トップが語る、「いま、伝えたいこと」
「舩井会長、人がもっとも短期間で人財になるためには、どうしたらいいですか?」
ある日、こんな質問を投げてみました。
すると、「わしは教育者じゃないのでな……」と少し照れながら、つぎのように話してくれました。
「でも、基本的な躾ができていないと、なかなか成長せんもんやな……。」
「躾というのは、どのようなことを指しますか?」
「……。日本海軍では、どうやら3つの躾が徹底されていたらしい。一つ目は、「ようそろの精神」。どんなことも、まずは「はい」と返事をして行動にうつしてみること。二つ目は、「五分前の精神」。何事も五分前には準備が完了していること。約束の時間の最低五分前にはその場所に来ていることを指す。三つ目は、「出船の精神」。船が船尾から港に入ってきて、いつでも出航できるようにしておくのと同じで、つぎの行動のための準備をあらかじめしておくことやね。」
これは、日本海軍のしつけの三つの精神ということで、よく講演でも話しておりました。ちなみに、「躾」について、「人生で一番大切なことは、正しい生き方を『クセづけ』する」(2010年海竜社刊、小宮一慶氏との共著)から、少々引用してみます。
私は多くの人を見てきましたが、基本的なしつけの訓練(慣れさせ、クセづけること)をやり、教育(良い特性を伸ばし、活用する方法を教えること)を行った際、各自が使命と役割を知り、目標を持ち、自主的に前向きに生きると、日本人ならその人は間違いなく人財、有意の人になるだろうと思うのです。
人財、有意の人とは、リーダーシップを発揮して、他人を納得させ、世の中を良いほうに変えたり、導いたりできる人のことです。
基本的なしつけの訓練とはどのようなことかというと、@約束を守る。Aどんなことも他人のせいにしない。B不善なことをしない。Cいばらない。Dマイナス発想しない。E差別しない……といったクセづけをすることです。これらは日本人ならできることです。
これらのクセづけを徹底させたうえで、その人の良い特性を伸ばせる優れた教育者がいたならば、その人は必ず人財になることができるでしょう。
吉田松陰から教わった幕末の志士たちが、皆それぞれの個性を発揮しながら、目覚ましい活躍をしたのは、基本的なしつけの訓練ができていたことと、優れた師によって良い教育を受けたからだろうと思うのです。
人はせっかく生まれてきたからには、その人の良い特性を存分に生かし、世のため人のため、自分の成長のためになるような、働きをすべきだろうと思うのです。
そして、会社というのは、単なる経営組織ではなく、社員それぞれの良い部分を伸ばす、常に人財づくりの場でなければならない、とも私は思っています。(引用終了)
「躾」って大事ですよね……。
ただ、それは指導的な視点だけでは決してないのです。
なぜなら、このあとに、必ず添えていたメッセージがあったからです。
これらの躾が根づいたあと、もっとも大事なのは、「自信をつけさせてあげること」だと……。「自分や、家族や、故郷のよいところを褒め、もっと好きになってもらうことで、人は自信が生まれてくるものだ」と、よく話していました。
さて、テレビなどメディアで、「働き方改革」の真逆をいくものとして、取り上げられているのが「秋山木工」の徒弟制度。一流の「心」と「技術」を持った職人を育てることで知られていますが、もちろんいろんな見解があることも事実です。
秋山利輝社長の修行経験から生まれた「30カ条の心得」。そこには、あいさつ、礼儀、感謝、尊敬、気配り、謙虚な心……など昔から日本人が実践してきた教えが含まれています。あらためて読み返し、反芻してみると、「仕事とは?」「社会人とは?」の問いに十分すぎるほどのエッセンスに満ちていると感じるのです。
ちなみに、秋山木工には、丁稚時代5年、職人3年の計8年間しかいられません。そのあとはやめて、独立しなければならないからです。
では、以下に引用します。
「職人心得30箇条」
○職人心得1
挨拶のできた人から現場に行かせてもらえます。
〜気持ちのよい挨拶は、人を笑顔にします。積極的に挨拶をすることで、周りを活気づけることができます。
○職人心得2
連絡・報告・相談のできる人から現場に行かせてもらえます。
〜情報を共有することで、周りも自分もスムーズに作業が進みます。また、周りの人に安心していただけます。
○職人心得3
明るい人から現場に行かせてもらえます。
〜いつも明るくしていると、自然に周りも明るくなります。また、人が集まりお仕事がいただけます。
○職人心得4
周りをイライラさせない人から現場に行かせてもらえます。
〜その場の空気を感じ取り、相手の目線で考え、素直に行動に移すことで、自分の人間性も高まります。
○職人心得5
人の言うことを正確に聞ける人から現場に行かせてもらえます。
〜指示された内容を正確に理解し、素直に行動に移すことで、自分の人間性も高まります。
○職人心得6
愛想よくできる人から現場に行かせてもらえます。
〜いつも愛想よくしていると、周りの方々に気持ちよくお仕事をしていただけます。
○職人心得7
責任を持てる人から現場に行かせてもらえます。
〜責任を持って仕事をすると、緊張感が生まれ、集中して取り組むことができ、そして自分の技術力も上がります。
○職人心得8
返事をきっちりできる人から現場に行かせてもらえます。
〜わかっているのかいないのか、はっきりと意志表示をすることで、仕事のミスをなくします。
○職人心得9
思いやりのある人から現場に行かせてもらえます。
〜常に相手のことを自分のことのように考え、行動することが大切です。
○職人心得10
おせっかいな人から現場に行かせてもらえます。
〜相手のためを思うなら、嫌がられても、言うべきことを言ってあげることも大事です。
○職人心得11
しつこい人から現場に行かせてもらえます。
〜限界を決めず、技術も人間性もとことん追求していくことが大切です。
○職人心得12
時間を気にできる人から現場に行かせてもらえます。
〜時間は止まってくれません。今できることを考え、一瞬一瞬を無駄にしないことが大切です。
○職人心得13
道具の整備がいつもされているひとかた現場に行かせてもらえます。
〜道具の整備をしていることで、すぐに仕事に取りかかることができます。また、道具は一生自分を助けてくれる相棒です。整備することで、感謝の気持ちを表します。
○職人心得14
掃除、片付けの上手な人から現場に行かせてもらえます。
〜掃除、片付けは仕事の仕上げであり、次の仕事の段取りにつながるので大切です。
○職人心得15
今の自分の立場が明確な人から現場に行かせてもらえます。
〜今の自分の立場をわきまえ、何をすべきかを考えて、素早く行動することが大切です。
○職人心得16
前向きに事を考えられる人から現場に行かせてもらえます。
〜これからどうなりたいのか考え、どんなことでも前向きに取り組むことで、必ず成長できます。
○職人心得17
感謝のできる人から現場に行かせてもらえます。
〜周りの方に支えていただいていることに感謝し、行動することが大切です。
○職人心得18
身だしなみのできている人から現場に行かせてもらえます。
〜身だしなみの乱れは心の乱れです。社会人のマナーとして、また、安全に作業するために大切です。
○職人心得19
お手伝いのできる人から現場に行かせてもらえます。
〜周りの人が何を望んでいるのかを考え、行動することが大切です。
○職人心得20
道具を上手に使える人から現場に行かせてもらえます。
〜道具を手足のように使えることで、感動していただけるものを作ることができます。
○職人心得21
自己紹介のできる人から現場に行かせてもらえます。
〜自己を見つめ直し、自分のよいところを相手にしっていただき、日本人としての夢を語れることが大切です。
○職人心得22
自慢のできる人から現場に行かせてもらえます。
〜お客さまのために、どのようなものをどんな工夫をしてつくったのか、説明できることが大切です。
○職人心得23
意見が言える人から現場に行かせてもらえます。
〜さまざまな考えを共有し、より良いものを作ろうとすることが大切です。
○職人心得24
お手紙をこまめに出せる人から現場に行かせてもらえます。
〜感謝の心を自分の字で表すことで、より一層想いが伝わります。
○職人心得25
トイレ掃除ができる人から現場に行かせてもらえます。
〜一番汚れる場所を磨くことで、自分の心も磨かれます。
○職人心得26
電話を上手にかけられる人から現場に行かせてもらえます。
〜相手の顔が見えない分、簡潔にわかりやすく伝えることが大切です。
○職人心得27
食べるのが早い人から現場に行かせてもらえます。
〜食べることにも段取りが必要です。農家の方や、食事を作ってくださった方に感謝をし、無駄なくおいしくいただくクセをつけることが、仕事にもつながります。
○職人心得28
お金を大事に使える人から現場に行かせてもらえます。
〜お金の生まれる過程を正確に理解し、感謝して使うことが大切です。
○職人心得29
そろばんのできる人から現場に行かせてもらえます。
〜計算を速くすることで、時間と材料を効率的に使うことができ、お客さまに喜んでいただけるものが作れます。
○職人心得30
レポートがわかりやすい人から現場にいかせてもらえます。
〜その日学んだことをわかりやすく書こうとすることで、もう一度身につき、日々を2倍速で学ぶことができます。
メディアで「徒弟制度」の部分だけが強調されすぎて、「本質」が理解されていないようにも思えます。人柄が一流でなければ、一流の職人にはなれないということ。本当にお客さまのことを大事にするなら、この30の心得、どれも大事であたりまえのことに思えてなりません。
デジタル全盛へ向けて世の中は動いていますが、いまの時代にこそ、見つめ直したい、ことばかりだと痛感しました。
感謝
2022.10.24:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】日本という希望 (※舩井勝仁執筆)
2022.10.17:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】いまこそ、共感 (※佐野浩一執筆)
2022.10.10:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】エクソダス (※舩井勝仁執筆)
2022.10.03:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】躾と人財 (※佐野浩一執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |