トップが語る、「いま、伝えたいこと」
舩井幸雄は、実は、お話が苦手だったのです。
てっきり、大得意なんだと思い込んでいました。あまりに驚きだったので、先に書いてしまいましたが、このあたりはぜひ、あとの文章をお楽しみください。
年間、200〜300回講演で日本中を闊歩していた舩井ですが、これは「得意になったあと」の姿だった……ということがわかるくだりです。
どうやって、苦手を克服し、得意にしたのか?
これには、「つき」の原理も関係しているようです。
1986年に出版された「上に立つ者の人間学」(PHP研究所)、第1章「『つきの原理』を知ろう」より引用します。
おもしろいことに、長所というか得意なもの、好きなもの、自信のあるものを伸ばしていると、短所が消えるというか、不得手なもの、嫌いなもの、自信のないものがだんだん少なくなっていく。
私は、少年時代から文章を書くのが好きだった。作文、和歌、俳句、詩などは、「下手の横好き」だったのかもしれないが、よく入賞したり、ほめられたりした。そのうちに「本」を書きはじめた。三冊、五冊と著書の数がふえるにしたがい、いつのまにか、多少とも有名になり、講演依頼などが来はじめたのだが、人の前で話すことは、座談はもとより、普通の会話もあまり好きではなかった。いわんや講演などというのは大の苦手で逃げ回っていたが、そのうち断り切れずに、引き受けだした。そしたら、書くのと同じことなのである。おもしろいし上手になりだした。
いまでも話すことは特別に上手ではない。しかし本業でもないのだが、年間三〇〇回ぐらいも断り切れずに講演を引き受けているせいか、いまでは聴衆が何百人いようとも、定められた時間内に、いいたいことは、きちっと言うし、まず全聴衆を満足させる話ができるようになったと自負している。話すことについての苦手意識もまったくなくなったが、これなど得意である書く力を伸ばすことにより、不得手な話し下手を克服した例ともいえる。
おもしろいものである。
私はいま、書く方も、話す方も、本業ではないが「プロの域」には達したようである。
プロの域……というのは、いつでも、素人が、もっとも上手にできるレベルのことをいうのだが、身近な長所を伸ばしている間に、「つき」がつき、必要なら短所も消えてくる例といえよう。
(中略)
ともかく、まず自分にある「ついているもの」とつきあい、ついで自分の周辺の「ついているもの」とのつきあいをはじめ、徐々に、自分が憧れている「ついている人」「ついている会社」「ついている物」などに、つきあいをひろげていってほしい。
そうすれば、「つき」はさらに「つき」を呼び、幸せとか成功をもたらすだろう。
「つき」が「つき」を呼ぶ。まさにこれは「つき」体質といってよいでしょう。ついているものを伸ばしているうちに、ほかのそうでないところにも光があたり、それがあらたな「つき」の元になるわけですね。やっぱり「長所」や「ついているもの」を伸ばしていくことが大事なんだと、よくわかっているつもりでしたが、再確認することになりました。
というわけで、苦手意識のあった「話すこと」を、「書くこと」との共通点を見つけ、つきを伸ばし、長所としていった経緯です。
このあたりから、舩井幸雄は、「長所伸展法」について、あちこちで語り始めるのです。その「長所伸展法」については、多くの著書に記されていますが、そもそもは企業コンサルティングの観点から論じられてきました。そのことがよくわかる文章を、「船井幸雄の視点」(1993年ビジネス社刊)から抜粋してみます。
私は経営コンサルタントであり、経営コンサルタント会社の経営者である。職業がら経営のプロだから、経営のコツについては、いろいろの手法を熟知しているといってよい。
そのコツの中で、ベストのコツは「長所を伸ばすこと」といえそうである。
私の会社には、百数十人の経営コンサルタントがいるが、私は常に彼らにつぎのようにいっている。
「一番大事なことは、われわれに、コンサルティングを依頼された会社を、たえず運のよい状態にしておくことだ。
そのためには、その会社の長所をたえず伸ばしつづければよい。よく売れている商品、よく伸びている商品、よく買ってくれている得意先、効率のよい部門、自信をもっている部門など、そこの会社の長所と思われるものを伸ばしつづけるのだ。
これで簡単に業績が向上し、その会社は運のよい状態を続けられる。運のよいときは何をしても成功する。
逆に、運の悪いときは何をやっても失敗する。したがって、運を悪くするようなこと、いわゆるクライアントの欠点や運の落ちていると思われる商品・部門などには、なるべく触れないことだ。
ともあれ、優秀な経営コンサルタントは、クライアントの欠点がまず目につくものだ。そこでそれを指摘し、そこを改善しようとする。しかし、これは、ほとんどの場合、失敗する。かえって運を悪くするのが関の山だ。
したがって、われわれは、よほどのことがない限り、クライアントの欠点の指摘をしたり、それらの是正からコンサルティングに取りかかってはいけない」と。
舩井の筆致の強さにあらためて感激するとともに、経営のプロとしての自信と覚悟が伝わってきます。とくにこの書物が世に問われた約20年前は、会社にいれば数珠つなぎの来客、講演も年間200回を越えるというように、活力と元気にあふれ、日本中を闊歩していた時代でした。
一方、「舩井流」が“万能の法則”と評価された背景には、この「長所伸展法」も企業経営だけでなく、人の生き方や育成のしかたにも活用でき、成果が上がっていたという事実がありました。ただ、おもしろいのは、企業やコンサルティングに対してはとても厳しく、強い文体や表現を使うのですが、同書とほぼ同時期に出版された別の書には、人に対するとらえ方が、実に優しく、包容力にあふれる書き方で綴られているのです。
というわけで、その部分を「「ほんもの」の生き方 人の道」(1999年ビジネス社刊)第二章・人間のあり方から抜粋させていただきます。「あなたは輝いているか」という一瞬ドキッとするタイトルではじまります。どうぞ、じっくり味わってみられてください。
「あなたは輝いているか」
好奇心をなくし、やる気もなくしているときというのは、自分がやらなければならないことが、自分のやりたいことと本質的に一致していないときです。それにもかかわらず、やらなければならないことと思っていますから、やろうとするわけですが、そのようなときにはその「やらなければならない」ということの内容を、吟味してみる必要があります。
「やらなければならない」と思い込んでいることは、あなたの長所や特性とフィットしていますか。それはほんとうに「やらなければならない」のでしょうか。
人生には、ときとしてたとえどんなに嫌なことであっても、やらなければならないことがあるのは確かです。しかし、それは程度問題です。そのことについては、こんな古い話があります。
あるところに牛がいました。その牛の角が、なんともいびつなので、飼い主が、これはなんとかしなければならないと思いました。そこで、その牛の角を真っ直ぐにしようとしたところ、その牛は死んでしまいました。そのことを、「角をたわえて、牛を殺す」といいます。
私が、人間の人生や経営において、長所を伸ばすことに力点を置き、短所是正はほどほどにというのには、そのような意味もあるのです。多少、角がいびつであっても、ひん曲がっていても、その牛が伸び伸びと生きていて、元気で活躍をしており、みんなのためになっていれば、それでいいではありませんか……と言いたいのです。それを他と同じように、角をある程度は真っ直ぐにしなければならないなどと、余計なことはしない方がいいでしょう。
あなたがもしその牛ならば、角がみんなと同じかどうか、見た目がよいかどうかを、気にしすぎる必要はありません。それよりも、自分は元気かどうか。サムシング・グレートに祝福されているかどうか。みんなに好かれているかどうか。輝いているかどうかをチェックすべきだと思います。
舩井幸雄の人間愛がひしひしと伝わってくるように感じるのは、私だけではないと思います。厳しさと優しさのバランス感覚を、「長所伸展」という視点からお伝えしたいと思いました。
感謝
2024.09.23:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】人間失格 (※舩井勝仁執筆)
2024.09.16:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】自分探しという呪縛 (※佐野浩一執筆)
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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役社長 株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。 |