トップが語る、「いま、伝えたいこと」
私のところへは1年に6回、『学士会会報』が送られてきます。私が学士会の会員だからです。最近、この会報とともに『U7』という小冊子が来ます。
この小冊子にはインタビューページがあり、私はそれを楽しみにしています。2006年11月発刊号には、九大農学部卒の古野隆雄さんと京大工学部卒の高橋智隆さんがインタビューを受けて記事になっています。
先週、九州へ行く途時、この小冊子を読んで、古野さんの生きざまに感動し、びっくりしたのです。
古野さんは、私と同様、農家の子弟として生まれ、大学は農学部へ進んだ方のようです。大学での専攻も私と同じように農業経済学のようですが、現在は古野農場の代表者で名刺の肩書きは「百姓」。ホームページは、http://www.aigamokazoku.com/です(なお、『U7』は、北大、東北大、東大、名大、京大、阪大、九大の現役学生や全国300の高校にも配布されているということなので、入手できる方はぜひお読みください)。
彼は2000年にスイスのシュワブ財団より世界でも「最も傑出した社会企業家」の一人にえらばれたということですが、「なにゆえか」が6ページほどの記事を見て、よく分りました。
事実、彼が有機農法に取り組みはじめた70年代後半には、日本には「有機農法」はなかったのです。彼は「農薬や化学肥料を多用する農業は自分のためにもよくないし、それを食べる人のためにもよくないと単純に考え」世の中のためを考え、有機農業に取り組みはじめたようです。
『U7』のインタビューの前の紹介文には、つぎのように書かれています。その一部を紹介します。
有機肥料と無農薬での収穫は安定してきたものの、最後まで残った問題は草取りだった。手で丹念に雑草を取り害虫をつぶしてはきたが、それはあまりに重労働。「このままでは続かない」と考え、さまざまな策を講じたものの根本的な解決にはならない。雑草取りに苦慮する古野さんを見た友人が、富山で合鴨に雑草を食べさせていると情報をもたらしてくれたのは手で草を取り10年が過ぎたころだった。古野さんはその農家に連絡を取り、さっそく自分の水田に合鴨を放った。効果は想像以上。苦労続きの有機農業が、合鴨の愛らしさもあり楽しい農業に一変した・・・かに思えた矢先、水田をのびのびと泳ぎ成鳥に育った合鴨が野犬に襲われ全滅してしまった。敵が雑草から野犬に変わった。網を張るなどの対策はいずれも野生の力には及ばず、まるで野犬のエサを育てるために合鴨を田に放っているような状態が続いた。三年が経ち、万策が尽きた思いが濃厚になったころ、山中の畑でイノシシ避けのために張られた電気柵を目にした。同じような資材を取り寄せ、水田用に改良を加え設置したところ、野犬の襲来がぱたりと止んだ。
水田の合鴨は雑草や害虫を食べ、糞は有機肥料となり、泳ぎ回ることが自然な代掻きになる(その結果、水が濁り水中への日光を遮るため雑草の萌芽も阻害)。古野さんはこれらの効果を合鴨を入れない「対照区」を水田に設け比較したり、合鴨を解剖して胃の内容物を調べるなどして実証した。「経験」を「技術」として確立するためだ。
「有機農業の作物は安全でおいしい。でも手間がかかるから値段が高い。これではいけない。農薬を使った場合と同じ手間で同じ収穫量を得られる技術にすれば、誰でも楽しく有機農業ができる」
稲を刈り取ったあとの合鴨は肉としてさばかれ、これも出荷される。同じ手間で稲作と畜産を同時に行う。これを古野さんは「合鴨水稲同時作」と命名し、その恩恵を「一鳥万宝」と名付けた。そしてその技術は国内はもとより、韓国、べトナム、中国、台湾、フィリピンなど海外にも伝えられ、中国ではすでに、九州の稲の作付面積に匹敵する20万へクタールまで広がっている(2004年)。
古野さんはその後、田にドジョウも放して水産業を加え、福岡県内の造り酒屋で合鴨米から酒も作っている。底知れない田んぼの生産力がもたらす宝物(古野さんいわく「田からもの」)は、いま増えている(転載ここまで)。
私も13才から十余年、実際に農業にたずさわり、手作業の田んぼの草とりにさんざん苦労してきました。余りにも重労働なのです。
戦後「2−4−D」というアメリカ製の除草剤が入ってきた時は、本当にうれしかったのですが、これがカラダに悪く、17−18才の時にカラダを病みました。
それだけに古野さんの努力ぶりと、その成果にびっくりし、感動したのです。
彼の農場は福岡県桂川町にあるとのこと。そのうち訪問して直接田んぼを見せてもらい話しをききたいと思っていますが、「成果を上げる」とはどういうことか。
儲からない農業に取り組み、雑草と10年来戦い野犬と3年、戦ったという古野さんから、「天才」とはどういう人かがよく分った『U7』の2006年11月発刊号の記事でした。
=以上=
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