トップが語る、「いま、伝えたいこと」

このページでは、舩井幸雄の遺志を引き継ぐ舩井勝仁と佐野浩一が、“新舩井流”をめざし、皆様に「いま、伝えたいこと」を毎週交互に語っていきます。
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2021年5月17日
茶道に学ぶコロナ時代の知恵 (※佐野浩一執筆)

 禅に興味を持ち始めたころ、両親の墓参の後、「禅寺」ということでたまたま訪れた京都の建仁寺。歴史の教科書で目にしていた栄西禅師が開かれたこと、そして日本の茶祖として君臨されていること、そこで初めて知りました。

 栄西は、11歳で地元安養寺の静心和尚に師事し、13歳で比叡山延暦寺に登り翌年得度、天台・密教を修学します。そののち、宋で禅宗が盛んであることを知り、28歳と47歳に2度の渡宋を果たします。
 2度目はインドへの巡蹟を目指すも果たせず、天台山に登り、万年寺で臨済宗黄龍派の禅を5年にわたり修行、その法を受け継いで建久2年(1191年)に帰国しました。いま、日本では禅ブームとなって久しいですが、当時、都での禅の布教は困難を極めたといいます。建久6年(1195年)博多の聖福寺を開き、「興禅護国論」を著すなどしてその教えの正統を説きました。
 また、鎌倉に出向き、将軍源頼家の庇護のもと、正治2年(1200年)寿福寺が建立、住持に請ぜられ、その2年後、この建仁寺を創建されたのです。
 一方、栄西は在宋中、茶を喫しその効用と作法を研究、茶種を持ち帰り栽培し、喫茶の効能を記した「喫茶養生記」を著すなどして普及と奨励に勤めます。その『喫茶養生記』を時の将軍である源実朝に献上されたとのこと。二日酔いの実朝が、栄西から献上された茶を飲んで二日酔いを治したとの逸話も残っています。当時、茶は一種の薬と捉えられていたようです。こうして、茶を飲む習慣は鎌倉時代以降に徐々に広がっていきます。
 室町時代になると、僧侶の村田珠光が禅の「わび・さび」の精神性を取り入れ、日本独自の概念が打ち出されていきます。小さく簡素な茶室と落ち着いた雰囲気の「侘茶」を始めます。これを現在のような日本文化としての茶道の原型へと発展させたのが、茶人として有名な、あの「千利休」です。「わび・さび」では、豪華絢爛でなく簡素で不完全なものが尊ばれました。西洋とも中国とも違う日本独自の美的概念が発達してきたのは、こうした茶道の影響も大きいのではないかと考えられます。
 さて、2021年は茶道において重要な行事でと言われている「初釜式」も三千家(茶道の主要な家元である表千家、裏千家、武者小路千家)で中止されたようです。コロナ感染拡大は、茶道の世界にも大きな変化をもたらしています。
 こうして書き進めてきたものの、私自身は茶道を嗜んでいるわけではありません。ただ、茶道が大好きだった母の影響は強く残っています。幼い頃、「千宗室先生の時間よ!」と、NHKの茶道の番組が始まると、横に座らされました。当時はわけもわからず、「お行儀のお勉強」と思って見ていましたが、いまでも憧れと親しみを感じるのは、間違いなく母のおかげです。そうして、少しばかり書物を通じて学ぶなかで、ポストコロナ時代の暮らしにおいて、とても大切なことを教わっている気がするのです。たとえば、異質な他者への配慮、簡素な生活、自然との共生など、それはそれはたくさんあるように感じます。
 茶道には、不完全なもの、見栄えが悪いとも思えるものをかえって称賛する視点があります。お教室では、茶道具を鑑賞する稽古があるようです。たとえば、茶杓を鑑賞するときには、節の場所が虫に食われていないかを見ます。不良品かどうかを見極めているのかというと、それはちがいます。逆なんです。虫に食われている方がより高価な茶杓になるといわれています。
 いまのビジネスでは、虫に食われていると欠陥品ですよね……。でも、茶道では評価が上がるんです。茶碗でも、欠けている箇所があったり傷があったりする茶碗が高く評価されることがあります。これは素人にとっては、オドロキでした!
 でも、私たち人間がみな完全ではありません。長所もあれば欠点もあります。完全であることを称賛することは、そうでないことを暗黙のうちに排除してしまうことにつながります。これからますます多様性を重視していくべき現代社会において、不完全を愛する方が優しい社会といえますよね!
 茶道でもう一つ感銘を受ける点は、肩書や立場を取り除いて客に茶をたてることです。 茶室に入る際に躙り口(にじりぐち)という小さな入り口を通ります。正式の茶室にはこの躙り口が付いていることも多く、この入り口ではどんなに高位な人でも頭を下げることになります。
 古くから茶室では、身分や肩書を超えて客をもてなして心を通わせてきました。大名クラスの主人が身分の下の人に茶をたてることもあったそうです。その最たるものが、1587年に豊臣秀吉が京都で開いた北野大茶会。身分問わず参加ができて、時の天下人・秀吉も茶をたてるということで、大賑わいとなりました。でも、当時の身分制を前提とすると、世界史的に見ても画期的で希少な催しであったと言えます。
 こうしていろいろ考えてみますと、茶道がポストコロナ時代に与える示唆がいくつか浮かんできます。
 一つ目は、簡素を重視する視点です。
 茶道は、先述したように禅の教えの流れをくみ、簡素であることを重視しています。何が本当に大事なのか、本当に大事なことをどのようにめでるのかが問われます。豪華絢爛なフラワーアレンジメントではなく、一輪の朝顔を飾ることに意義を見いだすような、達人の道……。こうして無駄を省き本質を見る視点は、ビジネスでいうと「効率化」にもつながりますし、イノベーションにつながる重要な視点も与えてくれます。
 思えば、いまの時代、製品やサービスに多くの機能を付けすぎて、逆にユーザー側が冷めてしまっている事例も少なくありません。本質は何か、人間の本能とは何かについて向き合うことで、新たなビジネス、新たな製品・サービスが生まれるのではないかと思われます。
 二つ目に、異質な他者を思いやり、寄り添う姿勢です。
 秀吉が庶民を含めて大茶会を開いたように、茶道では、身分を超えて、心を通じ合うことを旨としています。茶室においては、とくに身分の高い者は、低い者に対して十分配慮することが問われると聞きました。また、茶道に無知な人も客の中にいるわけですが、決して見下してはなりません。
 コロナ禍では、医療従事者に多くの負担がかかっています。飲食業や観光業に従事している人の中には、失業を余儀なくされている人も多くいらっしゃいます。あるいは、学ぶ場を失った学生・生徒の負担も甚大です。少し視野を広げると、失業して帰国もできない外国人労働者や、いったん帰国したがゆえに再度入国できなくなった外国人労働者も苦境に陥っています。
 ポストコロナ時代では、身分や立場、経験を超えた異質な他者に対して配慮すること、想像力を働かせることが必要だと思います。寄り添う力を高めていきたいですね。
 最後に、自然との共生をあげたいと思います。
 茶道は季節の変化に細かく対応すると教わりました。寒い冬場は、炉を切り炭火の暖かさで客をもてなし、春になると炉を使いつつも、釜を天井からつるして外からの風で気温の上昇を楽しむそうです。また、季節の花を茶室や客に合わせて生けることにも非常に心を配ります。自然の微妙な変化を感じて、適応しながら客をもてなすのです。
 舩井幸雄も、「自然との共生」「自然の摂理」については、生涯説き続けましたが、まさにその視点そのものだと考えます。そして、これまで少々忘れられていた「本質」に目覚め、さらに求められていくことに、一筋の光を感じます。

 母があまりに大事そうに布で何重にもくるんで遺した形見の茶道具。触れるには恐れ多い気がして、まだそのままにしています。
 でも、いつか「知識」ではなく「実感」として、茶道の本質に触れてみるつもりです。             

                              感謝

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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長
1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。
2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了)
著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。
佐野 浩一(さの こういち)
株式会社本物研究所 代表取締役社長
株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長
公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事
ライフカラーカウンセラー認定協会 代表
1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。
著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。
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