ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
7月20日月曜日、イエメンのフーシ派のヤヒヤ・サリー軍報道官がビデオ声明を出し、サウジアラビアに対する全面的な海上封鎖を宣言した。同派メディア局のナスルッディーン・アーメル副局長はX上で、「バブ・エル・マンデブ海峡を閉鎖する」と明言している。理由は、サウジによる12年間の港湾・空港封鎖と、サナア空港への攻撃への報復である。サリーの言葉はこうだ。「包囲には包囲を、目には目を」。
2月28日の米・イスラエルによるイラン空爆以来、ホルムズ海峡の商業航行は事実上停止している。米中央軍は艦艇を沈め、海峡を「制圧」したはずだった。だが機雷と小型艇と対艦ミサイルの脅威だけで、タンカーは通れなくなった。そこへ今度は、紅海の南の出口が閉じられようとしている。
筆者がこのニュースに背筋が寒くなったのは、単に「もう一つ海峡が閉じた」からではない。この二つの海峡は、独立した二つのリスクではないからだ。両者は、ひとつの罠の上顎と下顎である。
●サウジの「命綱」が人質になった
なぜそう言えるのか。サウジアラビアの原油輸出ルートを見ればわかる。
ホルムズ海峡が閉じた後、サウジは輸出の重心を紅海側の積出港ヤンブーへ移した。東西パイプライン(ペトロライン)で東部油田からヤンブーまで原油を運び、紅海からバブ・エル・マンデブ海峡を抜けてアジアへ送る。これが「ホルムズが使えないときの迂回路」であり、リヤドにとって唯一の逃げ道だった。いまやサウジ原油の7割超がこのルートを通る。
つまりバブ・エル・マンデブ海峡の封鎖とは、単に紅海航路が使えなくなることではない。ホルムズ封鎖の代替ルートそのものを断つということなのだ。上顎と下顎、と書いた意味はここにある。
そして数字はすでに動いている。ブルームバーグの追跡データによれば、バブ・エル・マンデブを通過するサウジ原油の積み出しは、6月29日のピーク時の日量950万バレルから、7月13日の週には610万バレルへ、わずか2週間で36%も減少した。西岸の積出港からの出荷は日量423万バレルから279万バレルへ、アジア向けフローは530万バレルから332万バレルへ落ちた。まだ「宣言」の段階で、これである。封鎖が実行に移されればどうなるか。
チャタム・ハウスのアナリストはこう述べている。ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡の同時封鎖は「世界の石油・ガス供給の4分の1を危険にさらす」と。
●数字で見る「二重封鎖」の規模
冷静に規模を確認しておこう。
バブ・エル・マンデブ海峡は、最狭部でわずか29キロ。2024年には年間約41億バレルの原油・石油製品が通過した。世界の石油供給のおよそ5%にあたる。今年6月時点の通過量は日量740万バレル、世界産出の7%である。原油だけではない。世界の海上貿易の12〜15%、金額にして年間1兆ドル超がこの海峡を通り、世界のコンテナ荷動きの3割がここを抜ける。
前回のフーシ派による紅海攻撃キャンペーンのとき、この海峡を通る石油輸送は2023年の日量930万バレルから2024年には410万バレルへと半減以下に落ち込んだ。あのときはホルムズ海峡が開いていた。今回は開いていない。
●原油価格はどこまで上がるのか
では本題である。バブ・エル・マンデブが実際に閉鎖された場合、原油価格はどこまで上がるのか。三つのシナリオで考えたい。
・第一シナリオ:断続的な嫌がらせ(ブレント95〜115ドル)
現状の延長線上である。フーシ派が全船舶を無差別に攻撃するのではなく、サウジ関連船と「敵対国」船籍を選別して脅す。すると何が起きるか。物理的な供給途絶より先に、戦争リスク保険料が跳ね上がる。船主は自主的に喜望峰回りを選び、供給は「途絶」ではなく「遅延」する。
7月20日時点のブレント原油は1バレル88ドル前後。米中央軍の海上封鎖再開のニュースだけで9%超跳ねた市場である。この局面なら95〜115ドル。日本の店頭ガソリンは1リットル180円台後半から190円台に戻るだろう。
・第二シナリオ:実効封鎖(ブレント140〜160ドル)
フーシ派が本気で対艦ミサイルと自爆ドローンを使い、実際に数隻が沈められる段階だ。すでに7月6日にMVマジック・シーズが、7月7日から9日にかけてMVエターニティCが沈められ、死者と人質が出ている。これが常態化すれば、保険引受は事実上停止する。
このとき決定的なのは、サウジのヤンブー・ルートが死ぬことである。ホルムズが閉じ、紅海も閉じれば、世界最大の原油輸出国は輸出手段を失う。日量600万バレル規模の供給が市場から消える。1973年の第一次オイルショックで失われた供給が日量約400万バレル、1979年のイラン革命が同約400万バレルだったことを思い出してほしい。規模で言えば、その1.5倍である。
ブレントは140〜160ドル。ここで各国は戦略備蓄の放出に走るが、米国の戦略石油備蓄は開戦前の約4億1500万バレルから3億3700万バレルまで削られている。備蓄は時間を買うが、供給は生まない。
・第三シナリオ:完全同時封鎖(ブレント200ドル超)
フーシ派政治局のムハンマド・アル・ファラーは7月13日、こう述べた。「状況がさらに悪化すれば、バブ・エル・マンデブ海峡とホルムズ海峡は作戦上の同盟によって閉鎖される。原油価格は1バレル200ドルまで急騰し、恐るべきショックとなるだろう」。
「200ドル」は威嚇のための誇張だろうか。筆者はそうは思わない。理由は三つある。
第一に、原油需要の短期価格弾力性は極めて低い。価格が倍になっても、人はすぐには通勤をやめず、工場は止まらない。したがって数%の供給欠落が、数十%どころか数倍の価格上昇を生む。1979年、供給欠落はわずか4%だったが、原油価格は2.5倍になった。
第二に、余剰生産能力の問題である。世界の余剰能力の大半はサウジとUAEにある。だが両国の余剰能力は、輸出ルートが確保されて初めて意味を持つ。積み出せない原油は、地下にあるのと変わらない。二重封鎖とは、世界のショックの緩衝装置そのものを無効化する行為なのだ。
第三に、金融による投機である。すでに原油は投機商品である。二重封鎖が現実になれば、資金は一斉に商品市場に流れ込む。ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、紛争激化のシナリオで150ドル超を挙げた。複数の機関のシナリオ分析も、両海峡同時封鎖でブレント150〜200ドルのレンジを示す。史上、比較対象のない供給ショックである。
●イラン戦争は「第三の領域」に入った
海峡の問題と並行して、戦争そのものの局面も変わった。
トランプ大統領が6月の覚書を「終わった」と宣言して以降、米中央軍はイランへの空爆を7月20日時点で10夜連続で実施している。ホルモズガーン州では、沿岸都市を結ぶ六つの橋が攻撃され、少なくとも8人が死亡、20人が負傷した。橋である。軍事目標ではなく、生活基盤への攻撃に踏み込んだ。
そして7月20日、米軍は建設中のダルホビン原子力発電所を攻撃した。イランのウィーン代表部はIAEAと国連安保理に非難決議を要求している。稼働前の民生用原子炉であっても、原子力施設への攻撃は国際人道法上の一線を越える。
イラン革命防衛隊(IRGC)はこれに報復した。ファルス通信によれば、IRGCは複数の巡航ミサイルでバーレーンにあるアマゾンの中枢データ拠点を攻撃し、「破壊した」と発表した。CNBCとユーロニュースがこの発表を報じている。ただし、これはあくまでIRGC側の主張であり、アマゾンによる被害確認は本稿執筆時点では出ていない。ここは慎重に押さえておきたい。
だが、主張の真偽以上に重要なのは、宣言された「標的リスト」の方である。IRGCは4月の段階で、アップル、グーグル、メタ、マイクロソフト、エヌビディアを含む米テック18社を、「イランでの殺害一件ごとに」報復対象とすると警告していた。さらにアブダビの3兆円規模のOpenAI「スターゲート」データセンターに対しては、「完全かつ徹底的な殲滅」という言葉が使われた。
これが何を意味するか。データセンターが戦略目標になったのである。
これまで戦争の標的は、油田、発電所、港湾、指揮系統だった。そこにクラウドが加わった。湾岸諸国は、脱石油の切り札としてAIとデータセンターに国運を賭けてきた。UAEもサウジもバーレーンも、米テック企業の巨大投資を誘致してきた。イランはいま、その全部を人質に取ると宣言している。銀行決済も、物流も、政府システムも、そのクラウドの上に乗っている。ミサイル一発で国家の神経系が止まりうる時代に入ったのだ。
ブラジルの著名なジャーナリスト、ペペ・エスコバルは、この一連の応酬を「エスカレーションの梯子」と呼び、その梯子にはついに「最終段」が現れたと書いている。彼の見立てでは、イランはすでに核をめぐる最後通牒の領域に足を踏み入れている。エスコバルには反米的なバイアスがあり、割り引いて読む必要がある。だが、彼が2月末以来の展開をほぼ言い当ててきたことも事実である。
●日本に何が起きるか
さて、日本である。日本は世界で最も脆弱な国の一つだ。
まず数字を確認しよう。日本の原油輸入の中東依存度は93.5%。そのうち約9割がホルムズ海峡を通る。LNGは調達先の多角化が進んでおり、ホルムズ海峡依存度は6.3%にとどまる。石油備蓄は約8カ月分、電力・ガス会社のLNG在庫は400万トン弱で、ホルムズ海峡経由輸入量の約1年分にあたる。
つまり、日本にとってホルムズ海峡は生命線であり、そこはすでに閉じている。この4カ月半、日本を支えてきたのは備蓄と、そしてサウジの紅海迂回ルートだった。バブ・エル・マンデブの封鎖は、その最後の迂回路を断つ。日本にとってこの海峡は、地図の上では遠いが、経済の上では首筋にあるのだ。
すでに3月、レギュラーガソリンの店頭価格は3月2日の158.5円から、16日には190.8円へ跳ね上がった。政府が補助金を積み増して7月15日時点で169.9円に押し戻しているが、これは価格が下がったのではない。国民の税金で価格差を埋めているだけである。7月16日には補助単価が1リットル7.50円へ拡大された。第二シナリオが現実になれば、補助金は財政的に維持できない水準に達する。
