ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測

このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。

2022.11.01(第105回)
日本が慢性的に停滞している理由

 今回は日本が慢性的に停滞している理由について書く。
 何度か景気浮揚の時期はあったものの、1991年にバブルが崩壊してから、日本は慢性的な停滞状態に陥っている。経済成長率は1%を下回る水準で推移し、賃金もほとんど横ばいで上昇は見られない。さらに、山一證券や拓銀の破綻があった金融ビッグバン以降、日本経済は一層低迷した。
 そして、人件費の削減を模索していた経団連の強い要望で小泉政権が実施した2003年から2006年にかけての労働者派遣法改正で、製造業の全分野における非正規雇用の導入が可能になった。その結果、終身雇用制は実質的に放棄された。人件費の削減で増大した企業の利益は株式などに投資され、2003年から株価は上昇に転じた。
 しかし、その後、金融市場は拡大しつつも、国内の景気は依然として低迷し、平均賃金も横ばい状態が続いている。1990年と比較すると、賃金は先進国で50%から150%ほど上昇しているのに、日本は伸び率は実質的にゼロに等しい。2015年には韓国に抜かれている。
 この30年間、賃金の伸びがまったくないので、国内の需要も増大しない。これでさらに日本経済は低迷する。こうした悪循環に入っているというのが、定説になっている。政府はこの悪循環を脱するために、賃金の引き上げを企業に要請しているのが現状だ。

●悪循環の定説
 最近内閣府からショッキングなデータが公開された。「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、日本人の年収の中央値は374万円であった。これは1994年の505万円から131万円の下落だ。昨年の399万円と比較しても、25万円も低くなっている。
 これは驚くべき賃金の下落だ。賃金は横ばいどころか、毎年かなりの程度下がっていたのだ。NHKをはじめ日本の主要メディアでは、日本経済の牽引役である製造業では、次のような悪循環を定説として提示している。
 90年代以降、日本は中国や韓国などの新興国の成長に押され、日本のおはこであった家電や耐久消費材は国際競争力を失い、価格競争に敗れた。この結果、企業の利益は減少した。そのため、人や設備への投資ができなくなったので、新しい技術や製品を開発するための投資も起こらなかった。これで日本の製造業はさらに国際競争力を失い、同じ悪循環を繰り返している。

 これが製造業の悪循環の定説となっている見方だ。この悪循環にはまり込んでいる限り、企業努力だけでは賃金を引き上げることは不可能だ。労働者は企業にしがみついているだけではなく、幅広い分野で仕事を得られるように技能を訓練すべきだというのが、この定説の結論になる。

●大きな違和感
 筆者はこの定説を見ると、大きな違和感を感じざるを得ない。この定説になっている製造業の悪循環からは排除されている重要なファクターがある。それは企業の利益である。
 実際のデータを見ると、日本の製造業は国際競争力を失い、それとともに売り上げ(稼ぎ)が減少しているのは確かだが、大企業の経常利益は上昇しているのだ。
 2004年には50兆円に届かなかった経常利益が、2019年には80兆円を突破している。その後、コロナ禍による減少はあったものの、2020年でも63兆円近くある。
 一方、賃金はこの間も30年前と比べて変っていない。

●増え続ける内部留保金と役員報酬、非正規雇用
 増え続けているのは大企業の利益だけではない。大企業の内部留保金も一緒に増大している。その多くは製造業分野の大企業だ。ちなみに内部留保金とは、企業が生み出した利益から税金や配当、役員報酬などの社外流出分を差し引いた金で、社内に蓄積されたものを指す。 社内留保ともいう。
 総資産に対する内部留保の比率は、財務の健全性を示す指標としても使われるが、基本的にこの金は生産的投資もされずにただ蓄えられている金だ。緊急時のための準備としては必要だが、これが一定の割合を越えると、投資されない死に金としてみなされる。
 この内部留保金は労働者派遣法が改正された2003年以来増え続け、いまでは500兆円に迫る額になっている。ちなみに10年前の2012年には、300兆円を少し越える程度であった。かなり急速な伸びである。
 それと同時に増えているのが、大企業の役員報酬である。年間1億円を越える役員報酬を支給している企業が2010年には166社、298人であったが、2018年には240社、538人に増えている。
 これらの増大とともに増えているのは、非正規雇用である。1985年には全勤労者人口の17%程度であった非正規雇用は、やはり2020年には40%に迫る勢いである。この増大の波はこれからも続くと考えた方がよいだろう。

●実際の悪循環
 さて、こうした結果からなにが見えて来るだろうか?
 それは、大手主要メディアが定説として取り上げる悪循環ではない。本当の悪循環とは次のようなものになるはずだ。

 イノベーションと開発投資の不在
   ↓
 国際競争力の低下
   ↓
 売り上げの減少
   ↓
 賃金を低く抑える
 中小企業に値下げを強要
   ↓
 経常利益の確保
   ↓
 内部留保金として蓄積
 役員報酬の増額

 つまり、イノベーションと開発投資がないため国際競争力が低下し、売り上げが減少した。しかし大企業は賃金を低く押さえ、さらに取引のある中小企業に価格を下げることを要請して売り上げの減少分を転化し、経常利益は確保したということだ。
 そしてそのように出した利益の大半は内部留保金にして、積極的な投資を控える。すると、イノベーションの投資が行われないので国際競争力はさらに低下する。一方、さらなる賃下げと中小企業への値下げ強要で経常利益は膨らみ、それに対応して内部留保金も増えるという悪循環だ。また、増大した利益で大企業の役員報酬は増えるが、賃金は低下したままだ。
 もちろん、将来の設備投資や開発投資のために一時的に備蓄された健全な内部留保金もある。こうした金は一定額に達すると投資に使われる。しかし、租税回避地に金融投資をしたり、自社株買い、また現金の預金として蓄えられる不健全な内部留保金もある。日本の場合、不健全な内部留保金の総資産に占める割合は、諸外国の平均6%に対し、2倍の12%だ。生産的な投資をしていないのだ。

 いま多くの資本主義の国々には問題はある。だが少なくともアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、韓国、台湾のように毎年賃金の伸びが確実に見られる国々では、賃下げと中小企業への値下げ強要で内部留保金を一方的に蓄積し、リスクのある投資はしないという構造は見られない。
 多くの先進国では、もちろん大規模なリストラなどもあるが、企業の利益の相当分は再投資される。人材や新しいテクノロジーの開発投資も積極的に行われ、それが国際競争力のある製品を生むと同時に、多くの新しい雇用を作り出す。このような投資の活性化によって、労働力の需要は大きくなり、賃金が上昇する。

●既得権益固定化の構造、どうすればよいのか?
 このような内部留保金の異常蓄積の日本独特の構造を見ると、これはまさに既得権益を固定化する構造であることが分かる。簡単に言うと、リスクのある投資を回避したために起こった売り上げの減少を、賃金の抑制と中小企業への値下げ要請で対応し、逆に内部留保金と役員報酬を増大させているのだ。

 では、これを変えるためにはどうすればよいのだろうか? 実は解決策はさほど難しくはない。次の3点を徹底すればよい。

1)内部留保金への課税制度(一定割合以上の内部留保金には極端な課税をかける)

2)政府が手厚いセイフティーネットを提供し、企業が自由に解雇できるようにする(数年単位の失業保険と技能訓練制度)

3)高額な役員報酬の制限(売り上げの変動と連動させる)

 この3点だ。すでに1)は韓国や台湾で実施されている。そして2)だが、すでにドイツ、フランス、オランダ、そして北欧諸国などの欧州諸国で実施され、3年から4年程度の長期の失業給付と職業訓練を政府がセットで提供している。このような制度の組み合わせがあれば、労働者もひとつの企業にしがみつくことなく自由に転職できるだろうし、また大企業も積極的に投資をせざるを得ない状況になる。
 だが、これを日本で導入するのは極めて困難だと考えられている。
 この悪循環の出発点になったのは、経団連の要請に基づき、小泉政権の竹中平蔵の主導で導入された派遣労働者法の改正だった。これで、全製造業で派遣労働が解禁され、それとともに非正規労働者が急速に増大し、賃金は下落した。言って見ればこうした悪循環の構造は、経団連に連なる日本の大企業が既得権益を維持し、固定化する動きが必然的に作り出したものである。
 そして、経団連と大企業を最大の支持母体にしているのは、現在の自民党である。いま自民党は旧統一原理協会との闇の結び付きで批判の対象になっているが、非難されるべきは、むしろ日本の大企業の既得権益との結び付きかもしれない。そのような与党が、自らの支持母体の既得権を犯すような政策を実施できるとは到底思えない。もちろん、野党であれば実施できるというものでもないだろうが。

●慢性的な停滞から回復できない日本、個人がカギ
 このような状況を見ると、どこかの時点で国民が本格的に怒り、アメリカのトランプを大統領に押し上げたくらいのエネルギーの爆発がない限り、変わらないだろう。このままだと、日本は朽ち果てるだけかもしれない。では我々はどうすればよいのだろうか?
 この答えもはっきりしているように思う。国を当てにせず、組織に依存することを止め、個に生きることではないだろうか? そして仲間とネットワークを組み、起業も含めて生活の糧を自ら得る方法を見つけることである。個人には我々が知る以上に大きな力が内在しているように思う。それをとことん引き出しながら、環境の変化に臨機応変に適応しながら生きることだろう。

 次回の記事に詳しく書くが、早ければ11月から来年の1月にも台湾有事が起こる可能性はがある。この期間に起こらなくても、数年のうちには起こるだろう。すると食糧危機のようなことも起こるだろう。このような既得権の固定化というはっきりした原因の悪循環を断ち切れないいまの日本政府が、台湾有事という未曾有の危機に対処できるとは筆者には到底思えない。
 また、これからウクライナ戦争は、NATOとの全面戦争に本当になってしまうかもしれない。いまパイプラインのノードストリームとノードストリーム2で爆発によるガス漏れが発生しているが、これは意図的な爆破であろう。いずれ記事にする予定だが、これは全面戦争の前兆のひとつかもしれない。予想を越えた出来事が続き、あっと言う間に日本が紛争に巻き込まれることだってある。そのような状況に、このようないまの日本政府が対応できるとはやはり思えないのだ。組織に依存するのではなく、やはり個人が意識を強く持ち、対処できる力を付けることが重要だ。

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Profile:高島 康司(たかしま やすし)
高島 康司(たかしま やすし)

社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/

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