成泰 / NARITAI です。
占術や言語学の研究をしております。
生まれは、1963年。建築士のキャリアを37年間歩むかたわら、1998年から2003年にかけて、イタリアで美術史を学んだ際、マルセイユ・タロットに触れる経験をしました。
帰国後、英・独・仏・伊・露語の語源分析に従事する一方、心理学を研究。
2021年、タロットが潜在意識のリーディングツールであることを知り、深掘りの道へ。
2023年、マルセイユ・タロットを美術史・言語学の観点から独自に解釈した書籍を刊行。あわせて、オリジナル「NARITAI タロット」を制作・出版し、現在に至ります。
今回は、タロットについて、私の考えを述べたいと思います。
1.タロットに隠された秘伝
タロット(tarots)は、もともとは「王侯貴族がゲームに使う絵札」でした。
実際、フランス国王シャルル6世の会計帳(1392年頃)には、〈多色塗りで金箔を施され、数パターンに装飾された3組のカードを、国王陛下の余興用に持参させるために、画家ジャックマン・グランゴヌール宛てに〉※1代金を支払う、と記載されています。
※1 The Gringonneur Case, PRIMARY SOURCES, 1392 (?), Trionfi.com
これらのカードのうち〈十七枚がパリ国立図書館に現存〉※2し、その内訳は、〈「女帝」「教皇」「恋人」「戦車」「正義」「隠者」「運命の輪」「力」「吊るされた男」「死」「節制」「神の家」「月」「太陽」「審判」「愚者」それに「刀剣の従者」〉※2です。
つまり、16枚の「大アルカナ」(主札)と、1枚の「小アルカナ」ということです。
※2 林宏太郎, トランプとタロット, 平凡社(平凡社カラー新書), 1978, p.32
アルカナ(Arcana)とは「大きな箱・箪笥(たんす)(ラテン語:arca)」が語源で、「隠されたもの」や「秘密」「秘伝」を示すようになりました。
「タロットはゲームに使う絵札」と言いましたが、そこには「ある秘密(=アルカナ)が隠されている」のです。
結論を言ってしまうと、その「秘密」とは、10世紀から13世紀にかけ、南フランスと北イタリアで展開した思想グループ「カタリ派」の秘伝です。
カタリ派は、カトリック教会(ローマ教会)から異端認定されたため、迫害から逃れるために、「キリスト教の教義や人物の姿」を借り、「ゲーム用絵札」の体裁を装って、自分たちの「教義」を「大アルカナ」(22枚の主札)に封印したのです。
2.大アルカナの秘伝を解くカギは「美術史」
さて、私たちは、タロットを「占い」に使っているわけですが、大アルカナには、スピリチュアルなメッセージが2重に封印されています。
その封印は、次のような「2重構造」になっています。
@表層:ルネサンス、古代ギリシャ・ローマ、エジプト、バビロニアの思想・哲学
A深層:カタリ派の異端教義
先ほど触れた「カタリ派の教義(秘伝)」は、「A深層」に当たります。
絵柄に込められた「@表層」の象意が解ければ、「A深層」 に至ることができます。
ところが、「象意」を知ろうとしても、世にある「タロット解説書」のほとんどは、カード一枚一枚の「解釈ワードを羅列する」のに終始しているのが実態です。
その「勉強」がイヤになり、放り出してしまうひとも多いようです。
でも、それっておかしくないか?
メッセージは「絵札」に込められたのだから、描かれている「絵」の印象を、素直に受け取ることが大事なのでは?
そんな疑問を抱えつつ、「絵そのもの」と向き合ううちに、イタリアで美術史に親しんだ記憶が蘇り、「タロットは美術作品と関係がある」ことに気がつきました。
なお、イタリアで私が出会ったタロットは、数ある種類のうち、「マルセイユ・タロット」
といわれるバージョン(版)です。
そのマルセイユ版を注視した結果、「大アルカナ・22枚」のうち、多くのカードが「ルネサンス美術の有名作品にとても似ている」ことにピンと来たわけです。
さっそく、カードの絵柄を一枚一枚、美術史学の方法で分析する作業を経て、「大アルカナ・22枚」について、「美術史上のルーツ」を推定することができました。
そこから、「@表層」の象意を深く理解することができ、「A深層」に込められた「カタリ派の秘伝」も知ることができました。(詳細は、前掲書をご覧ください。)
3.大アルカナ・22枚がつくる物語
これも解説書には書かれていないのですが、大アルカナの順序には意味があります。
各カードがページとなり、全体で22ページの本(物語)を構成しているともいえます。
つまり、カタリ派の教義が語られている「本」ということです。
下図は、この物語を「螺旋マンダラ」として視覚化したものです(前掲書 page 033)。
プレイヤー(主人公)は「00 愚者」。
カードは「01 魔術師」から出発し、右回りの円を描いて「10 運命の輪」に至ります(第1ラウンド)。
つづいて、「11 力」から再出発し、外側の円を描いて「21 世界」に至ります(第2ラウンド)。
グレーの10本の「指」は、10個の「数秘」を表しています。
このストーリーを、オペラ仕立ての「人生絵巻」として描くと次のようになります。
◆第1幕
【家庭】幼児(00 愚者)が、少年(01 魔術師)、思春期の乙女(02 女教皇)になっていきます。
その成長を、母・妻(03 女帝)、父・夫(04 皇帝)が見守ります。
【社会】大人になり社会に出ると、教師・規範(05 法王)の支配下に入り、恋愛・結婚(06 恋人)し、仕事(07 戦車)に就いていきます。その営み・成果は評価・裁定され(08 正義)、やがて引退を迎えます(09 隠者)。
【間奏曲】世俗の役目を終えた主人公は、人生いろいろだったことを回想しつつ、第2幕が準備されることになります(10 運命の輪)。
◆第2幕
【人智】スピリチュアルな人生に向け、再奮起(11 力)。しかし、なかなかうまくいかず、頓挫しながら視点を変えてみたり(12 吊るし人)、心機一転したり(13 死)の果てに、流れに任せて(14 節制)みますが、誘惑に囚われて(15 悪魔)しまいます。
【天理】人智は脆(もろ)く・儚い(16 塔)ことを知り、星に願いをかけます(17 星)。潜在意識に不安を抱えつつ(18 月)、モヤモヤとした想いはやがて晴れ(19 太陽)、最後に、気づき(20 審判)に至ります。
【フィナーレ】この世は完全無欠であること(21 世界)を悟りつつ、次なるステップへのゲートをくぐります(再び、第1幕に戻ることになります)。
4.オリジナルタロット
今回、「タロット本」の出版と並行し、オリジナルタロットの制作を行いました。
マルセイユ・タロットの大アルカナ22枚を独自の美術史研究により再構築。
ルネッサンス期の色彩を復元したほか、人物には漫画的手法で心理描写を施しました。
成泰 著『タロット 隠されたメッセージ』に、詳細説明があります。
「タロット本」とあわせて、楽しんでいただけると幸いです。
5.マルセイユ版以後
1909年、ロンドンで「ライダー・ウェイト・スミス版」がリリースされました。
とても人気を呼び、タロットの現在の主流はこちらの版になっています。
今回は、以上となります。ありがとうございました。