●物流には、もう迂回路がない
エネルギー以上に見落とされているのが物流だ。
ホルムズと紅海が同時に使えなくなった結果、コンテナ船は喜望峰経由という単一ルートへ集中せざるを得なくなった。ペルシャ湾内には170隻、合計45万TEU(世界船腹の1.4%)が足止めされている。日本〜欧州航路の所要日数は、通常の25〜30日から35〜44日へ延びた。燃料費は30〜50%増、運賃はTEUあたり1000〜2000ドルの上乗せ。CMA CGMは40フィートコンテナに3000ドルの緊急紛争サーチャージを導入した。海上保険料は戦前比で最大4倍を超えている。
「迂回路がない」という事実の重さを、どうか噛みしめてほしい。1970年代のオイルショックは価格の危機だった。今回は、価格に加えて「物理的に運べない」という危機である。
●GDPがマイナスに沈む
大和総研の試算はこうだ。WTIが120ドルなら2026年度の実質GDP成長率を0.5%ポイント押し下げる。だがWTIが150ドルとなり、ホルムズ周辺からの原油・LNG輸入が10%減少した場合、押し下げ幅は2.0%ポイントに達し、「2026年度の日本経済はマイナス成長に転じる」。
しかも、影響は直接的なエネルギーコストだけではない。中国、韓国、台湾といった日本の主要輸出先も同じ海峡に依存している。彼らの生産が落ちれば、日本の輸出も落ちる。二重の打撃である。
●そして「円安との掛け算」が効く
最も恐ろしいのは、この原油高が円安と同時に来ることだ。
7月22日、ドル円は163円前半まで円安が進んだ。日米金利差が主因である。サナエノミクスは短期的には円安要因として作用する。そこへ原油高が重なるとどうなるか。エネルギー輸入額が膨らみ、貿易赤字が拡大し、それがさらに円を売らせる。円安が輸入インフレを呼び、輸入インフレが円安を呼ぶ。この自己増幅のループに入ることが、日本にとって最悪のシナリオである。
市場はすでに反応し始めている。7月17日、日経平均は3919円安、率にして5.87%の急落を演じた。
ドル建てで原油が150ドルになり、為替が1ドル170円になったとしよう。円建ての原油調達コストは、開戦前の水準から実に2.5倍になる。日本の家計と中小企業は、この二重の値札を突きつけられることになる。
●筆者の見立て
ここまでの材料を踏まえ、筆者の見方を三点に整理する。
第一に、バブ・エル・マンデブの「完全封鎖」は、当面は実現しないと見る。フーシ派の宣言はサウジ船籍に焦点を絞っており、中国船やロシア船まで無差別に沈めれば、彼ら自身が後ろ盾を失う。だが、完全封鎖など必要ないのだ。前回のキャンペーンが証明したとおり、数隻沈めるだけで通航量は半減する。「封鎖」は物理の問題ではなく、保険料と船主の恐怖の問題なのである。すでに36%減という数字が出ている以上、実効的な封鎖はもう始まっていると見るべきだ。
第二に、最も危険な引き金は海峡ではなく、原子力施設とデータセンターだと考える。ダルホビンへの攻撃は、イランに「核をめぐる報復」の政治的正当性を与えてしまった。エスコバルが言う「最終段階」とは、そういうことである。一方、湾岸のデータセンターが本当に破壊されれば、金融決済が止まる。ミサイルが石油ではなく決済を止める戦争が、いま始まりつつある。
第三に、日本政府の対応は決定的に遅い。補助金による価格の糊塗は、財政で時間を買っているにすぎず、供給問題を一切解決していない。8カ月分の備蓄も、封鎖が半年続けば消える。いま必要なのは、備蓄の取り崩し計画、代替調達先の確保、そして国民への正直な説明である。だが政府は、いまだに「注視する」としか言っていない。
注目点は三つ。バブ・エル・マンデブを通過するサウジ原油の日量が400万バレルを割るかどうか。戦争リスク保険の引受が停止されるかどうか。そして、湾岸のデータセンターへの攻撃が実証されるかどうか。この三つのいずれかが起きた日が、次の相場の転換点になる。
読者諸氏には、現実的な備えをお願いしたい。ガソリンと灯油の在庫、そして数カ月分の生活必需品である。そしてもう一つ。円資産だけに偏っていないか、この機会にぜひ点検していただきたい。
原油高と円安の掛け算は、静かに、しかし確実に、我々の生活水準を削り取っていく。「ペトロダラーの終わり」と、今回の「二つの海峡の封鎖」は、同じひとつの出来事の表と裏である。50年続いた秩序が、いま我々の目の前で終わろうとしている。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』
(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』
(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
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