トップが語る、「いま、伝えたいこと」
生前の舩井幸雄が、書物や講演で、「これからは本物の時代」だと伝え始めてから、もう長い年月が過ぎました。
たしかに、世の中に生み出された商品やサービスの「本物化」はどんどん進んできていると、あるいは、「本物」に対する認知、理解もどんどん広がっていると感じています。
舩井幸雄は、大きな流通に乗らない「知る人ぞ知る商品やサービス」を世に問うてきました。そんななか、自らの実践として、創業から私が社長を務める「株式会社本物研究所」を設立したわけです。
舩井幸雄は、滅多なことで、大量生産されていたり、一般の流通で手に入る商品を紹介したり、ホメたりすることはなかったのですが、唯一、そうでなかった商品があります。
それは、「伊右衛門」というお茶製品です。自身が応援していた「福寿園」さんの茶葉を使用しているということで、「これは、本物だ!」と話していたことがとても印象的でした。
この「伊右衛門」をプロデュースされたのが、売れ型 誰でも売れるアイデアが湧き出す思考法(PHP研究所)の著者である小西利行氏でした。
小西氏は、「すべてのアイデアは不満から生まれる」と考えていらっしゃいます。そして、その不満を「機能の不満」「機会の不満」「気分の不満」の3つに分類されている点が滅茶苦茶興味深く、面白いのです。
実は、この「機能」「機会」「気分」、3種の不満すべてを解決して大ヒットとなった商品が、この「伊右衛門」だと言われています。
まずは「機能の不満」。
伊右衛門が発売された2004年当時、ちょうど本物研究所を創業してすぐのころですが、当時のペットボトルのお茶は、お世辞にも美味しいとは言えませんでした。自宅で、茶葉から淹れるお茶のほうが、当然美味しかったわけです。
技術的なところでは、当時、ペットボトルや缶の緑茶は、殺菌するために100℃以上で煮沸するのが主流だったそうです。しかし、お茶好きの方ならご存じのとおり、玄米茶、ほうじ茶なら95℃くらいで淹れるのがベストですが、煎茶の場合は、80℃くらいまで冷ましてから淹れるのがもっとも美味しいわけです。
ベストな温度で抽出するためには、高温で殺菌という選択肢を変えなければなりません。そこで、熱で殺菌をしない代わりに、無菌充填ができる工場をつくられたのです。
まさに、「機能の不満」を技術で解決した……、ということです。
一方、当時のペットボトルや缶の緑茶は、あまりいい茶葉を使っていなかったようです。それを、京都の老舗茶舗「福寿園」さんと提携し、お茶の素材そのものを引き上げたことで、ペットボトルだけど、美味しいお茶が誕生したというわけです。
次に、「機会の不満」です。
商品やサービスは、いくらよいものを作っても、知ってもらわなければ売れません。それは、現在の本物研究所が取り扱う“ほんもの”商品だって同じです。舩井幸雄がまだ年間300回も講演を行っていたころは、正直、そのなかでお話してくれることがありましたので、舩井ファンへの認知度はグンと高かったわけです。でも、現在は、自力でコツコツ認知の向上に努めていますが、やはり、大手企業と同じ土俵には上がれません。
さて、余談はこれくらいにして、この「知らなかった……」をなくすために、やはりアクションを起こされています。ペットボトルのお茶はどこで一番売れるのか? もちろんここがもっとも大事なポイントです。答えは、「コンビニエンスストア」。発売日のお茶コーナーに、棚一列、伊右衛門だけをずらっと並べたのだそうです。これは当時のコンビニでは画期的なことでした。こうして、一気にお客さまの目に留まり、大ヒットにつながっていったということです。
そして、最後に「気分の不満」です。
そもそも、お茶は、お湯を沸かして、茶葉を急須に入れて、そこにお湯を注ぎ、時間をかけてゆっくり湯飲みに注ぎ、丁寧にお出しするもの。出す側も出される側も、そうした感覚でいたわけです。そこに登場したペットボトルのお茶……。いまではもう当たり前になってしまいましたが、ペットボトルのお茶をポンと出されるなんて、当時はあり得ないことでした。なんとなく無礼であったり、人によっては「軽んじられている」などと感じていた方もいらっしゃったと思います。
そこに一石を投じた形になりました。つまり、お茶に関わる文化そのものを、結果として変えたことになります。CMではその気分をつかみ、凛とした仕事人を本木雅弘さんが演じ、それを支える妻として宮沢りえさんが起用されました。時代劇風のタッチで、昔のムード=気分を描きつつ、懐かしく感じてもらいつつ、そこに「伊右衛門」が登場する……。とくに、女性に高感度が高かったようです。そして、結果として、15年以上続く大ヒット長寿商品となったのです。
こうした真摯なる努力が発端となって、いまでは、ペットボトルのお茶は当たり前の存在へと進化していきました。若い世代の人たちは、逆に家でお茶を淹れることがないので、ペットボトルでしかお茶を飲まないと言っても過言ではないと思います。
そうなると、商品(群)のコモディティ化が始まるのも、マーケットの厳しいところです。時代が変わると、消費者の「不満」も次第に変化していきます。「美味しくない」という「機能の不満」は解決してきたのですが、新たな不満が顔をのぞかせます。
ハズレがなく、どのペットボトルのお茶も美味しくなったので、「どれも同じ」「いつでも同じ」という日常性、普遍性が新たな「不満」として沸き起こっていたということです。
本物研究所の商品群のなかでも、いくつかの商品で、何度かリニューアルを重ねているものをありますが、たとえば、創業以来ヒットを続ける「カリカセラピPS-501」シリーズなどは、ある意味稀有な事例といってもよいかと思います。
さて、「伊右衛門」は、2020年に、再び大ヒットとなりました。そのきっかけは、商品のフルリニューアルです。
まず、機能の不満。
お茶がもっとお茶らしくあるために、「色」に着目されています。より際立った美しい緑色……。そして、もちろん「味」。当たり前だった現状を「不満」と捉えたということです。
次に、機会の不満。
さらに美しくなった緑色が映えるボトルに進化させています。鮮やかな緑の水色(すいしょく)を体感できるよう、ボトルを覆う面積が少ないロールラベルを採用しています。また、ラベルをめくって緑の水色(すいしょく)を楽しんでもらえるよう、ラベル裏やボトル中央部に招き猫や七福神など縁起の良い絵柄を配している点も面白いところです。最近では、「京都ブレンド」という琥珀色のお茶をリリースし、「色」のコントラストをクローズアップされています。
最後に、気分の不満。
新しくナイツの塙さんや芦田愛菜さんなどを起用したCMがスタートしています。新しい時代の新しいお茶であることを、非常に美しく表現されていると感じました。こうして、ややもすると少し古くなった……感じを、新たなイメージをつくることで刷新しようと尽力されています。
舩井幸雄は、「変化こそ、普遍の原理」とよく申していました。まさに、この「伊右衛門」の変遷にも、この原理が当てはまります。舩井は、自らの経営を「泥縄式」と呼びましたが、まさに変幻自在に変化していこう、時流に乗っていこうという気概に溢れていたことを言い表したものと考えます。
このコロナ禍の2年ほどの間に、世の中も、環境も、経済も、人々の心も大きく変化しました。そもそも、商品やサービスは、人々の「こうであったら」という希望や、「これを解決したい」という不満や不安から生まれているわけです。今回ご紹介した小西利行氏 の「3つの不満」を解決して、新たな商品やサービスを生んでいくアプローチは、まさに今の時代にこそ必要で必然なのではと確信しました。
なかでも、なんとなく暗いムードがまん延し続けているいま、お客さまの「気分の不満」をどう捉えて、どう解決して差し上げるかが、私たち企業家の大きなミッションであることも、強く感じた次第です。
感謝
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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |