トップが語る、「いま、伝えたいこと」
プレーオフを制して銀メダルを獲得した稲見萌寧(もね)選手は、オリンピックのゴルフで日本選手の男女を通じて初めてのメダル獲得となりました。稲見選手は1999年生まれの22歳。
畑岡選手ら有力選手がそろう1998年度生まれの「黄金世代」と有力な若手がそろう2000年度生まれの「プラチナ世代」にはさまれ、みずからを「はざま世代」と呼んでいるそうです。
インタビューでは、「日の丸を背負ってメダルを獲得できたのは人生で一番うれしいことです。重大な任務を果たした気がします」と話していました。また、プレーオフについては「集中して勝ちに行こうと話していた。相手がパーパットを決めて、プレーオフが続くと思っていたので、銀メダルが決まった時は驚きました」と振り返っています。そのうえで「オリンピックは夢の舞台で、出場できたことが自分にとって奇跡でしたが、いい夢の舞台で終わらせることができてよかった」とニコニコ語っている姿がとても印象的でした。
……と、ここまでは、ネット上のニュースで伝えられている部分なのですが、実は、テレビ番組のインタビューで、つぎのように話していたのがオドロキでした。まとめてみると、「オリンピックであるとか、メダルがかかっているとか、いろいろあるのですが、ゴルフをやっているということには変わらない」と口にしたことです。
ただものじゃない……と思いました。そして、あらためてマインドフルネス、いま、ここに意識を向けることの大事さを確認できた気がします。
よく、「目の前のことに集中しよう」とか「結果はあとからついてくる」とか言われるのですが、それがなかなかできないから苦しんだり、迷ったり、落ち込んだりするわけです。彼女は、1日に10時間練習するのは当たり前という、いわゆる「練習の虫」であることは有名ですが、キックボクシングを導入したり、様々に工夫を凝らしていることもよく知られています。
まさに、そうした積み重ねからくるというのも月並みな解釈ですが、この「ゴルフをやっていることに変わりはない」と言い切れる彼女のマインドフルなメンタルの強さに注目したいと思ったのです。
私は、ライフワークの1つとして、「ライフカラーカウンセリング認定協会」を長らく運営していますが、カウンセリングでは、クライアントが自分自身と向き合う作業をサポートすることが大きな目的の1つです。その折に、大切にすることは「いま、ここ」での感覚や、思考に焦点を当て続けることです。「いま」という感覚から、どうしても離れてしまいがちになるので、そこに注力できるように関わるのがカウンセラーの役目の1つでもあります。
なぜかというと、とかく悩みごとを抱えていたり、心を病んでしまうと、原因探しのごとく過去を振り返ることをしがちになるからです。 しかし、過去に起こった事実は変えられず、いくら過去を探索したところで、つらい思いや悲しい気持ちがよみがえるだけで、解決には結びつかないことが多いのです。これは、スポーツの世界でも、仕事の世界でもまったく同じです。
とくに、ゴルフのように18ものホールを回り、数日かけて行われる競技では、振り返る時間があるだけに、たいそう厄介だろうと想像します。ミスショットを打ったことで、順位が大きく後退することもありますから……。
人間の記憶は、特に感情が絡むと、その強い感情に突き動かされるように、無意識のうちに再構築されるものなのです。ですから、自分にとって嫌な過去にとらわれすぎると、どんどん嫌な記憶が塗り重なっていき、もっとひどい記憶になることがあります。そして、過去の嫌なことにとらわれることで、「いま」が束縛されてしまいます。
反対に、「あの時は良かった」と過去の栄光や幸せな出来事も塗り替えられます。仕事の成功はより輝かしく、過去にうまくいったことはさらによい記憶となります。自分にとってよい記憶は、どんどん美化されていきます。そして、その美化された記憶により、現在が色あせて見えてしまうことだってあるので気を付けたいものです。
生きているのは、「いま」なのに、悪い記憶にしても、よい記憶にしても、執着すると、いまに目を向けることが難しくなります。したがって、悩んでいたり、解決したいことがあるときほど、意識して「いま、ここ」での自分の気持ちや「いま、ここ」での自分の行動に目を向ける必要があります。生きるというのは、いまの積み重ねでしかないからです。
人は、1日に数えきれないほどの思考を繰り返し、その都度、それに付随した「感情」と付き合うことになります。だからこそ、稲見選手が、「私はゴルフをしている」と目の前の「いま、ここ」に集中できることはとても素晴らしいことだと思います。
もちろん、「いま」を大切にすることと「いまだけ」がよければいいということとは違います。現実に向き合う意識を持つ必要があります。自分の気持ちを見つめなおし、耳を傾けることにより、自分と向き合う意識が生まれます。自分自身と向き合うことは多大なエネルギーが必要で、大変な作業です。しかし、諦めずに自分の心と向き合い、自分自身の中で、きちんと受け止められるようになると、「いま、大切なこと」「いま、できること」が認識できるようになります。それを優先していくことで、いまの自分を認めることができるようになります。
「いま」をそのまま肯定的に受け入れることができると、つらい記憶もあの時のおかげと、過去への認識が変わるのです。認識が変われば、過去もよい方向に上書きされる可能性が高く、過去に思い悩むことも減っていく、好循環が生まれます。
おそらく、稲見選手をはじめ、今回の東京五輪に出場されたアスリートたちの多くが、こうした体験を重ねてこられたのだろうと思います。
そういう点で、アスリートではない私たちも、彼女たちから学び、日常に活かすことは、大切な選択だと考えています。今回は、そのエッセンスを1つ、ご紹介したいと思います。
日常は、マイナスフレーズに溢れています。ついネガティブなことを口に出してしまうこともあると思います。それを言葉や目の色、顔色などにも出すことなく、ポジティブに表現できると、見方もツキも大きく変化してくるものです。
これは、舩井流の「長所伸展法」や「プラス発想」とも通じるところがあるのですが、「見方や視点を変えたら、短所も長所に見えてくる」ということです。
たとえば、「意志が弱い」という否定表現を、「柔軟で、協調性があって素晴らしい」というように肯定表現に言い換えてみるとどうでしょう? まったく、見方が変わってしまうかもしれません。
「暗い」は「落ち着いている」、「せっかちだ」は「迅速だ」、「のろのろやっている」は「慎重に取り組んでいる」という感じで、いろんな“言い換え”を考えてみるといいのです。ほかにも、「朝令暮改」は「臨機応変」、「過去にこだわる」は「経験を大事にする」、「話が長い」は「話が丁寧」というように表現すれば、ぜんぶ肯定表現に生まれ変わります。
以前にも話したことがありますが、教員時代に、生徒たちの「調査書」を記入する際に、大いに悩み、大いにトレーニングされたように思います。
実際にやろうとすると、肯定表現が次々とすぐに口に出せる人もいますが、あれこれ考えているうち、しまいに口をつぐんでしまう人もいるでしょう……。行動と話法で瞬発力をもってすぐに肯定表現が繰り出せる人と、頭で考えて行動と話法で繰り出せない人に二分されるということです。私も当初はなかなかうまくできませんでした。でも、「習うより慣れろ」ということわざがあるように、実践あるのみです。
一般的には、肯定表現を瞬時に繰り出せる人は、モチベーションレベルが高いともいわれています。「長所伸展法」で考えてみても、やはり、よい点と付き合うと自分もツクわけですから、たとえマイナスな点でもプラスに置き換えて付き合えると、ツキも上がるということになります。
「意識が行動を変える」という考え方があります。しかし、意識を変えようと思っても、なかなか変えられるものではありません。「成果を上げることに貢献する意識を持とう」「スキルを上げるという意識を持とう」「モチベーションを高めるという意識を持とう」と思っても、時間がかかりますし、そういう意識を持てたとしても、具体的に何をどうして行動に移せばよいのか、その段階でまたハードルに直面するものです。
そこで、「行動が意識を変える」という考え方が大事になってきます。それも、できるだけ簡単で、単純な行動であればあるほど、短い時間でその行動が身に付きます。そういう点で、この「否定表現を肯定表現にする」ということは、とても簡単で単純な行動ですから取り組みやすいと思います。
いわゆる、否定的な「ノイズ」を少しでも少なくしていくと、人の意識は「いま、ここ」に集中しやすくなるからです。
稲見萌寧選手のコメントから、いろんなことを考えさせてもらえました。「いま、ここ」って本当に大事ですね。そして、今回の大会を通じて活躍が目立った20代の若い人たちは、当たり前にメンタルを丁寧に育んできていることを強く感じました。
未来は、明るいですね!
感謝
2021.08.23:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】核の傘でいいのか!? (※佐野浩一執筆)
2021.08.16:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】病気を治す医者になる (※舩井勝仁執筆)
2021.08.09:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】「いま、ここに生きる!」 (※佐野浩一執筆)
2021.08.02:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】リト (※舩井勝仁執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |