“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2019.9
先進国社会の病理

 日韓、米中、香港、米国とイラン、EUと英国、インドとパキスタン、世界各地で争いが絶えません。そして各々の国、日本国内も米国国内も韓国国内もどこの国の内部でも争いが先鋭化しています。一方世界の気象変動も激しくなっています。今年フランスでは45度を記録、欧州に限らず世界中が熱波に襲われました。北極、南極の氷は記録的な速度で溶け始めています。日本では年々台風が巨大化、自然災害が毎年のように発生しています。千葉ではまだ巨大台風の被害から完全復旧とはなっていません。世界中の人々の意識も世界中の気象も大荒れ模様です。国連ではスウェーデンの16歳の少女が気象変動に本気で対応しようとしない大人に対して怒りの声を上げていました。
 舩井幸雄先生は「全ては必要必然」と説いていましたが、現在世界で起こっていること、この混乱は何か一つの糸で繋がった動きのように思えてなりません。
 現在世界で起こっていることは、実は今生きている世界中の人々の意識や姿を鏡のように映し出しているのかもしれません。世界中の人々がイライラしているのです。格差の拡大、仕事や収入への不安、薄れる家族の絆、誰も彼も先行きが見えず、得体の知れない不安感を抱いているように思えます。

 政治学者のイアン・ブレマー氏はその著書『対立の世紀』(日本経済新聞出版社)のなかで格差の拡大の実態とそれを利用して対立を煽る世界中の政治手法の変化について取り上げています。テクノロジーの著しい発展が便利な世の中を作った反面、勝者と敗者を世界中で生み出してしまいました。仕事を失った人々は怒りの持って行きようがないようです。誰も「自分が悪い」とは思いたくありません。仕事がなくなったのも、自分たちがみじめな思いをするのも、自らの責任ではなく、悪いのは社会であり、システムであり、悪いのは政治であり、悪いのは移民であり、悪いのは外国人であると主張します。そしてそのような対立を政治家が必要以上に煽るわけです。

●巧みに対立感情を煽る各国トップの手法
 よくポピュリスト政治家と言われますが、現在の世界の政治状況をみても対立を煽るのが巧みな政治家たちが人気を得て権力を握る傾向が強いように思います。トランプ大統領はその典型ですが、トランプ大統領は人々の怒りに火をつけるわけです。人種間の対立や<米国第一主義>で国家間の対立を煽っています。こういった主張は一部の米国の人々には非常に心地が良いようです。人々は表面的には人格者を装い、「自分はトランプのような人は支持しない」とトランプ嫌いとみせていますが、いざ選挙となると、こっそりトランプ氏に票を入れるというわけです。選挙においてトランプ氏が異様に集票力があることはよく知られています。
 英国でもトランプ氏に似たタイプのジョンソン氏が首相となりました。<EUとの合意なき離脱>を何としても成し遂げると強く主張しているジョンソン首相は世間や議会から激しいパッシングを受けています。一見四面楚歌のようですが、反面ジョンソン首相には強力な支持者たちが存在しています。現にジョンソン氏が首相になってから、ジョンソン氏率いる保守党の支持率はうなぎ登りになっているのです。
 韓国の文在寅大統領は日米韓の軍事協定GSOMIAを破棄しました。米国の意向を無視した驚くべき決断と感じます。文大統領は国内では反日キャンペーンを行うことで、韓国の国民のナショナリズムを煽るわけです。それが支持率引き上げにつながるという構図です。韓国では日本製品の不買運動が激しくなって、日本への観光客は激減しています。「悪いのは日本」というフレーズは韓国国民にとって心地の良いもののようです。同じく日本では韓国パッシングが激しくなっています。かような対立を煽れば煽るほど日韓とも政治家の支持率は上がるというわけです。
 かように対立を必要以上に煽る傾向や、敵を作って人々の怒りに火をつける政治の手法は米国や英国や日本、韓国だけではありません。中国やイラン、ロシアなどは言うに及ばず、今や世界の政治シーンで一般化していることです。香港の人々は「われわれは香港人」と言って、自らのアイデンティティーを高め中国本土に対して敵意をむき出しにしています。サッカーの試合で中国国歌が流れるとブーイングが出る始末です。逆に中国本土の人たちは香港の今回のデモに激しく反発しています。

●シビアな現代の結婚の条件
 『上級国民/下級国民』(橘 玲著 小学館)という本がベストセラーになっています。ここでも面白い指摘がなされています。人々が分断化されているというのです、日本においても国内で格差が著しくなり<上級国民>と<下級国民>がはっきりしてきたというのです。この本では現実のデータで格差を露わにしていきます。男性の場合、上級国民は結婚できるが、下級国民は結婚さえできない、日本は現在、実質一夫多妻制になっているというのです。50歳まで一度も結婚したことのない生涯未婚率を調べてみると男性は23.4%に対して女性は14.1%とかなり差があります。しかしよくよく考えてみると、結婚するのは男と女ですから本来であれば男性の未婚率と女性の未婚率は同じでないとおかしいわけです。100人の男性、女性がいて、結婚した人が70人であれば結婚割合が70%で未婚割合は30%、と男女共同じ数字になるはずです。ところが男性の未婚率が女性の未婚率に比べて著しく高い、これはどういうことか? と言うと同じ男性が何度も結婚しているからです。離婚して結婚して離婚して結婚して、男性が繰り返すことで、男女の未婚率の差がついたというわけです。そしてこの本では男性が結婚できる条件について指摘しています。
 最も衝撃的な数字は男性の年収別にみる未婚率です。男性で年収100万円未満ですと未婚率が47%、200万円未満ですと43%、300万円未満ですと35%、という具合で男性の場合、年収によって未婚率が下がってきます。これが600万円未満となると16%と下がっていき、1000万円を超えたところでは4%にまで下がるのです。一般的に男性が結婚する場合、年収の多い人の方が結婚する確率は高い、ということは直感的にわかりますが、それでもその数字が年収100万円の47%と年収1000万円超の4%の開きには愕然とします。要するに男性で年収1000万円を超えた人の未婚率は4%ですから、逆に考えると96%、ほぼ全員が一度は結婚しているというわけです。これらの人は離婚してもまた結婚するのかもしれません。結果、女性の未婚率と男性の未婚率で差がつくわけです。
 昔は誰でも結婚するのが当たり前の時代がありました。日本では1970年代まで未婚率は男女とも10%以下だったのです。昔は親が決めた人と結婚するとか、結婚を決めるのも見合いが当たり前で、女性はある程度の歳になれば結婚するのが当然という社会の圧力や雰囲気があったわけです。さらに産業革命以前の大昔ですと、仕事自体が力仕事が多かったわけですし、戦争なども男が行くしかないですから、いわゆる生活の糧を得るのは男の役割が極めて大きかったわけです。その時代ですと女の人は生活するためにも、自立することが難しかったので結婚するしかなかったと思われます。女性が自立して仕事して十分生きられる時代になったのは歴史的にみれば、ごく最近の話です。ですから昔は女性は結婚するしか選択肢がなかったし、子供を産むということは女性の大きな仕事と考えられていて、人類史全般を振り返れば、ほとんどそうのような時代だったわけです。ところが昨今は仕事も力仕事が少なくなって、女性が十分に仕事を続けられる社会となりました。こうなれば女性も無理に結婚する必要もありませんし、ましてや好きでもない人と我慢して一緒にいる必要もないわけです。当然の帰結として女性は自らの人生を自ら決めるようになってきたわけです。
 そうなると困ったのは、男の方です。先の調査でみたように収入の多い男であれば女性にもてるかもしれませんが(それだけではないでしょうが)、収入の少ない男であれば女性が振り向いてくれないわけです。昔であればお見合いか何かで、特別才能もない収入の少ない男の人でも普通に結婚できたわけです。女性もお見合いの相手が好きでなかったにしても、結婚するのが当たり前という風習の中で自然に妥協しても結婚に向かったわけです。ところが女性が自分で自分の人生を決めるようになって状況は一変、もてる男の人は何度も結婚できるのに、もてない男の人は女性とめぐり合うことが極めて難しくなってしまった。
 ところが男が女を求めるということは、精神的にも肉体的にも当たり前のことですから、このような基本的な欲求が満たされないのは人間としてキツイ状況なわけです。現在LGBTといって、性的少数者の話題が花盛りで、映画やマスコミなどで大々的に取り上げられて、差別をやめようというムードになっています。それはそれとして、もっと大きなマジョリティーの問題は普通の男の人、かつては当然の流れとして結婚できて、男一人に対して女一人の割り当て的な「お見合いを介したほぼ全員結婚できる制度」という流れがあったのに、現在ではそのようなことがなくなってしまった。普通の男が普通に女の人を求めながら、全く女性に相手にされない、という厳しい現実。極めて普通の平凡な男の人が、人間として基本的な欲求が満たされずに苦しんでいるわけです。このようなことはオモシロクもない話なのでニュースにさえならない。ニュースになったり話題になるのはLGBTのような話ばかりという現実です。

 「大きな黒い犬」の問題という話があります。日本中で大量の野良犬がいて、保健所に保護されてきます。小さい犬や毛色が変わった犬は引き取り手が現れて可愛がられるのですが、普通の犬、大きな黒い犬は誰も引き取り手がでてこないで、最終的に殺処分になるというのです。この話と同じで「大きな黒い犬」のケースと同様に普通の男が普通に女性を欲しいと思っているのに、相手にもされず、社会もそのような問題は見向きもしないというわけです。こうして日本の多くの男たちが昔とは全然違って、自らの配偶者も恋人も得ることが一生できない、という厳しい現実が無数にあるというわけです。
 実はかような普通の人の怒りや欲求不満、先行き不安が世界中で広がっているとみていいでしょう。男女の問題も一つですし、収入の問題も一つですし、家族の問題も一つでしょう。社会が発展して豊かになったようですが、反面、誰でも自由を謳歌できるシステムとなると、今度は努力したり、収入が多かったり、その人に魅力がないと、社会の中でいとも簡単に取り残されてしまうわけです。昔であれば情報も行き届いていませんから、他人との比較も、自分が特別惨めと思うこともなかったと思われます。ところが現在のような情報過多の社会となると、どうしても比較して様々なことを考えてしまうわけです。現在問題となっている米国社会や英国の社会の怒りの中心は白人たちです。かつては裕福で白人でありさえすれば職もあったし、女性にももてていたはずなのに現在はそうはいかない。香港の人たちもかつては中国本土に比べて圧倒的に裕福な人たちだったのに、現在は若い人は物価高騰に苦しみ、先行き展望がない。また韓国では中国や東南アジア諸国に追い上げられて、しかも激烈な学歴社会の競争に悩まされている。韓国社会全体に広がる病理が左傾化、日本への反感として形を変えて出てきているように思えます。日本でも同じで、かつては誰もが結婚できて1億総中流と言われて格差のない社会であったのに、現在は結婚すら簡単にできず社会が変わってしまった、そういう先進国全般を覆うやりきれない不満感が先進国全体に広がっているように感じます。

19/12

オリンピックイヤー

19/11

欧州に忍び寄る危機

19/10

ペンス演説

19/09

先進国社会の病理

19/08

新刊『アメリカが韓国経済をぶっ壊す!』(仮題)まえがき

19/07

ここまできた顔認証技術

19/06

動き出した金相場

19/05

ドローンの脅威

19/04

株式投資に目を向けよう

19/03

現代金融理論(MMT)

19/02

米国を襲う<反資本主義>の波

19/01

ユヴァル・ハラリ氏の警告


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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/

Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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