トップが語る、「いま、伝えたいこと」
あまりにも有名な、金子みすゞさんの詩。
「みんなちがって、みんないい」
この部分だけが紹介されることが多いわけですが、これは「わたしと小鳥と鈴と」という詩の一片です。
「わたしが両手をひろげても、お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥はわたしのように、地面(じべた)をはやくは走れない。
わたしがからだをゆすっても、 きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴はわたしのように、 たくさんなうたは知らないよ。
鈴と、小鳥と、それからわたし、 みんなちがって、みんないい。」
そう……、みんな「ちがう」のが当たり前なのに、「ちがい」が否定や差別や批判、嫉妬や憎悪、ひいては国内外の諸問題の根っこになっていることがあまりにも多いこの世の中。
第93回アカデミー賞で、ジーン・ハーショルト人道賞を受賞した俳優タイラー・ペリーさんの受賞スピーチを聴きました。たった3分間、かなり早口で、正直、翻訳文で理解できた部分もあったのですが、それはそれは感動的で情熱的なスピーチでした。
「私はメキシコ人だからとか、黒人、白人、またはLGBTQ(性的少数者)であるからという理由で誰かを憎むことを拒否します。警察官だから、アジア人だからという理由で憎むことも拒否します」
ご自身の経験とお母さまとの思い出を紹介しながら、警察官による黒人暴行死事件やアジア系へのヘイトクライムなどの差別問題に切り込んでいきます。
ジーン・ハーショルト人道賞というのは、人道的な活動を通して映画界に貢献した人に贈られます。これまで、国連児童基金(ユニセフ)で活動したオードリー・ヘプバーンさんや難民支援に携わるアンジェリーナ・ジョリーさんらが受賞者に名を連ねてきました。
ペリーさんは、かねてから慈善活動に積極的に携わってこられました。南部ジョージア州アトランタに映画スタジオ「タイラー・ペリー・スタジオズ」を開設し、地域に多くの雇用をもたらし、新型コロナウイルスの感染拡大に備えながら従業員たちの生活を守ったことが評価されたというわけです。
その受賞スピーチは、17年ほど前にホームレスとみられる女性に現金を渡そうとしたエピソードから始まります。
「ポケットからお金を取り出して渡そうとすると、彼女が『すみませんが、靴はありませんか?』と言うんです。私は固まりました。自分がホームレスだった時に持っていた一足の靴のかかとが、(ボロボロになって)反り返っていたのを思い出したからです。」
ペリーさんは、その女性をスタジオに連れて行きます。彼女の足に合う靴を見つけて履かせると、女性は目に涙をためて「素足が地面を離れた」と喜んだといいます。
「彼女は『(靴をくださいと)頼んだことであなたに嫌われると思いました』と言いました。私は『似た境遇にいた私が、あなたを嫌うことなんてありません』と答えたのです」
ペリーさんのお母さまは、1960年代まで黒人差別を正当化した法令「ジム・クロウ法」があったルイジアナ州で育ちます。「ジム・クロウ法」とは、1876年〜1964年まで南部州、フロリダ州などで有色人種(黒人、ネーティブアメリカン、黄色人種すべて)に対する人権剥奪・差別的内容の州法が各州で制定された法律です。たとえば白人女性看護師のいる病院には黒人男性患者は入れませんでした。黒人と白人ではバス乗り場も席も分かれていましたし、レストランでは有色人種には着席サービスを提供しませんでした。白人と黒人の結婚は禁止され、学校も別でした。
1619年に、現在のバージニア州に西アフリカから20人の黒人奴隷が船で運ばれ、「奴隷貿易」がはじまってから、1964年に公民権法が制定されるまでに300年もの年月が費やされたわけですが、そこから50年以上を経た現代においても、まだ根強く黒人差別が残り、ヘイトクライムが後を絶たない現実に、私自身は我慢しきれない怒りが湧き上がってきます。
ペリーさんのスピーチは続きます。
「母は9歳か10歳のころ、エメット・ティルの死に胸を痛めたのです。そんな母を持つ私が、どうしてあなたを嫌うことができるのですか、と(伝えました)。母は少し年を取ってからは、公民権運動家の若者たちやアラバマ州での爆破事件で亡くなった女の子たちの死を悲しんだものです」
エメット・ティルは、55年に白人至上主義者に殺害された14歳の黒人少年の名前です。「アラバマ州での爆破事件」とは、63年にアラバマ州の黒人教会が爆破されて少女4人が殺害されたバーミングハム事件を指します。
ずっと人種差別に傷ついてきたお母さまの教えは、とてもシンプルで明快なものだったといいます。
「母は、憎しみを拒むこと、そして先入観を持って人を決めつけてはいけないことを教えてくれました。そして現在、私たちを特定の考え方に導こうとするインターネットやソーシャルメディア、アルゴリズム、24時間流れてくるニュースがあふれています。そんな中で、私はみなさんに、憎しみを否定し、誰のことも憎んではいけないということを子どもたちに教えてほしいと望んでいます。私はメキシコ人だからとか、黒人、白人、またはLGBTQであるからという理由でも、警察官だから、アジア人だからという理由でも、誰かを憎むことを拒否します。私はみんなが憎しみを拒むことを願っています」
最後にペリーさんは、次のように付け加えました。
「真ん中に癒やしがあるからです。真ん中で会話が生まれるからです。真ん中で変化が起こるからです。全て真ん中で芽生えるのです。真ん中で私に会いたいと思う人、憎しみを拒否し、決めつけを拒み、そして裸足の人を助けたい人がいれば、この賞はあなたのものです」と。
憎しみをも拒否する……。
相当覚悟のいるスタンスだと思います。
私は、「怒り」を覚えてしまっていましたが、それも憎しみの要因になり得ることに気づかされました……。
彼の言う「真ん中」とは、禅で言う「中庸」に当たるのでしょうか……。
「真ん中」でいること。
心したいと思いました。
これこそが、「ちがい」にもっとも寛容な姿勢だと深く理解できました。
本当に、アタマをガツンとやられたようにショッキングで、心の底から洗われるような感動的な体験でした。
感謝
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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |