トップが語る、「いま、伝えたいこと」
夏季休業期間に入ってすぐ、新型コロナ陽性と診断され、しばし「隔離」生活を送っておりました。夏季休業中という“非日常”な時間だったこともあり、メールも電話もSNSもいつものようには鳴らず……、自室で天井を眺める時間は、ある種開放的でもあり、他方、たいへん苦痛で閉塞的な時間でもありました。そもそも、体がそうしたいように動けないというのは、やはり苦痛でしかなく、あらためて健康の大事さを痛感する……というなんともありきたりの言葉が出てくるのも当然だと思う今日この頃です。
体が痛くてなかなか眠れず……、ふと目が覚めて時計を見ると、まだ2時間しか経っていない……。「しっかり眠らなきゃ」とまた目をつぶる……。また目を覚ますと、今度は1時間と少し。なんとも、時間の経過が長く感じられたはじめの数日間。普段なら、朝までワープしたかのようにあっという間に過ぎる時間。
明らかに、時間には、「物理的な時間」と「心理的な時間」があることを再確認しました。
前者は、普通に、当たり前に、規則正しく進む時間。これは、時計が作り出した時間というとややこしくなりますが、時計によって計測できる物理的な時間のこと。だれにとっても平等で客観的な時間です。
それとは違うもう1つの“時間”。
それが、「感じられる時間」です。
この「感じられる時間」は、さまざまな要因で伸びたり縮んだりします。先述した時間の感じ方は、まさに心理的な時間のこと。世界標準時間を示す時計のほかに、心のなかにそれぞれの“時計”を持っているのです。この心理的な時計は、主観的な時間を計るものと言えます。
スマホを見ていると時間が過ぎるのがあっという間に感じられたり、退屈な映画はいつまでも終わらないように感じられたり、年齢を重ねるほど、つぎの誕生日が早く来るように感じたり……。この不可思議な感覚の背景には、どうやらこの「物理的な時計」と「心理的な時計」の間に生じるズレが起こっているようです。
こうした「時間」の研究を行っていらっしゃるのが。千葉大学教授で「時間学」研究者の一川誠(いちかわまこと)先生です。
一川先生は、そうした時間の感じ方のズレは、「身体の代謝」が関係しているとおっしゃいます。「代謝」とは、生命の維持のために、外界から取り入れた無機物、有機化合物を素材として体内で行われる合成や化学反応のことで、新陳代謝のことです。
身体の代謝が激しいときには、「心理的な時計」は速く進みます。速くなった心理的な時計の進み方に対して、物理的な時間は変わらずに進むので、「物理的な時計」の進み方は相対的に遅くなることになります。このようなズレがある状態では、「時間がゆっくりと進んでいるように感じられる」ことになります。
つまり、心理的な時計では「5分は経っている気がする」のに、実際の時計(物理的な時計)を見ると「3分」しか経っていない。それで「まだ、これしか経っていないの?」と感じるわけです。
部屋でくつろぎながらスマホを触っているより、山歩きなどの運動をしているほうが、身体の代謝は高くなります。山歩きの1時間のほうがのんびりと感じられる理由の1つは、「物理的時計の相対的な遅れ」にあるということです。
逆に代謝が落ちていると、「心理的な時計」の進みは遅くなります。この場合、遅くなった心理的な時計の進み方に対して、物理的な時間はいつも通りなので、「物理的な時計」の進み方が相対的に速くなることになります。このようなズレがある状態では、「もうこんなに時間が経ったの?」と、あっという間に時間が進んだように感じられるのです。
さらにもう1つ、身体の代謝は、「一定の周期で変動すること」を指摘されています。
これは、自分自身の体を通じて気づいていることだとも言えますが、多くの人の場合、代謝は、朝起きたばかりはまだ上がっておらず、その後だんだん激しくなり、夕方近くにピークを迎えます。代謝が上がっていると、身体も頭もよく動くため、時間もゆっくり流れているように感じられます。その後、夜になると代謝はどんどん下がります。そして代謝が下がりつつある状態で就床すると、すぐに入眠できるという流れです。
「朝出かける前の1時間」と、「仕事がひと段落する夕方ごろの1時間」では、朝のほうが早く進む感じがしますよね!まだ代謝が上がらない朝のうちは、心理的時計の進みが遅く、物理的時計が早く進んでしまうように感じられます。ですから朝のうちは、日中にできる作業の、3分の2もできればいいほうだと、一川先生は指摘しています。
このように、身体の代謝は「周期性」を持って変動するだけでなく、ホルモンなどの内分泌を含む生理的状態や、睡眠や摂食などの行動パターン、覚醒状況などの心理的な状態も、周期的に変動していきます。こうした1日周期での心身の変動は、「サーカディアンリズム(概日リズム)」と呼ばれています。
このサーカディアンリズムがあることを知ると、時間帯によって最適な仕事を選択するという「効率化」につなげることができそうです。
サーカディアンリズムによると、「朝型」の方の場合、
【起床〜午前9時ごろ】=代謝がまだ低い状態なので、あまり無理しないほうがいい
【午前9時〜正午ごろ】=「論理的な判断」を必要とする作業は、この時間に一気に!
