トップが語る、「いま、伝えたいこと」
ジャパネットたかたの創業者、高田明氏が、3年ほど前に受けられたあるインタビューでつぎのように話されていました。
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人間、歳を重ねていけば、たくさんの人に出会うことになりますし、経験も豊富になります。そうした中で、成長していくのではないでしょうか。私は世阿弥の『風姿花伝』をよく読みますが、その中に「時分の花をまことの花と知る心が、真実の花になほ遠ざかる心なり」という言葉があります。
「時分の花」とは年齢とともに表れる一時的な魅力であり、「まことの花」とは稽古と工夫によって究められた本当の芸のうまさのことを言います。
今日の自分よりも明日の自分。今日の自分を超え続けて初めて手にできるのが「まことの花」なんです。どんな状況になっても、自分に何が足りないのか、自問自答する。私も70歳にしてできていないことばかり。だから、日々動いています。
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こうして高田氏が「風姿花伝」に強く影響を受けていらっしゃることを知り、大変興味を持つに至りました。原文に触れるには少しハードルが高いので、高田氏のご著書、あるいは対訳や解説書を読んだ程度ですが、風姿花伝には、人材育成はもちろんのこと、マーケティングにもつながる知恵がふんだんに散りばめられています。
「初心忘るべからず」という言葉は誰もが知っているわけですが、実はこのメッセージも世阿弥がこの風姿花伝に書いたことが発端だそうです。
「秘すれば花」という言葉もあります。要するに、サプライズを仕掛けろ!という意味です。なんでも人は飽きが来ます。大衆を飽きさせない工夫をすることを怠らず、またポイントをおさえ、それを見せてゆかねばならないということ。
本書が書かれたのは600年前ですが、すでに世阿弥は能を通じて、サプライズの大切さをつかみ取っていたということです。人間の本質は、時代をこえても、変わらないものですね……。
一方、こんな言葉もあります。
「よき劫の住して、悪き劫になる所を用心すべし」
良いとされてたものが、ずっと良いとは限らない…という意味です。過去の栄光にすがるなということにつながります。舩井幸雄が、「変化こそ不変の原理」と伝えていたこととも見事に通じています。
さて、芸というものは、世間との関わりの中で育ち、また廃れてゆきます。世阿弥はその変化をしっかり捉え、驕り高ぶることなく、「能」を発展させていきました。
「風姿花伝」には、先述した「時分(じぶん)の花」と「まことの花」という言葉が出てきます。人間の成長を花の成長に、自然の中のプロセスと重ねているのです。「時分の花」とは、若い生命が持つ鮮やかで魅力的な花。これは誰もが通過するもの。「まことの花」とは、自分という木の全体が枯れいくとしても、そこでひそやかに咲き続けている花。自分だけが持つ本質的な花のことを指しています。
世阿弥は、本書に、能の稽古について、年齢に応じたコメントを書き記しています。
★7歳ごろ=能では、だいたい7歳ごろから稽古を始めます。この年頃の稽古は、自然にやることの中に風情があるので、子どもの心の赴むくままにさせたほうがよい。良い、悪いとか、厳しく怒ったりすると、やる気をなくしてしまいます。
★12歳ごろ=何をしても素晴らしい。太陽が輝くように美しい。ただ、それはその時だけの「時分の花」。しかし、それは本当の花ではありません。惑わされてはいけないが、それをとことん享受し味わい尽くせばいい。
★18歳ごろ=声変りの時期。身体も変容していきます。「まず声変わりぬれば、第一の花失せたり」として、「時分の花」は一度なくなるといいます。この逆境をどう生きるか。世阿弥は、「たとえ人が笑おうとも、そんなことは気にせず、自分の限界の中でムリをせずに声を出して稽古せよ」と。
★24歳ごろ=声も身体もある完成形を見ます。それなりにチヤホヤされることがあっても、勘違いして、自分は達人であるかのように思い込むことを「あさましきことなり」と切り捨てています。「されば、時分の花をまことの花と知る心が、真実の花になお遠ざかる心なり。ただ、人ごとに、この時分の花に迷いて、やがて花の失するをも知らず。初心と申すはこのころの事なり」
★35歳ごろ=世阿弥が風姿花伝を書いていた時期でもあります。「上がるは三十四−五までのころ、下がるは四十以来なり」この年頃で天下の評判をとらなければ、「まことの花」とは言えない……。自分の生き方、行く末を見極める時期でもあります。
★45歳ごろ=「よそ目の花も失するなり。どんなに頂点を極めた者でも衰えが見え始め、観客には「花」があるように見えなくなってくる。この時期でも、まだ花が失せないとしたら、それこそが「まことの花」ですが、そうだとしても、この時期は、あまり難しいことをせず、自分の得意とすることをすべきだと説きます。
★50歳以上=世阿弥の父であった観阿弥の舞は、あまり動かず、控えめな舞なのに、そこにこれまでの芸が残花となって表われたといいます。これこそが、「芸術の完成」でした。老いても、その老木に花が咲く。それが世阿弥の理想の能だったのです。
人は、たいてい「時分の花」に迷わされてしまいます。花はいずれ枯れる……。「初心」とは、このことを強く意識することを意味しています。何かを失いながら人は、その人生を辿っていきます。しかし、このプロセスは、失うと同時に、何か新しいものを得る試練の時、つまり初心の時なのです。「初心忘るべからず」とは、一生を通じて前向きにチャレンジし続けようという世阿弥の願いを込めたメッセージだと感じます。
いま、経験したことがないほどの先行き不透明な時代を生きています。そのなかで、世阿弥が伝えたように、「失いながらも、何かを得る試練のとき」と痛感します。そんないまだからこそ、「初心の時」と心得、前向きに挑戦し、「まことの花」を咲かせていきたいと襟を正す今日この頃……。
師である舩井幸雄は、謙虚に、素直に、生涯学び続けることの大切さ、自分自身の長所を見つけ、それを伸ばし、そこに人生における役割があることを説いてきました。そして、その延長線上に「使命」への気づきがあると……。
これまた、世阿弥の思想と大きく通じるところがあります。
感謝
2021.03.22:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】世阿弥と舩井幸雄 (※佐野浩一執筆)
2021.03.15:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】脱プロ (※舩井勝仁執筆)
2021.03.08:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】私が原発を止めた理由 (※佐野浩一執筆)
2021.03.01:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】風の時代の経営のあり方 (※舩井勝仁執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |