“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2020.05
脱中国の動き

「発生源の中国で食い止められるべきだった」
 米国では依然コロナウイルスの感染拡大が止まりません。トランプ大統領は怒りの矛先を中国に向けています。「今回のことは、われわれが経験した中で最悪の攻撃だ。真珠湾や貿易センタービル(2001年のテロで崩壊)よりも酷い!」というわけです。中国は大国です。しかも中国は自国に対しての非難に対しては容赦なく反撃してきます。ですから今回のコロナウイルスの世界的な拡散については、どの国も中国に対して不満をぶつけたいわけですが、どの国も米国のような力を有していませんので、不満を抱えながらも黙るしかありません。
 しかしながら、今回のコロナウイルスのまん延を契機として世界中の国が、中国へ大きく依存してきたことを思い知らされ、それを反省して、様々なシステムを変えていなかければならないと思っていることは確かでしょう。世界ではゆっくりと静かに<脱中国>の動きが進められていくわけです。現状と行方を探ってみましょう。

●コロナ危機を経て、各国の中国との付き合いはどうなる?
 ここ数年米中の覇権争いは激化、米中の貿易戦争は激しさを増す一方でした。今回のコロナ危機を経てその争いはますます激化していく様相です。米国は現在では中国を敵と捉え、重要な技術や物資においては中国とは違った経済圏を構築しようとしています。これに同盟国である日本やオーストラリアも賛同、参加していく流れでしょう。既に2007年の段階で、日米豪印の4カ国戦略対話がスタートしています。
 これは当時安倍首相が提唱して始まったものですが、体制の異なる中国とは一線を引いて太平洋を挟んだ民主主義国が集まった新しい経済の供給網を作り上げて、貿易関係を再構築、対中依存度の低い国際的な経済秩序を作ろうという試みでした。実際にはかような流れはあったものの、TPPなどの挫折もあり、この日米豪印の関係は必要以上に深まらなかった経緯があります。
 ところが今回のコロナ危機を契機として、米国も日本も豪州もインドも、中国に対してあまりに深入りしすぎているとの大いなる反省が生まれているものと思います。米国は既に中国に進出している企業に対して、中国からの工場移転や撤退などを国として奨励する政策を打ち出してきています。かような動きをする企業に米国政府は100%補助金を出すもようです。
 欧州でも、戦略的な分野である電気自動車用電池や医薬品の調達を中国から他国へ移す動きを活発化させています。とにかく民主主義国家全般、「中国は貿易相手に圧力をかける信頼できないサプライヤーである」という認識で一致していて、「中国を重要な戦略物資のサプライヤーにしていいのか?」という視点から、貿易関係全般を見直しているところです。今までただ単にコスト面だけに目を向けていたとの反省があります。
 米国では更に踏み込んだ考えが主流となり、「中国を世界経済に組み込むべきではなかった」という反省から中国を世界の経済体制から切り離そうと動き出したわけです。
 日本に目を向けてみましょう。日本は民主主義国で当然米国側ですが、一方で隣の国である中国と面と向かって対立の構図を作るのも得策とは思えません。
 日本は米中の間で苦しい立場です。今回のコロナ危機で日本も中国依存の現実を嫌というほど思い知らされました。危機発生当初、日本人は誰も彼もマスクが手に入れられなかったのです。日本で販売されてきたマスクの8割は中国からの輸入でした。そこには日本の企業が中国でマスクを委託生産していることもあったわけです。これら日本企業の生産したマスクは、今回のコロナ危機の発生時においては、中国の輸出禁止の措置によって日本に届くことはありませんでした。やっとのことで最近は中国での需要が一段落した関係で、日本にマスクが届くようになったわけです。また消毒液も不足しました。消毒液はほとんど日本の国産だったのですが、消毒液を入れるプッシュ式のボトルが中国からの輸入品だったのです。そのために肝心なとき、日本は消毒液の不足に苦しむこととなりました。また日本でマスクを作ろうとしても、その原料である不織布やゴムも中国製で、中国からの輸入再開を待たなければマスクも作りようがなかったのです。

 これだけでなく今回のコロナ危機ではどうしても必要となる医療用ガウンや人工呼吸器もほとんど中国からの輸入だったのです。コロナウイルスは中国から持ち込まれたわけですが、それを防ぐための様々な物資は中国に頼らなければならない悲惨な現実を日本人すべてが思い知らされたわけです。さらに日本の多くの製造業は、製造過程における膨大な部品の調達を中国に依存していたために、一部の生産はストップして、日本の工場は稼働することができなくなったのです。まさに今回のコロナ危機でさまざまな意味で日本が中国にいかに依存しているかわかったわけです。
 日本の輸入全体に占める中国からの割合は年々増加していく一方でした。
 2000年の段階では中国への依存度は14.5%でしたが、昨年2019年には23.5%へと拡大していったのです。今回、中国はマスクや医療用ガウンや人工呼吸器などは、まずは自国での使用、そして次に戦略的に各国に援助として供給するという巧みな援助外交を行いました。そして仮に中国にたてつくような国があれば、そのような国には、輸出で圧力をかけるというわけです。中国は法治国家ではなく独裁国家ですから、自らの意思で輸出入などの契約も、規制強化などで簡単に制度変更してくるわけです。かような国と付き合っていると、いざという時、輸入が継続される保証がありません。中国は中国の都合で物事を決めてくるので、危機の時や、緊急時には中国を頼ることは危ういわけです。  コスト面ばかりを追求してきた結果がいつの間にか、民主主義国全般にかような危うい体制を作ってしまっていたわけです。

 日米欧など民主主義国家は今回のコロナ危機で貿易において中国への依存を深めることの危険性を嫌というほど思い知りました。そして「必要とされる製品や部材、素材については、単に価格競争に左右されない安定的な供給体制を構築する必要がある」と猛反省したわけです。

●厳しい日本の現状
 ここにきて日本の経産省も素早く動いています。日本の製造業全体のサプライチェーンを国として何とか見直していこうというわけです。安倍政権は先に実行された117兆円の景気対策において、中国から生産拠点を国内に回帰させることを奨励するための予算措置を行いました。
 具体的には中小企業が中国から国内に生産拠点を移せば、それにかかった費用の3分の2、大企業では2分の1を国が補助するということです。また企業側の動きも急ピッチです。日本電産の永守会長は、「今回、どの部品が入手困難になり、そのことがどのような影響を与えたかを徹底的に分析してきちんとそこに投資する」と言明しています。アイリスオーヤマではマスクの中国での工場を国内に移し、月間6000万枚だった生産を月間1億5000万枚にまで拡大させるということです。
 <中国からの撤退>というこれらの流れは重要で、歓迎したいところです。
 しかし現実には脱中国はそう簡単でもないのです。アイリスオーヤマはマスクの生産基地を日本に回帰させるわけですが、これは日本に恒常的なマスク需要が生じているという冷静な読みがあるからです。
 ところが他の業種では、簡単に日本に工場を移転させるわけにもいきません。というのも日本に需要がないのです。日本は年々人口が減少していって、少子高齢化、高齢者ばかりが増えていく社会です。そのような場所では一般的な製品はどうしても需要が伸びないわけです。人口が多くて、需要が多いところに工場を作って販売していくということは今の世界では常識的な行動なわけです。せっかく日本に工場を作っても、日本では需要が先細りであるという冷然たる現実が待っています。

 そもそも日本の企業は2010年から2011年の超円高が起こった時に海外移転を積極的に行ったわけです。日本企業は長い間、円高に苦しんできました。日本に工場があっては為替の影響から逃れることができません。日本企業は円高に苦しみ続けてきた経験から、このトラウマから脱することができないわけです。日本企業にとって国内に工場を作ることには強い抵抗感があるというわけです。実はそれだけでなく、現実的な極めて深刻な問題も生じています。
 それは企業が日本に工場を作っても、そこで働く人が集められないのです。
 コンビニに行けば今や外国人のスタッフばかりです。日本は恒常的な人手不足でコンビニで働く人を確保できないわけです。ましてや日本の地方に工場を作っても人が簡単に集められるわけがありません。働く人が集められないのは目に見えていて、どうして日本に工場が建設できるというのでしょうか。残念ながらこれが日本の現実なのです。
 かように脱中国の動きは簡単ではありません。今回のコロナ危機を契機として民主主義国家は中国から離れる必要性を感じ、それを実行しようと動き始めました。しかしその道のりは予想以上に険しいものなのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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