【午後2時〜夕方ごろ】=代謝が十分に上がっているので、外回りなど活動的作業を
【夜〜未明】=眠い目をこすって無理して仕事せず、寝て翌朝にやろう
(※「朝型」よりも起床や就寝が遅くなりがちな「中間型」や「夜型」の人は、1〜3時 間程度、それぞれの時間帯を「後ろ倒し」にした上で参考にしてください。)
一般的に、夜にかけて代謝は低下し、深夜あたりには、1日のなかでとくに低い状態になります。その時間帯は、集中力を要する作業の効率は大きく低下します。徹夜仕事などをするとエラーが頻出するのは、そのせいなのでしょうね。ほかの時間帯なら考えられないようなミスが、深夜帯には起こりやすいと言えます。ですから、車の運転や医療行為など、精神の集中を必要とする作業は、代謝の落ちる夜遅くにするのはとても危険だということです。
どんなにあせって深夜仕事しているときでも、眠気を感じたら、もう集中する仕事はできない状態だということだそうです。眠くなったら、それはもう身体からの「本日は作業終了」のサインです。無理せずに思い切って寝てしまい、次の日の朝に仕事を再開したほうが、結果的には短い時間で作業を片付けることができそうです。
本稿を進めながら、「なにか、似たような対の概念があったよな……」って、思い出そうとしていました……。
そうだ、そうだ!
「クロノス」と「カイロス」……。
そうそう、もうかれこれ15年以上も前のこと。株式会社トータルヘルスデザインの社主、近藤洋一先生に、本物研究所の社員研修をお願いしていた時代のお話。
「時間には、『クロノス』と『カイロス』という2つの概念がありましてね……」
このように切り出されたお話は、まるで不思議の国にいるかのように感じる時間でした。どちらもギリシャ神話において時を司る神です。ですが、表している時の内容が異なります。
クロノスは白髪の老人の姿で表されます。
時計の針や、スマホが示す時間のように、私たちが普段「時間」と呼んでいるものを意味しています。たとえば、「2022年8月22日 11時26分51秒」、これはクロノスです。数値や量として足したり、引いたり、計算することができます。
カイロスは前髪しかない青年です。
私たちが「今だ」と感じるタイミングのようなものを表しています。「チャンスの神には前髪しかない」というのはカイロスのことだと教わりました。宇宙の力が働いて、巡り合わせが起こるタイミングを示すのがカイロスです。物理的な時間ではなく、絶妙なタイミングで心に沁みるような出来事が起こり体感することがありますが、これがカイロス。「今だ」と思った瞬間につかみ取らないともうそのチャンスを手にすることはできないという意味です。クロノスが量や客観であるのに対し、カイロスは質や主観を表しています。
私たちは、時計である「クロノス」を基準にして生きていると言ってよいと思います。
「何時までに学校や会社に行かなければいけない」「5年後にはこうなっていたい」「3年前のあの出来事が忘れられない」といった思考。
近藤洋一先生曰く、「……ですが、本来、私たちの中にはクロノスはないんですわ。あるのは『今がその時や!』『いやいや、まだ違う!』といったカイロスだけなんです。過去や未来に触れることはできません。私たちの中にカイロスしかないということは、私たちは『今を生きることしかできない』ということになりませんか!」
そうですよね。
行動を起こせるのは「今」だけです。にもかかわらず、多くの場合、「未来」や「過去」のことばかりに気を配り、「今」を生きていません。「今」を生きているように見えても、「〜年後には」「いつかは」と言って未来ばかりを見たり、「あの時にああしておけば」「昔はよかったのに」といって過去ばかりを見ています。
「心ここにあらず」と言う言葉がありますが、多くの人や多くの場合、心ここにあらずの状態で、それが普通になっています。
過去や未来を考えることは、自分の持っているエネルギーをここではないどこかに分散させているのと同じだ……。こう指摘されると、なにやらとても損をしている感覚に陥ります。「今」しか持っていない私たちにとって、持っているエネルギーを100%「今」に注げないともったいない……。最良の未来のためにできることは「今この時に集中すること」です。
舩井幸雄が伝えた、「過去オール善、現状オール肯定」の捉え方はまさに、最良の過去は、最良の未来のために、今この時に集中した結果自然にできるものだと伝えたかったのだと思います。
一方、世界的に有名な禅僧のティック・ナット・ハンは次のように語っています。
「生は今この瞬間にある。今この瞬間をないがしろにする人は、日々を十分に生きることができない。」
なるほど……、こういうことだ!
「感じられる時間」を大事にする。
「カイロスに集中すること」が、未来と過去を切り開くチカラになる。
でも、結局のところ、「時(とき)」の正体は判明せず……。「鏡の迷宮」そのものとも言えそうです。
「時(とき)」は「解き」、あるいは「溶き」を意味すると、これまた近藤洋一先生に教わりました。
解かれた(溶かれた)その「時」こそが、「時」の正体?
それまで、少々「時(とき)」をいただきたいと思います。
というわけで、お後がよろしいようで……。
感謝
2022.08.22:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】“時”とは何者か? (※佐野浩一執筆)
2022.08.15:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】新しいわたし (※舩井勝仁執筆)
2022.08.08:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】人格を磨く (※佐野浩一執筆)
2022.08.01:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】Uber戦記 (※舩井勝仁執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |