トップが語る、「いま、伝えたいこと」

このページでは、舩井幸雄の遺志を引き継ぐ舩井勝仁と佐野浩一が、“新舩井流”をめざし、皆様に「いま、伝えたいこと」を毎週交互に語っていきます。
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2024年9月2日
長所伸展法の夜明け前 (※佐野浩一執筆)

 舩井幸雄は、実は、お話が苦手だったのです。
 てっきり、大得意なんだと思い込んでいました。あまりに驚きだったので、先に書いてしまいましたが、このあたりはぜひ、あとの文章をお楽しみください。
 年間、200〜300回講演で日本中を闊歩していた舩井ですが、これは「得意になったあと」の姿だった……ということがわかるくだりです。
 どうやって、苦手を克服し、得意にしたのか?
 これには、「つき」の原理も関係しているようです。
 1986年に出版された「上に立つ者の人間学」(PHP研究所)、第1章「『つきの原理』を知ろう」より引用します。

 おもしろいことに、長所というか得意なもの、好きなもの、自信のあるものを伸ばしていると、短所が消えるというか、不得手なもの、嫌いなもの、自信のないものがだんだん少なくなっていく。
 私は、少年時代から文章を書くのが好きだった。作文、和歌、俳句、詩などは、「下手の横好き」だったのかもしれないが、よく入賞したり、ほめられたりした。そのうちに「本」を書きはじめた。三冊、五冊と著書の数がふえるにしたがい、いつのまにか、多少とも有名になり、講演依頼などが来はじめたのだが、人の前で話すことは、座談はもとより、普通の会話もあまり好きではなかった。いわんや講演などというのは大の苦手で逃げ回っていたが、そのうち断り切れずに、引き受けだした。そしたら、書くのと同じことなのである。おもしろいし上手になりだした。
 いまでも話すことは特別に上手ではない。しかし本業でもないのだが、年間三〇〇回ぐらいも断り切れずに講演を引き受けているせいか、いまでは聴衆が何百人いようとも、定められた時間内に、いいたいことは、きちっと言うし、まず全聴衆を満足させる話ができるようになったと自負している。話すことについての苦手意識もまったくなくなったが、これなど得意である書く力を伸ばすことにより、不得手な話し下手を克服した例ともいえる。
 おもしろいものである。
 私はいま、書く方も、話す方も、本業ではないが「プロの域」には達したようである。
プロの域……というのは、いつでも、素人が、もっとも上手にできるレベルのことをいうのだが、身近な長所を伸ばしている間に、「つき」がつき、必要なら短所も消えてくる例といえよう。
(中略)
 ともかく、まず自分にある「ついているもの」とつきあい、ついで自分の周辺の「ついているもの」とのつきあいをはじめ、徐々に、自分が憧れている「ついている人」「ついている会社」「ついている物」などに、つきあいをひろげていってほしい。
 そうすれば、「つき」はさらに「つき」を呼び、幸せとか成功をもたらすだろう。


 「つき」が「つき」を呼ぶ。まさにこれは「つき」体質といってよいでしょう。ついているものを伸ばしているうちに、ほかのそうでないところにも光があたり、それがあらたな「つき」の元になるわけですね。やっぱり「長所」や「ついているもの」を伸ばしていくことが大事なんだと、よくわかっているつもりでしたが、再確認することになりました。

 というわけで、苦手意識のあった「話すこと」を、「書くこと」との共通点を見つけ、つきを伸ばし、長所としていった経緯です。
 このあたりから、舩井幸雄は、「長所伸展法」について、あちこちで語り始めるのです。その「長所伸展法」については、多くの著書に記されていますが、そもそもは企業コンサルティングの観点から論じられてきました。そのことがよくわかる文章を、「船井幸雄の視点」(1993年ビジネス社刊)から抜粋してみます。

 私は経営コンサルタントであり、経営コンサルタント会社の経営者である。職業がら経営のプロだから、経営のコツについては、いろいろの手法を熟知しているといってよい。
 そのコツの中で、ベストのコツは「長所を伸ばすこと」といえそうである。
 私の会社には、百数十人の経営コンサルタントがいるが、私は常に彼らにつぎのようにいっている。
 「一番大事なことは、われわれに、コンサルティングを依頼された会社を、たえず運のよい状態にしておくことだ。
 そのためには、その会社の長所をたえず伸ばしつづければよい。よく売れている商品、よく伸びている商品、よく買ってくれている得意先、効率のよい部門、自信をもっている部門など、そこの会社の長所と思われるものを伸ばしつづけるのだ。
 これで簡単に業績が向上し、その会社は運のよい状態を続けられる。運のよいときは何をしても成功する。
 逆に、運の悪いときは何をやっても失敗する。したがって、運を悪くするようなこと、いわゆるクライアントの欠点や運の落ちていると思われる商品・部門などには、なるべく触れないことだ。
 ともあれ、優秀な経営コンサルタントは、クライアントの欠点がまず目につくものだ。そこでそれを指摘し、そこを改善しようとする。しかし、これは、ほとんどの場合、失敗する。かえって運を悪くするのが関の山だ。
 したがって、われわれは、よほどのことがない限り、クライアントの欠点の指摘をしたり、それらの是正からコンサルティングに取りかかってはいけない」と。


