルの大規模な売り払いも行われることを意味する。連邦政府の機関が使っていたオフィススペースは商業用不動産の市場で販売されることになる。
しかしいま、アメリカでは商業用不動産の市場は低迷しており、不動産会社の破綻が金融危機の引き金になる可能性も懸念されている。2020年の大統領選挙を起点にして、アメリカは激動の時期に突入した。人種差別に反対する「BLM運動」の拡大、ワクチン接種に反対する抗議運動、コロナパンデミックによるリモートワークの拡大とホームレスの急増、そして「フェンタニル」などの薬物中毒患者の急増などである。こうした状況の中、大都市の都心部ではホームレスと薬物中毒患者が急増して犯罪率も急上昇した。
こうしたことの結果、都心部のビルにオフィスを持つ企業の多くが本社を郊外に移転させた。また従業員もリモートワークで出勤の必要がなくなったので、郊外に引っ越した。この動きの煽りを受けたのは、商業用不動産の市場である。オフィススペースの需要の減少から空室率が上昇し、賃料も一挙に下落した。この結果、商業用不動産を扱う企業の経営は悪化し、銀行のローンの返済も懸念される状況になった。
こうした状況で連邦政府の省庁や部局の閉鎖によって必要なくなった膨大なオフィススペースが、商業用不動産の市場に出てくるのである。これで商業用不動産の価格はさらに下落することは避けられない。この結果、破綻する不動産会社が増大し、これらの会社にローンをしている銀行は多額の不良債権を抱えることになる。その存在は銀行の経営を圧迫すると同時に、銀行を破綻させることにもなりかねない。その結果、金融危機に連鎖する可能性も出てくる。
●税の還付金の遅延による個人消費の落ち込み
来週から「DOGE」は、「財務省」が管轄する「内国歳入庁(IRS)」の職員を1万5000人ほど解雇する。「IRS」は日本の「国税庁」にあたる組織だ。職員の大規模な解雇で「IRS」の業務に大変な支障が出ることが懸念されている。
毎年「IRS」は1億4000万件の税務申告を処理しているが、そのうち69%は税金の還付を受けている。還付は額も大きく、対象となる国民も多いため、アメリカの個人消費を押し上げる重要な要因のひとつになっている。しかし、職員の大規模なリストラで税務申告や還付金の処理に時間がかり、還付金の支給が大幅に遅れることが予想される。これは、アメリカの個人消費を押し下げ、景気を下降させる結果になるかもしれない。
●連邦政府職員解雇による地域労働市場の影響
「DOGE」は200万人の連邦政府職員を解雇するとしている。200万人程度であれば全米の失業率を押し上げる効果はあまりない。しかし、その影響を局地的に大きいと考えられる。
首都ワシントンでは全労働力の11%が連邦政府職員だ。200万人も解雇されると、ワシントンの失業率は急上昇することになる。また、ワシントン以外でも連邦政府の省庁や機関の拠点になっている地域はある。これらの地域の経済に大きな影響を及ぼすことだろう。
●米国債の利払い延期と信用不安、国債下落
・「財務省」の抜本改革、すべての支出の見直し
「DOGE」は「財務省」が各省庁の支払いに使用している口座、さらに「財務省」が管轄する「IRS」の納税データにアクセスし、「IRS」の職員のリストラを決めているが、「財務省」本体の支出も監査と調査の対象である。これがどの程度の規模の調査とリストラになるかは分からないが、閉鎖される部局や解雇される職員数が多いと、「財務省」の支払いに支障が生じることも懸念されている。
中でも特に懸念されていのが、米国債の利払いである。リストラと部局の閉鎖で利払いのプロセスに支障が出て、利払いが遅延することにでもなれば、米国債の信用は失墜して下落し、長期金利は急上昇する。これは経済危機の引き金になる可能性もある。
・「FRB」の根本的な改革、金本位制の導入も視野
しかし、省庁の閉鎖や解体で余波がもっとも懸念されているのがアメリカの中央銀行である「FRB」の改革である。「FRB」のパウエル議長は、「DOGE」による「FRB」の監査は中央銀行を廃止する道の一歩だと見ていると述べた。政府の独立監視機関である「会計検査院(GAO)」は、「FRB」の活動を定期的に監査している。しかし「GAO」は、「FRB」の金融政策決定を監査していない。これとは異なり「DOGE」は、政策決定の妥当性にまで踏み込んで調査するつもりだ。
「DOGE」による監査と調査は、「FRB」の職員数の削減や組織の縮小に止まらない可能性が高い。「DOGE」からの発表はまだないものの、トランプ政権の政策マニュアルである「プロジェクト2025」には、「FRB」の改革の方向性が明確に述べられている。引用して見よう。
「財務省は、1オンスあたり2,000ドルの現在の市場価格でドルの価格を設定できる。(中略)民間銀行は、取引で得たドルをFRBに送金し、金塊と交換することで、金塊を自行の金庫に補充することができる。これは強力な自己規制メカニズムを生み出す。
連邦政府がドルを急速に発行しすぎると、より多くの人々がドルの価値下落を疑い、FRBに金の引き渡しを要求する。するとFRBは金を引き渡し、政府の金が底をつくことになる。これにより、政府は金準備が底をつくのを防ぐために支出とインフレを抑えることを余儀なくされる」
ちょっと複雑かもしれないが、これは一時的にせよインフレを抑制する必要から金本位制を導入するということだ。ドルの価値が金に固定されるということは、「FRB」の保有する金の総量を越えたドルの発行はできなくなることを意味する。もし金の保有量を越えてドルが発行されると、ドルの価値が減価するので、「FRB」への金の引き渡しの要求が殺到する。これは「FRB」の金の保有量を減少させるので、ドルの発行ができなくなる。このため「FRB」のドルの発行量は、おのずから規制されるということだ。
このメカニズムのため、「FRB」は過剰なドルを発行することができなくなる。そのため、そのそもインフレは発生しにくくなる。
いまのところ「DOGE」が、この方向の改革を提起するかどうかは分からない。ただ「プロジェクト2025」に明記されているので、この方向の金融政策の改革が実施される可能性はあると見た方がよい。
このように、「財務省」の米国債の利払い延期、そして「FRB」によるインフレ抑制策としての金本位制の一時的な導入などが実施されると、予想を越えた混乱が引き起こされることは間違いない。極端な政策変更なので、米国債の信用は失墜して下落し、ドルの信任も低下する可能性もある。すると、不安定なドルが国際決済に使われることは一層少なくなり、基軸通貨としての地位もさらに揺らぐことになるだろう。
●あまりに大きな影響
さて、このように見ると、いま進行している「DOGE」が主導する連邦政府の大胆な改革がもたらす経済的な余波はあまりに大きい。金融危機を始め、あらゆるタイプの経済危機の引き金になる可能性はやはり否定できないのだ。
「DOGE」の改革は始まったばかりだ。連邦政府の大幅な縮小がトランプ政権の目標なので、これからも驚くような省庁の閉鎖や改編、そして職員のリストラが相次ぐことだろう。その実施が危機の引き金になるかもしれない。我々も準備しておいた方がよいだろう。
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●「ヤスの勉強会」第132回のご案内●
「ヤスの勉強会」の第132回を開催します。トランプ政権のそれこそ革命的な政策の数々にアメリカも世界も翻弄されています。このまま行くと、おそらくいまの世界秩序はリセットされてしまうことでしょう。その後、どのような世界が我々を待っているのでしょうか? いつものように、全力で分析します。
※録画ビデオの配信
コロナのパンデミックは収まっているが、やはり大人数での勉強会の開催には用心が必要だ。今月の勉強会も、ダウンロードして見ることのできる録画ビデオでの配信となる。ご了承いただきたい。
【主な内容】
・世界を揺るがすトランプ革命
・連邦政府の大幅縮小は危機をもたらす
・いずれ金融危機は避けられない
・アメリカはもしかしたらBRICSに参加か?
・ウクライナ戦争終結のシナリオ
・混沌としてきた日本、この先はどうなるのか?
・本当に我々の意識は進化しているのか?
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よろしかったらぜひご参加ください。
日時:3月29日、土曜日の夜までにビデオを配信
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』
(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』
(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
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