トップが語る、「いま、伝えたいこと」
渡部昇一さんとの共著『国家の経営 企業の経営』(祥伝社刊)で、「私は小泉純一郎元首相を首相として評価しない」と言ったら、多くの人から抗議がきました。そこで私がなぜそう言ったのか、その理由を、ここで少しだけ書いておきます。誤解がありそうですから。
『ぺるそーな』誌の今月号(08年3月号)に富岡幸一郎さんが「人間の顔をした資本主義へ」という小題で、その辺のことを上手にまとめて書いています。まずそれを紹介しましょう。
人間の顔をした資本主義へ
日本もアメリカ型のカジノ・キャピタリズム、
マネーゲームの世界に突入している。
マモンすなわち金が目的となった企業活動とは、
真なる「富」の形成にはならない。
富岡幸一郎(文芸評論家)
国柄なき市場原理主義
アメリカ型の金融資本主義が世界を覆いつくそうとしている。別のいい方をすれば、カジノ化したキャピタリズムであり、マモン(貨幣)のグローバリズムの拡大である。「外国株対価の合併」(三角合併)は、M&Aを盛んにして産業を発展させる。ホスタイルな(敵対的)買収ではない合併によって、業界の再編成がなされ、より効率的な産業システムがつくられる。外国企業にくらべて時価総額が低い日本の会社は、それを上げることで世界でさらに経済活動を展開できるようになる。つまり国際的な競争力を日本企業が持つことになる。国境と業界をこえたM&Aが起こっているなかで、旧態依然の「日本的経営」などに固執すれば、日本の企業はますます弱体化するだろう……。
構造改革の大合唱のなかで、三角合併の解禁によって「外資による日本企業の乗っ取り」が加速し、国内の優良不動産の所有権が海外に流出し、日本はアメリカの植民地になるなどと反発することは、ほとんどアナクロニズムのように受けとめられている。
もちろん、だからこそ一方で日本企業の防衛論がいわれ、米国による「日本改造」に警鐘を鳴らす論者もある。
《M&Aには様々な金融的、法律的、会計的手順が不可欠である。そこには莫大なフィー・ビジネス(手数料収益)の商機が転がっている。M&Aこそまさに、投資銀行、仲介業者、法律事務所、会計事務所、コンサルタント会社など、ニューヨークのウォール・ストリート・コミュニティにとっては汲(く)めども尽きぬ錬金術の源泉なのだ。優良企業がM&A防衛策もないまま割安で放置されている今の日本は、まさに垂涎(すいぜん)の的として、おびただしい数の青い目に凝視されている。こうした客観的情勢を百も承知で、日本の関係者も専門家も、誰ひとり一般の国民に説き明かそうとしない》
(関岡英之『奪われる日本』講談社現代新書2006年8月刊)
M&Aが世界の経済の潮流であるかのように喧伝するばかりの「日本の関係者も専門家も」いわないことのひとつは、アメリカとヨーロッパに歴然たる相違があるということだろう。ヨーロッパでは三角合併は解禁していないし、「会社は株主のもの」といった発想のアメリカにたいして、「会社は従業員のもの」といった考え方が根強くある。フランスの大統領にグローバリズムを肯定するサルコジ氏が就任したが、欧州全体の発想がそのことでアメリカ型キャピタリズム礼賛に急転回するとは思われない。「人間の顔をした資本主義」の設計が、ヨーロッパの一層の課題となるのはあきらかであり、日本はその意味では「脱米入欧」のスタンスを一方でしっかりと保持すべきだろう。いや、当のアメリカにおいても、ITと金融というカジノ的な経済幻想のかげで、いわゆる物つくり、製造業の凋落が著しいので、カジノ・キャピタリズムの狂騒にたいする反省が生じているのが現状である(転載ここまで)。
この中で書かれている関岡さんの本は、実に分りやすく、当時、このホームページ上でも「ぜひ読むように」と何回か奨めたと思います(『いま知らせたいこと』(2005.9.9))。
小泉さんや竹中さんは、アメリカに言われて、そのとおりやっただけなんでしょうか。
国のトップとして、これは明らかに誤りだ……と私は思っています。
だから渡部さんと意見が対立してまで、「評価できない」と言ったのです。
日本人は、少しマクロにものごとを考えた方がよいと思います。
自分だけ、目先だけ、お金だけでは、世界中からバカにされるし、自らも大損を蒙(こうむ)るでしょう。
以上、ぜひ日本人として勉強しなおしてほしく、きょうはこのようなことを書きました。
また、長年の会社経営者としていいますと、やはり「従業員が会社にとっては、もっとも大事だ」……と私は思っています。
なお、近著では、ベンジャミン・フルフォード著『解体されるニッポン』(3月15日 青春出版刊)も、ぜひこれらの関連書としてお読みください。
=以上=
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