トップが語る、「いま、伝えたいこと」
元メジャーリーガー、イチロー氏は、あるときつぎのようなコメントをしました。
『何かのために』は聞こえは良い。
でも時に思い上がっているようにも思える。
人間関係においても言えることだが、
誰かの『ために』やろうとすると
厄介な問題になることがある。
しかし、誰かを『思い』
何かをすることには、
見返りを求めることもなく、
そこに愛情が存在しているから、
不幸な結果になることが少ないように思う。
短い言葉ですが、本質をとらえていて、大事なことを学ばせてもらえたと感動したのです。「誰かのために」を口に出したり、強調しすぎると、ときに自分自身の姿勢が不遜なものになってしまう可能性があることを、彼は指摘しています。
誰かを「思いながら……」何かをすることは、秘めたる思いなので、自己完結できますね。確かに、愛情深くも感じます。何より、謙虚になれる感じがします。
でも、まずは、その「誰かのため」という姿勢や意識になれることが大前提のようにも思えます。
そこで、思い出したのが、過去に書いた拙文のなかで、まさにこの「誰かのため」についての原稿があったので、それと照らし合わせながら、考えていきたいと思います。
舩井幸雄が伝えてきた「みろくの世」が、もし現実になるなら……。
いや……、現実にしたいなら……。
きっと、私たちは、いまの考え方や生き方を結構変えていかないといけないんだろうなって思います。
「あたりまえじゃないか!」っていうご意見もあるでしょうし、「それは時代の流れとともに変わっていくものだ!」という見解も生まれるでしょう。
ただ、一つ言えることは、「いまとは違うものになる」ということです。
そこで、少し前の書物ですが、「禅僧が教える 心がラクになる生き方」(2017年アスコム刊)につぎのようなことが書かれていました。
福井県の永平寺で僧侶として20年間過ごされ、いまは、青森県にある霊場、恐山の院代(住職代理)として10年以上過ごしてこられた僧侶、南直哉(みなみじきさい)氏は、「人生をどう生きるか」という命題に対し、つぎのようにお答えになられます。
「人生を棒に振るつもりで生きたらいい」と。
「棒に振る」とはどういうことか?
極端に言えば、「何もしないこと」。
でも、それでは取りつく島がないということで、つぎのように言い換えてくださいます。
「自分のためではなくて、特定のだれかのために何かをすることですね。」
なんだか、これこそ“禅問答”のようです。
人は、人生になんらかの意味を見つけられないと生きられません。その、“人”の最大の欲求こそが、「だれかから認められたい」ということです。
そこで、南氏は言うのです。
人から認められたいなら、「自分のなすべきこと」をなすことだと……。
自分の「やりたいこと」ではなく、「やるべきだと信じること」をなすということです。おおよそ、人は、自分の損得や感情をベースに生きてしまいます。「得したい」「ラクしたい」と感じたり、考えたりするのは、ある種、人の性(さが)でもあります。
ただ、何をやるべきなのかを考えることは、すなわち、「何を大切にして生きたいか」を考えることだと諭されると、「なるほど、そうだな」って思えてくるのです。
だれを大切にしたいのか?
何を大切に生きたいのか?
この2つについて考えると、自分のためではなく、「だれかのために」「何かのために」なすべきことに目が行くと教わりました。
これこそが、「自分のテーマを決めて生きる」ことだというのです。
ここに、今回のテーマでもある「誰かのため」というキーワードが登場しました。
イチロー氏の言う、「誰かを思い」行動するということについて考察するために、同書に触れられていた「職人の生き方」について参考にしたいと思います。
大工さん、農家や庭師、豆腐屋さんやお寿司屋さん、事務職あるいは技術職の人……。いわゆる「職人」や「職人技」と認められる腕を持っている方たちは、その“腕”をもってして、「やるべきこと」が決まっていて、それを最優先に生きていらっしゃいます。
こういう方たちは、自分自身が評価されなくても、「自分の仕事」が評価されればいい
と考えるので、人に対して見栄やてらいがほとんどないということです。
つまり、「仕事が認められること」=「自分が認められること」なので、「自分自身」への執着を手離せるということだそうです。いいものができるかどうか、満足のいく仕事ができるかどうか……。ここにだけ意識が向けられているということですね。
かつて、舩井幸雄も、よい人生を生きたいなら、世のため、人のために、プロとして、仕事を趣味のように実践することを説いてきましたが、なんだかこのあたりでつながってきたように思えたのです。
プロ化するということは、そこにだけ集中することですから、きっと自身の邪念から外れられるのではないか? だから、趣味や娯楽をとおしてではなく、仕事で人生を満喫するべきだと述べたのではないだろうか……と。
イチロー氏も、ある意味この「職人」と言える人物でした。よって、この感覚に似たものを考えていたのではないかと想像します。
自分の「〜すべき」を明確に認識し、認められるようになると、「〜したい」に振り回されないでいい。他人の顔色をうかがったりすることもいらなくなる……。いずれ、必ずその仕事を認める人がでてくるというわけです。
「なすべきこと」は欲望ではなく、価値。
自分の乏しい能力と限られた時間のなかで、なにをすべきかをシビアに選択し、集中する。それこそが、世のため、人のためになる生き方につながっていくので、「あれも、これも」は無理だということなんですね。
しかしながら、禅的考え方によると、その「なすべきこと」すら幻想だと考える……。
その「べき」が所詮、幻想であることをわかっていると、結果を期待したり、見返りを求めたりすることも、そして思い通りにいかないことも、「仕方ない……」ととらえることができる……。
所詮は、幻想。
だから、冒頭に触れた「人生を棒に振るつもりで生きたらいい」というメッセージにつながっていくんだと、ここで腑に落ちたのです。
本気で、自分を活かし、結果として誰かのためになることを考えると、これだけシンプルなとらえ方になるんだということを、南氏のメッセージから学ばせていただきました。
ここには、「我」というか、「エゴ」のような感覚は微塵も感じないような気がします。それが、「誰かのため」ではなく「誰かを思い」何かを実践するということなのだと感じたのです。
舩井幸雄は、「1%の人が変われば、世の中が変わる」と断言しました。
これが、「みろくの世」に変わるための条件であるとすれば、まだまだ、世のため、人のため、いや……「世を思い、人を思う」発想を持つ人が足りていないということなんだと思います。
地球環境、経済、国際関係、政治問題……、まだまだ世の中は課題が山積しています。だからこそ、まずは「世を思い、人を思う」小さなアクションの積み重ねを、いち早く「一定量」を満たせるようにしていかねばなりません。
企業人の1人としても、真剣に向き合わねば……と思う、今日この頃です。
感謝
2024.07.22:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】だれかのため→だれかを思う (※佐野浩一執筆)
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2024.07.08:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】老荘思想と舩井幸雄 (※佐野浩一執筆)
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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |