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2008年10月6日
米政府の不良債権買い取り策について、金融の「超プロ」のKさんの意見

 つぎは、おなじみのKさんの意見です。10月3日の私の、このページでのレポートと併せてお読みください。私は、Kさんくらいのことを日本の政治家、金融当局者、そして金融機関の幹部は考えても当然のように思います。そこで、あえてここにKさんの最近の意見を紹介したいと思います。

 米政府は7000億ドル(約75兆円)の公的資金を活用した不良債権の買い取り策の策定に入っています。これについての問題点を見てみたいと思います。
 まず、第一に、これは銀行の本体勘定の債権についてだけということです。私企業であるヘッジファンドや、簿外のSIV(特定目的会社)などは対象外です。証券化商品の買い取りということですが、この中で、もっとも、棄損が激しい部分、いわゆるエクイティーと呼ばれる部分は、ヘッジファンドが保有していますが、これが、融資という名のもとに巨額の隠れ不良資産となって、眠っているのです。もともと、一番危ない部分はここに隠されているわけで、基本的にこの部分をあぶり出せなければ、実態はわかりません。また、連結すべきSIVなどは、今年夏、会計の連結化を先延ばしされました。こんなごまかしの状態で、いくら銀行本体の持つ不良債権を買い取っても、解決にはほど遠い、と言うしかありません。
 また、第二に、現在CDO(債務担保証券)は、ほとんど買い手がいない状態で、実質的に市場では無価値と算定されています。以前のレポートでお送りしたように、メリルが売却したCDOは、なんと額面の5%でした。米政府は入札方式を提案していますが、市場で買い手がいないということは、入札しても同じことですから、結局、ただに近い値段をつけられることになるわけです。これでは出せば、出すほど巨額の損失が明らかになっていくわけで、一気に各金融機関は債務超過状態が明らかになり、即座の資本投入が必要となってきます。日本のケースでは、1992年、宮沢内閣が当時の銀行に対して公的資金導入を目指しましたが、銀行側の猛反対にあって頓挫しました。当時の銀行経営陣は、責任を取らされるのを嫌ったのでした。これと同じで、問題になっている現在の欧米金融機関も好き好んで、不良債権を売りにいこうとは思わないでしょう。経営陣は、自分たちの退任や、責任を取らされるからです。よって、この政策実施のためには、強制的に銀行を追いこむ必要があります。その結果、ほとんどの銀行が債務超過であることがわかり、国有化に近い状態にならざるを得ないということになります。そこまで、踏みこめるのでしょうか?
 第三に、証券化商品の持つ性格です。日本が整理回収機構や、日銀で、買い取ったのは、不動産とか株式です。いわば流動性があり、理論価格に戻る性格のものでした。ところが、デリバティブで作られた証券化商品は違います。CDOなどは、いくつものローンを複雑に組み合わせて作ったものですが、値段算定となると、各々のローン価格の状態を算定する必要がありますし、サブプライムローンなど大量に含まれているわけで、調べるだけで膨大な時間がかかりますし、作った人間でもわからなくなっている状態です。そのうえこの金融の混乱状態で、作った人達も会社を去ってしまったりで、ほとんど算定不可能です。今考えればこんなものがよく売れたものですが、元々複雑すぎるインチキ商品みたいなもので、相対でだけ売買を成り立たせるべきしろものです。こんなものを国が買い取ってみても、当然、今までと同じく流動性がありませんし、償還時に価値が残っているのか疑問です。要するに日本でやった株や不動産の買い取りとはわけが違うのです。こんな買い取りに対して、日本政府にも協力要請がきているようですが、まさに捨て金となるのは目に見えています。
 第四に、CDS市場の問題があります。CDS市場は、デリバティブ市場最大で、現在日本円にして7000兆円の想定元本をもっています。保険と言えば、かっこがいいですが、要は取るか、取られるかのゼロサムゲームの<金融ばくち>とも言えます。ベアー・スターンズやAIGを救ったのも、このCDS市場の反乱から、金融破綻を起こさない為の措置でしたが、今回の買い取りには当然のことながらCDSは含まれません。
 このように、実際、不良債権の買い取りとアドバルーンをぶち上げたものの、単純な不動産ローンくらいであれば、可能かもしれませんが、他のデリバティブで作った証券化商品は、買い取るのは難題だらけで、効果のある対策は実現できるはずはありません。言うならば、これも単なるポーズと先延ばしでしょう。そうこうしているうちに、今や、CDS市場が怪しくなってきたのです。サブプライムローンから端を発した今回の金融危機ですが、ついに本丸に火が付き始めたのです。デリバティブ商品の設計や、価格評価を手掛けてきた、チャールズ・R・モリスは、その著書<何故、アメリカ経済は崩壊に向かうのか>で、現在の信用危機について、鋭く切り込んでいます。さすがにデリバティブを知り尽くした著者ならではと感じますが、彼は、この本の中で、CDS市場でデフォルトが起きれば、<CDSの買い手は、対象になっている巨額のポートフォリオで評価損を計上し、本来のリスクを反映した水準まで簿価を引き下げる必要に迫られるだろう。残った保証提供者は、担保を提供するように求められるのが避けられないので、信用市場から巨額の資金が引き揚げられ、デフォルトを起こしたファンドから少しでも現金を回収しようとする動きで、大量の訴訟が起こされるだろう。そしてどの程度の損失が発生するか、推定することすら、無意味だろう>と述べています。まさにサブプライムローンで騒いでいる今は、のどかなものなのです(「Kさんの意見」はここまで)。


 いかがでしょうか?
 金融についての知識はセミプロまで行かないくらいの私ですが、Kさんの話しは、よく分ります。それだから充分に考え、慎重に対処すべきであると思うのです。
 副島隆彦さんの『恐慌前夜』(9月15日、祥伝社刊)と併せてKさんの意見を知ってほしいのです。
 日本人としては、のんびりしてはいられない…と思います。
                                            =以上=

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