船井幸雄グループ社員の、日々もの思い、考へる
このページは、船井本社グループスタッフによるコラムページです。 「これからは“本音”で生きるのがよい。そのためには“本物の人間”になることが大事」という舩井幸雄の思想のもと、このページでは、社員が“本物の人間”になることを目指し、毎日の生活を送る中で感じていること、皆さまに伝えたいことなどを“本音ベース”で語っていきます。
名前:多久島 猛
みなさん、こんにちは。イリアール(株)の多久島です。
毎回書いていますが、私は大の歴史好き、日本史好きです。
今回は、せっかく(?)2012年1月から松山ケンイチ演じる、大河ドラマ「平清盛」が始まりますので、清盛が生きた平安時代を取り上げたいと思います。今回の原稿を読んでいただいて、少しでも大河ドラマを楽しむ材料にしていただければ幸いです。
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1. 古代の延長であった「公家時代」と、現代につながる「武家時代」
いきなりですが、「100年前」、「500年前」、「1000年前」といった「時間の長さ」について、皆さんはどのように“感覚”をお持ちでしょうか?
例えばアメリカ人は、国そのものが若いため(1776年建国)、国内に「古い物」や「古い建物」が存在しません。だから日本の法隆寺(607年〜)や正倉院の宝物(700年頃〜)などの遺跡・遺物に強い関心を示し、畏敬の念を抱くと言われています。
単純計算すれば、「アメリカの記憶」とは2012年−1776年=236年までしかさかのぼれません。いっぽうで日本史における「236年前(つまり1776年)」といえば、江戸時代の半ば。私の感覚では、「つい最近」の出来事のように思えます。
それと同じように、では「戦国時代があった500年前は?」、「室町幕府が建てられた700年前は?」…とさかのぼっていくと、ちょうど平清盛が生きていた800年前頃から、しだいに「古い」という感覚になります。
ムリヤリ「平清盛」に強引にこじつけたわけではなく、一応理由があります。
平氏の滅亡後に行なわれた「鎌倉幕府の設立(1192年)」とは、それまで天皇(公家)中心だった政治体制が、武家中心に転換した、「超」が何個もつくほどの重要な出来事です。そして武家体制は、明治維新が起こるまで600年も続き、そこで培われた常識や価値観は、現代も受け継がれています。
だからこそテレビや小説で、戦国や江戸時代を取り上げたストーリーに接したとき、私たちは特別に説明を受けなくても、登場人物の考え方や行動内容が何となく“感覚的に”理解できるのだと思うのです。
しかし「鎌倉幕府の設立」より昔となると、登場する人物(公家)の考え方や行動内容は、補足説明がなければ理解できません。なぜなら「鎌倉幕府の設立」を境に、それまでの“常識や価値観”は、全国レベルから「京都限定」に縮小されてしまったためです。
大河ドラマ「平清盛」を観るときは、「清盛が生きていた時代は、古代の延長であった『公家時代』と、現代につながる『武家時代』のちょうど過渡期であった…」ということも含んで観てもらえたら、またいろいろと「観えるもの」が増えていくと思います。
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2.古代と現代日本の奇妙な一致
矛盾するようですが、古代と現代で、実は共通している部分もあります。政治や文化に影響されることのない“日本人の民族性”と言っていいかもしれません。
それは、極端な「軍事嫌い」ということです。
武家時代では、いわば軍事政権だったわけですから、当然のように政策の一つとして「戦争」が行なわれていました。それに対して公家時代と現代日本では、「戦争」は、とてつもない非常手段として扱われ、そして軍隊が廃止されました。
現代日本は、憲法第9条で「戦力を放棄」していることは、日本人全員が知っているところです。しかし現実ではそうもいかないので、「防衛戦力だったら、憲法が定める『戦力』には当たらない」と苦しい言い訳と屁理屈をこねて、今日に至っています。形式的とはいえ、軍隊は廃止にされたままなのです。
いっぽうで公家時代ではどうだったのか。
「鳴くよウグイス」で有名な平安京遷都(794年)を行なった桓武天皇が国軍を廃止にしました。
ただこのときも、現実的には「軍隊がないと困る」という問題が発生したため、当時の憲法にあたる「律令(りつりょう)」には定められていない検非違使(けびいし)という組織をつくって、その任務に当たらせました。ちなみに、これを「令外官(りょうげのかん)」と言います。
この「令外官」というのが何とも言い得て妙で、要するに「法に定められていない官僚(役人)」ということですから、まさに現代日本の自衛隊と同じです。なぜなら、彼らもまた憲法で「放棄されるべき」とうたわれている令外官なのですから。
この事実を知ったときは、何とも奇妙な感覚に襲われました。「1200年前の日本人も、21世紀の日本人もまったく同じことをやっている」と。
