トップが語る、「いま、伝えたいこと」
今年75才になった私は「後期高齢者医療制度」に、やはり関心があります。
病院や医院の経営にも、十数年タッチしましたし、去年から体調を崩し、私自身病院や医院をよく利用しました。いまも利用しています。
この制度については、いまのところ反対が多いのですが、08年7月3日号の「週刊新潮」の櫻井よしこさんの記事を読み、ここに書かれていることは、多くの日本人に知ってもらわねばならないことだ…と思いました。
その中で彼女は次のように第3者の言を交え、ポイントを指摘しています。私なりにえらんで紹介します。
袋叩きの後期高齢者医療制度が突きつけるのは、誰がコストを払うのかという問いだ。医療費総額はいま、一般会計予算82兆円余りのなかで30兆円を超えた。内、65歳以上の高齢者の医療費は約12兆円、36%強を占める。
高齢者が窓口で負担する医療費は原則1割で、残りの9割の支払いには、現役世代の保険料や税金に加えて国債発行で賄った借金も充てられている。
長く厚労省の政策を見詰めてきたハンディネットワーク インターナショナル社代表の春山満氏は、日本の医療制度の構造的問題が認識されたのは、30年も前のことだったと言う。
「昭和50年代半ばに、優秀な若手官僚たちが行ったシミュレーションは、我が国の人口が減少し、平均寿命が刮目(かつもく)するほどに伸び、寝たきりの要介護老人が増えていくことを示していました。放置すれば、遠くない将来、医療費は30兆円に達し、介護や療養も含めた老人医療費が約半分の15兆円に達するという、驚くべき結果が予測されたのです」
当時の医療費総額は13兆円前後だった。以後、医療費は抑制が叫ばれながらも増え続け、1999年には、懸念された30兆円を突破、いまも上昇中だ。
老人医療費の総額は11兆円を超え、シミシュレーション結果は概ね正しかったことを示している。
(中略)
05年のOECDの統計では、日本人の病院受診回数は、年間13.8回である。一方EU諸国の受診回数はドイツで日本の約半分の7回、フランスが6.6回、英国は5.1回である。通院頻度で日本は、OECD加盟の先進30ヵ国のうちのトップなのだ。
平均入院日数も、日本は35.7日で断トツに長い。フランスが13.4日、ドイツが10.2日と、日本の3分の1程度である。英国は、7.0日間で、米国は、平均6.5日。
日本の統計には療養型病床も含まれており、単純比較は難しいが、それでも、日本人は頻繁に通院し、入院日数も飛び抜けて長いと言える。こうした点に加え、受け入れ側である日本の病院にも、国際比較で際立つ特異な点がある。
(中略)
人ロ1000人当たりのベッド数の比較である。日本の14.1床に較べて、ドイツ8.5、フランス7.5、英国3.9。米国はたった3.2床にとどまる。前述のように日本の病院が、長年、高齢者用の福祉施設のように利用されてきた事情もあり、統計だけで一概に比較出来ないのは確かだ。だが、医療と福祉が渾然一体となり、医療費を押し上げてきたのは事実である。
医療機器の整備でも、日本は群を抜く。米国や英国の病院に較べて、CTスキャナーやMRIなどの高額精密機器の人口当たりの設置台数は飛び抜けて多い。OECDの統計では日本は世界最多のCTスキャナーとMRIを保有する。人口100万人当たりのCTスキャナー数は92台、米国の約3倍、英国の約12倍だ。
他国と比べて2倍も3倍も通院し、入院し、高価なCTスキャナーなどで検査を繰り返す“贅沢な医療”を享受すれば、医寮費が嵩(かさ)むのも当然だ。
(中略)
老人医療費の増加原因の一つとされるのが終末期医療での集中的な治療である。一人平均112万円が死亡直前の1ヵ月に費やされている。新渡戸文化学園・短大学長で、医学博士の中原英臣民が説明する。
「1950年代には80%の方が自宅で亡くなっていました。しかし、現在では数字が逆転して、80%余りの方が病院で死を迎えます。理由はいろいろですが、死亡から逆算して24時間以内に患者を診断していない医者は、死亡診断書を書けない、つまり不審死とされかねない法律があり、それも病院死を増やしている一因でしょう。結果論ですが、臨終間際の病院で、患者はさまざまな治療を施されます。点滴の管を何本も取り付けられたスパゲッティー状態の患者さんが生まれ、病院はこうした局面でお金を稼ぐのです」
(中略)
延命治療の値段
亡くなる直前に救急車で運ばれてきたお年寄りに、病院は事実上、何でも出来、それが医療機関の収入源になっていると語るのは、静岡県立大学経営情報学部の小山秀夫学部長である。
「お年寄りも家族も、日本人の多くが、自分はどのように自分の一生を終えたいのか、一分でも長く生きたいのか、或る程度の治療のあとは自然の生命力に任せたいのか。こうしたことを決めていませんから、最終局面でさまざまなことが起きてきます。延命治療をすれば3日はもつ、手を打たなければすぐに亡くなるという状況で、どちらを選ぶのか、医師の判断に委ねられがちです」
そこで病院側は家族に立て続けに問わざるを得ない。
「点滴を打ちますか」
「酸素を入れますか」
「心電図を取りますか」
「血圧が下がっています。昇圧剤を打ちますか」
「人工呼吸器つけますか」
「心臓が止まりました。電気ショックをやりますか」
値段は、カウンターショック(電気ショック)が3万5000円、24時間の心電図モニターが1日1500円。人工呼吸器装着のために必要な気管内挿管措置は5000円、人工呼吸器は1日1万2000円。強心剤の点滴は1本7000円、心臓マッサージは2500円……。
かつては過剰医療が問題になったが、これら延命治療をフルに行えば、費用は驚くほどに増えていく。私たちはそうした費用のわずかな一部を支払うのみである。レセプトを請求しない限り、総額さえ知ることもない。
そして、人生の最終段階で、数日間の命を長らえるために、苦しい治療を受けることの是非さえ、冷静に考えずじまいになりがちだ(転載ここまで)。
この中で意見を言っている中原英臣さんや小山英夫さんは、私とも親しい人です。
この櫻井さんの文章を読み、私たちは何でも目先だけで、しかも自分中心にものごとを考えて「賛成だ」とか「反対だ」とか言っていますが、冷静に、マクロに判断して、物ごとに対処しなければならないな…とつくづく考えさせられました。
ぜひ読者にもその点、よろしくお願いいたします。
=以上=
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