“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2020.08
テスラ急騰にみる警告

「飛び抜けた高度な技術は魔法と区別がつかない」
 これはSF作家として著名なイギリスのアーサー・クラークの言葉です。クラークは<2001年宇宙の旅>など数々の壮大なドラマを書き残しました。この<2001年宇宙の旅>はスタンリー・キューブリック監督の下に映画化、1968年に製作、上映され、難解でありながらもその衝撃的な内容が話題となり、世界的な大ヒットとなりました。当時のことを覚えている人も多いかもしれません。

●注目のイーロン・マスク氏
 このクラークの言葉、まさに「魔法と区別がつかない」ほどの高度な技術を作ることができたら「最高にかっこいい」と思いませんか? これこそがイーロン・マスク氏を様々な新技術開発に駆り立てた動機だというのです。
 マスク氏によれば「人類の未来に影響を与えるもっとも重要な課題は何か」と考えた場合、それは「持続可能なエネルギーを作り出すこと」と、「他の惑星で人類が生き延びること」だというのです。このあたり天才が考える感性は普通と違うと感じますが、じっくり考えてみると道理に合っていると同感するわけです。

 現実にエネルギー問題は常に人類を悩ませてきています。20世紀数々の戦争を起こしたのも、資源を巡る戦いであって、まさにどの国もエネルギーを求めて争ったわけです。現在でも中東地域は世界における争いの中心地ですし、今まさに世界中を覆ってきた地球温暖化の問題も元を正せば、エネルギーを消費しすぎて化石燃料を燃やし続けた結果として地球温暖化が生じてきたわけです。こう考えるとマスク氏の主張する持続可能なエネルギー源の開発は人類にとっては喫緊の課題であることがわかります。
 またマスク氏は<惑星間の移動>についても述べています。これも奥深い観察です。普通われわれが惑星間の移動とかを考えると、夢物語であって将来はともかくわれわれが考えるべき課題ではない、と思ってしまいます。しかし現状の著しい温暖化の進行をみても、洪水や地震など自然災害の多発をみても、地球環境並びに人類の未来に対して誰でも一抹の不安を覚えることもあると思います。
 マスク氏の考えとして、将来的に人類が地球に住めなくなったときに備えて、人類が自由に惑星間を移動できるようなシステムを構築しておく必要があるということでしょう。壮大な夢のような物語でありながら、本当に切羽詰まってそういう厳しい局面が人類全体に迫る可能性も否定できないでしょう。

 かように考えていくと、マスク氏の行う事業とか目標は、改めて重要な課題であると感じるわけです。マスク氏は奔放な言動などスキャンダル的な部分ばかりが報道されますので、彼の行おうとしている崇高な目標にスポットが当たることが少ないのですが、彼の行っている事業内容などをみていくと、どれも興味深く、重要なことだと感じます。
 マスク氏が現在行っている事業は

1. テスラ 電気自動車、太陽光
2. スペースX  衛星打ち上げ
3. ニューラリンク 脳とコンピューターをつなぐ
4. ボーリングカンパニー 地下トンネルを使った高速移動システム

 などです。
 夢のような話を現実に持って行こうとするマスク氏の情熱を応援したい気持ちですし、テスラが爆発的に個人投資家に人気があるのも、人々の将来への期待を受けてのものでしょう。

●急上昇するテスラ株
 さてそのテスラの株ですが、今年その著しい上昇ぶりが市場の注目を集めています。テスラは昨年経営不安説などが出て暴落し、一時は186ドルまで株価が落ちるときもありました。8月25日現在2120ドルまで付けましたので、当時からみれば11倍になったわけです。今年だけみても、コロナショックで世界的に株価が下がった時の安値は3月18日の350ドルでしたが、この時と比べてもわずか5カ月で6倍となったのです。驚くべき上昇です。
 上昇過程においても常に話題をさらいました。日本のマスコミに大々的に報道された時は、テスラ株が上昇して時価総額が急増、20兆円を超えてきてついに日本のトヨタの時価総額を追い抜いた局面でした。テスラに将来性があるといっても、トヨタと比較できるほどの会社ではないというのが一般的な考えでした。日本人の大多数だけでなく、世界の多くの投資家はそのように考えてきたと思います。ところがテスラの時価総額はトヨタをあっさり抜き去りました。投資家の多くは「これはバブルだ」と思ったわけです。

 実際、自動車販売台数をみるとトヨタは昨年1年間で世界において1074万台車を売っていますが、テスラはわずか36万台にすぎません。テスラの販売台数はトヨタの30分の1にしか過ぎないのです。しかもトヨタは通常年間2兆円近い利益を叩き出すのですが、テスラは昨年まで赤字続き、今年やっと黒字になろうかという会社です。これではテスラとトヨタは比較対象になるまでもなく、比べることすら間違っていると思うところです。だからテスラとトヨタの株価逆転についてバブル相場が起こした一時的なあだ花に過ぎないと感じていた投資家が多かったのです。
 ところがテスラはトヨタを抜き去った後も株価が上昇し続けたのです。そしてあろうことか、テスラの時価総額は日本の自動車産業全て(トヨタ、ホンダ、日産、スズキ、マツダ、三菱自動車、日野自動車、いすゞ)の時価総額を合わせた額をも抜き去りました。そしてその後も上げ続け、ついに時価総額は40兆円に達し、今ではトヨタやダイムラーベンツ、フォルクスワーゲンの時価総額を足し合わせても、テスラに追いつかないところまで行ってしまったのです。驚くべき株価の上昇ぶりです。こうなるとこの株価の著しい上げ方を単にバブルと切り捨てられないかもしれません。株価は見えない先見性を持っていますので、何か自動車業界全体に近い将来驚愕の変化が待っているかもしれません。

●なぜテスラ株は上がるのか?
 テスラの上げ方をみれば、まるで将来、世界の自動車全てが電気自動車となり、そのシェアの過半をテスラが牛耳ってしまう未来を予見しているかのようです。現実にそのようなことが起こらないと言えない状況なのかもしれません。
 すでに将来の自動車は全て完全自動運転になるという未来については、現在の技術の劇的な進化のスピードを考えれば、ありうると考える人も多いでしょう。マスク氏は自動車運転技術の将来について「近くレベル5、全ての運転を自動化することを実現するだろう」と述べたのです。マスク氏によれば「年内にもレベル5の基本的な仕組みを完成させることができる」というわけです。
 テスラは自動車の運転の完全自動化に備えて、着々と手を打っています。テスラで2019年から販売されている車には、全て自動運転に必要な演算能力を持つFSDと呼ぶ車載コンピューターが標準搭載されているのです。このFSDは1秒間に144兆回もの演算が可能なのです。そしてテスラは技術の進歩に沿って、この車載コンピューターをアップデートしていく予定なのです。
 テスラで購入した車は、将来それに搭載されているコンピューターが無線通信でアップロードされるわけです。これはちょうど我々の使っているスマホのアプリの機能が定期的にアップロードされるのと同じようなものです。そしてテスラはそのソフトの更新料などで将来継続的な利益を上げようという腹積りなのです。これはトヨタなど従来の自動車会社とは別の次元の発想です。いわばテスラが将来行おうとしているビジネスモデルは、現在アップルやアマゾンが盛んに行っている、定期的にサービス料を得ていく、いわゆるサブスクリクションと同じような手法です。テスラは将来的に車の販売よりもソフトの販売で稼ごうというわけです。このような発想は現在の日本の車メーカーのシステムを超えた発想、手法であって、日本のメーカーが太刀打ちできる分野ではありません。そのような将来が本当に待っているのであれば、テスラの株だけが異様に高くなっていく、現在の世界の自動車株の実情も正当化できるわけです。

 そして仮にそのようなテスラの一人勝ち、自動車は完全にコモディティ化して自動車はただの箱物となって、収益はソフトで稼ぐ時代が来るとなれば、これは想像を絶する未来が待っていると考えなくてはなりません。自動車がコモディティ化してしまって、ほとんどが自動運転となり、全てが電気自動車となれば、ガソリン車主体で自動車産業を活性化させてきた日本の産業が壊滅的な事態に陥ってしまいます。テスラの急騰を深く考えると実は喜べることばかりではないのです。
 現在の時代の変化のスピードは驚くほど早く、そして激しく、激烈です。優勝劣敗の現実は残酷です。今回のコロナの波も様々なものを大きく変化させています。テスラの株の急騰は一見<バブルの典型>と思われているようですが、その背後に潜む<驚愕の時代到来の可能性>もしっかり頭に入れて覚悟しなければなりません。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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