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3.「穢れ」思想が武士を生みだした
公家時代の価値観では、「穢(けが)れ」ることを、何よりも忌み嫌っていました。
ここで言う穢れは、血肉や人や動物の「死」に触れること。また、それらに触れた人に触れること、そして災害などに見舞われることなどを指します。
その上で、公家時代において一番「穢れている」とされていたのが、武士でした。
「戦い」を生業とした武士は、常に「死」という穢れにまみれています。話が前後しますが、だからこそ桓武天皇は「戦い」を毛嫌いし、国軍を廃止にしてしまったのです。
しかし、現実的には国軍を廃止にしても戦争も犯罪もなくなることはありません。むしろ治安は悪化し、社会は混乱します。それは、検非違使を創設した公家自身が証明しています。
そのうえ公家たちは、自分の手は一切汚すことなく、検非違使の任までも武士に丸投げにしてしまったのです。
ここで重要なのは、公家と武士が対等関係だったのであればまだしも、あくまでも身分的には公家が上位であり、武士は差別対象ですらあったということです。
大河ドラマ「平清盛」第1話において、主人の平清盛(松山ケンイチ)の父、忠盛(中井貴一)が、主君である白河法皇(伊東四朗)に犬畜生のごとき扱いを受けていたのも、そういう理由だったのです。
そのような時代背景の中で、キラ星のごとく頭角を現したのが平清盛だったのです。
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4.そして平安京から鎌倉へ
あまり知られていないことですが、源氏も平氏も、実は元皇族でした。
21系統あるといわれる源氏の中で、鎌倉幕府を設立した源頼朝は清和源氏の御曹司。これは清和天皇の時代に皇籍を離れた源氏一族です。それに対して平清盛は、桓武天皇の孫の代で皇籍を離れた、桓武平氏の末裔だったのです。
ただ「元皇族」といっても、それまでと違って食い扶持は自分で稼がなければなりません。ほかの中級貴族と同じように地方に派遣され、源氏は東国、平氏は西国に根をおろし、「武家の名門」として勢力を固めていったのです。
このような時代背景を踏まえたうえで、平氏の栄華から鎌倉幕府の設立までの流れを見ると、次のようにイメージできます。
1)平清盛、太政大臣に就任
(武士たちの声)おお!国政のトップに武士の棟梁が就いたのなら、俺たちの生活もきっと良くなるぞ!ガンバレ!清盛!
2)清盛、娘を天皇家に嫁入りさせ、外祖父として権勢をふるう
(武士たちの声)あれ? 清盛がやっていることって、今まで俺たちを差別してきた貴族たちと同じことじゃないか。ガッカリ…。
3)源頼朝の挙兵
(武士たちの声)おお!源氏が立ち上がった。でも、今は平氏全盛だから、うかつに源氏に味方したら何をされるかわからない。様子を見るか…。
4)頼朝の弟、義経が大活躍!
(武士たちの声)源氏が平氏を京都から追い出した!頼朝の方が武士の不満をよく理解してくれている。よし!源氏の側につこう!
5)鎌倉幕府の設立
(武士たちの声)念願の武士の人権(?)を保障してくれる政権が誕生した!これで俺たちも安心して生活していける。バンザイ!
…とまあ、こんな感じでしょうか。
最後に余談ですが、大河ドラマ「平清盛」の放送を観て、(平氏が本拠を置いたとされる)兵庫県知事が「画面が汚い」と批判をしたとの報道がありました。しかし、当時の時代背景を追求すればこそ、むしろ「平清盛」は、「より忠実に史実を再現しようと努力している」と評価できます。
なぜなら、天災や飢饉にみまわれ混乱する社会、公家の非現実的な政治と無策、差別される武士…などなど、これらが相まって「末法思想」が広がっていたのが当時の世相だったからです。そして、これこそが打倒公家政権、鎌倉幕府設立の原動力となったのです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
1周目:「一語一句、気持ちを込めて文字を綴る」
2周目:「新燃岳に想う、20世紀最大の噴火・ピナツボ火山」
3周目:「わたし流 歴史・時代の眺め方」
4周目:「歴史は繰り返す? 実はニッポン人はお金にルーズ?」
5周目:「歴史は続くよどこまでも」
6周目:「歴史は続くよどこまでも(2)」
7周目:「歴史は続くよどこまでも(3)」
2012.01.30: 心躍る小道
2012.01.27: 今、流行りのFacebook
2012.01.26: 地方(地域)の自立
2012.01.25: 歴史は続くよどこまでも(4)
2012.01.24: セミナー継承企画初挑戦
2012.01.23: 今年の目標
2012.01.20: おでんの季節
2012.01.19: 「正しい日本語」を考える―その1
2012.01.18: 与え好きと受け取り上手は、周りを幸せにする
2012.01.17: 食事について
2012.01.16: 氣代謝生理学に関して
2012.01.13: 自分を愛する生き方
2012.01.12: “グレー”からの脱却
2012.01.11: 直感力
2012.01.06: 「祈り」つづける