 舩井の筆致の強さにあらためて感激するとともに、経営のプロとしての自信と覚悟が伝わってきます。とくにこの書物が世に問われた約20年前は、会社にいれば数珠つなぎの来客、講演も年間200回を越えるというように、活力と元気にあふれ、日本中を闊歩していた時代でした。

 一方、「舩井流」が“万能の法則”と評価された背景には、この「長所伸展法」も企業経営だけでなく、人の生き方や育成のしかたにも活用でき、成果が上がっていたという事実がありました。ただ、おもしろいのは、企業やコンサルティングに対してはとても厳しく、強い文体や表現を使うのですが、同書とほぼ同時期に出版された別の書には、人に対するとらえ方が、実に優しく、包容力にあふれる書き方で綴られているのです。
 というわけで、その部分を「「ほんもの」の生き方 人の道」(1999年ビジネス社刊)第二章・人間のあり方から抜粋させていただきます。「あなたは輝いているか」という一瞬ドキッとするタイトルではじまります。どうぞ、じっくり味わってみられてください。

「あなたは輝いているか」

 好奇心をなくし、やる気もなくしているときというのは、自分がやらなければならないことが、自分のやりたいことと本質的に一致していないときです。それにもかかわらず、やらなければならないことと思っていますから、やろうとするわけですが、そのようなときにはその「やらなければならない」ということの内容を、吟味してみる必要があります。
 「やらなければならない」と思い込んでいることは、あなたの長所や特性とフィットしていますか。それはほんとうに「やらなければならない」のでしょうか。
 人生には、ときとしてたとえどんなに嫌なことであっても、やらなければならないことがあるのは確かです。しかし、それは程度問題です。そのことについては、こんな古い話があります。
 あるところに牛がいました。その牛の角が、なんともいびつなので、飼い主が、これはなんとかしなければならないと思いました。そこで、その牛の角を真っ直ぐにしようとしたところ、その牛は死んでしまいました。そのことを、「角をたわえて、牛を殺す」といいます。
 私が、人間の人生や経営において、長所を伸ばすことに力点を置き、短所是正はほどほどにというのには、そのような意味もあるのです。多少、角がいびつであっても、ひん曲がっていても、その牛が伸び伸びと生きていて、元気で活躍をしており、みんなのためになっていれば、それでいいではありませんか……と言いたいのです。それを他と同じように、角をある程度は真っ直ぐにしなければならないなどと、余計なことはしない方がいいでしょう。
 あなたがもしその牛ならば、角がみんなと同じかどうか、見た目がよいかどうかを、気にしすぎる必要はありません。それよりも、自分は元気かどうか。サムシング・グレートに祝福されているかどうか。みんなに好かれているかどうか。輝いているかどうかをチェックすべきだと思います。


 舩井幸雄の人間愛がひしひしと伝わってくるように感じるのは、私だけではないと思います。厳しさと優しさのバランス感覚を、「長所伸展」という視点からお伝えしたいと思いました。
                        感謝

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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長
1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。
2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了)
著書に『生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『未来から考える新しい生き方』(2011年 海竜社)、『舩井幸雄が一番伝えたかった事』(2013年きれい・ねっと)、『チェンジ・マネー』(はせくらみゆき共著 2014年 きれい・ねっと)、『いのちの革命』(柴田久美子共著 2014年 きれい・ねっと)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(佐野浩一共著 2014年 きれい・ねっと)、『聖なる約束』(赤塚高仁共著 2014年 きれい・ねっと)、『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(朝倉慶共著 2014年11月 ビジネス社)、『智徳主義【まろUP!】で《日本経済の底上げ》は可能』(竹田和平、小川雅弘共著 2015年 ヒカルランド)、『日月神示的な生き方 大調和の「ミロクの世」を創る』(中矢伸一共著 2016年 きれい・ねっと)、『聖なる約束3 黙示を観る旅』(赤塚高仁共著 2016年 きれい・ねっと)、『お金は5次元の生き物です!』(はせくらみゆき共著 2016年 ヒカルランド)がある。
佐野 浩一(さの こういち)
株式会社本物研究所 代表取締役社長
株式会社51コラボレーションズ 代表取締役会長
公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事
ライフカラーカウンセラー認定協会 代表
1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。
著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる 自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた船井幸雄のすべて』(成甲書房)、船井幸雄との共著『本物の法則』(ビジネス社)、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)がある。
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