中村陽子の都会にいても自給自足生活

このページは、認定NPO法人「メダカのがっこう」 理事長の中村陽子さんによるコラムページです。
舩井幸雄は生前、中村陽子さんの活動を大変応援していました。

2024.12.20(第120回)
江戸の料理は健康食

 メダカのがっこうの田んぼカフェでは、ほぼ毎日、醤油のモロミのお世話や、醤油搾り、縄文漬けや、たくあん漬け、オーガニック給食の作戦会議などの集まりがあり、みんなでランチを食べながら、楽しく交流しています。
 そのランチですが、私が今ハマっているのが、江戸時代の庶民の倹約おかず番付のレシピをアレンジして作ることです。個人的には30年くらい前、海のミネラル研究会をやっていたころから、江戸膳を復活したいなあ、と考えていたのですが、長年、健康相談にのっていると、小麦はやめてね!油を摂り過ぎですよ!乳製品はやめてね!特に腸活だと思って毎朝摂っているヨーグルトはがん細胞のエサだからね。ぬか漬けや、たくあんなどの植物性乳酸菌が日本人のヨーグルトですよ!などと同じことを繰り返していることに飽きてしまい、やめてね!ばかりではつまらない、もっと「これを食べればいいのよ」と簡単に伝えられるものはないかと考えていたところ、江戸の料理を思い出したのです。
 1970年代フォード大統領時代にアメリカ人の食生活を調査し間違いをまとめた「マクガバン報告」では、日本の江戸元禄以前の食事が理想だということになっていますが、それは白米を食べて江戸わずらいになったことが影響していると考えられるので、ここを玄米や分づき米にすれば、理想の食事と言えるのではないでしょうか。

 現に江戸のおかずや、豆腐百珍などの味付けは、水、塩、味噌、醤油、ほんのたまにごま油、その代わり、葱、生姜、大根おろし、山椒、コショウ、わさび、辛子などを必ずといっていほど使っているのです。
 予想を裏切ってとてもおいしかったのが、八杯豆腐です。水6、酒1、醤油1を温めた汁を、細長くうどん状に切って湯がいた豆腐に注ぎ、大根おろしを載せていただくのですが、これだけなのに、とてもおいしくてビックリしました。だしも取らずみりんも使わなくてもおいしい料理は作れるものだな、と思いました。必要以上にいろいろな調味料を使い過ぎているのかもしれないと反省しました。油も使わなくなりました。今まで、切り干し大根とか、ひじきレンコンとか、煮物の最初は油で炒めるものだと思い込んでいたのですが、別に最初から煮てもおいしいことがわかりました。ですが、一つだけうまくいかなかったのが、キンピラごぼうです。これだけは油で炒めることでアクを抜いていたようで、初めから煮ると真っ黒になりました。何時間も水につけてあく抜きをすれば大丈夫らしいですが、段取りができていないときは、水と油で炒め煮しています。
 倹約料理番付には、東方と西方があり、東方は精進方で野菜海藻豆腐料理、西方は魚類方で魚貝類の料理です。田んぼカフェでは、ベジタリアンの方が多いので、魚類は出していませんが、我が家は大好きなので、いろいろ参考になります。西方魚類方の番付では、イワシの丸干しやうるめいわし、たたみいわし、カツオ、マグロ、ナマリ、クジラ、アサリ、ハマグリ、カキ、タコ、イカ、エビなど、当時の江戸湾で獲れた魚貝たちを、炙ったり、ネギと煮たり、大根おろしと一緒に食べています。
 東方精進方の番付では、豆腐、油揚げ、小松菜おしたし、キンピラごぼう、人参白和え、ひじき白和え、ふろふき大根、昆布と揚げの煮物、サトイモとタコの煮ものなどなど・・・。ジャガイモはなかったらしく出て来ません。あと冷蔵庫のない時代なので、漬物は野菜だけでなく、くさや(ムロアジ)、馴れずしなど、魚やフグの卵巣まで塩漬けにして、発酵の世界をうんと広げています。
 小泉武夫さんの「江戸の健康食」(中公文庫)を読んでいたら、江戸の旅人のスタミナ食が面白く、山越えの手前にある中山道の宿場では、朝豆腐の味噌汁に刻み納豆と刻み揚げをたっぷり入れて出してくれ、それが本当に力が出るスタミナ食だそうです。うちの食養生の食事でも再現したのですが、味噌、豆腐、納豆、揚げの4種の大豆食品は、コレストロールもなしで、体に負担がかからず大量のたんぱく質を摂れることに感心しました。
 江戸時代、飛脚の身体能力に感心したドイツのベルツ博士が、肉を食べればもっと力が出るだろうと実験したところ、肉を食べたほうの飛脚は「疲れて走れない」ことがわかったという話は有名です。江戸の料理は、努力しなくても、小麦も乳製品も砂糖もみりんさえも使わず、油もほとんど使わないおかずが作れて、一汁三菜(ごはん、みそ汁、漬物、梅干し、煮物かおひたし)くらいならあまり手がかからず、とても良いと思います。面白いので、これからも田んぼカフェのランチで取り入れていこうと思います。


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Profile:中村 陽子(なかむら ようこ)
中村 陽子(なかむら ようこ)
首のタオルにシュレーゲル青ガエルが
いるので、とてもうれしそうな顔を
してい ます。

1953年東京生まれ。武蔵野市在住。母、夫の3人家族。3人の子どもはすべて独立、孫は3人。 長男の不登校を機に1994年「登校拒否の子供たちの進路を考える研究会」の事務局長。母の病気を機に1996年から海のミネラル研究会主宰、随時、講演会主催。2001年、瑞穂(みずほ)の国の自然再生を可能にする、“薬を使わず生きものに配慮した田んぼ=草も虫も人もみんなが元氣に生きられる田んぼ”に魅せられて「NPO法人 メダカのがっこう」設立。理事長に就任。2007年神田神保町に、食から日本人の心身を立て直すため、原料から無農薬・無添加で、肉、卵、乳製品、砂糖を使わないお米中心のお食事が食べられる「お米ダイニング」というメダカのがっこうのショールームを開く。自給自足くらぶ実践編で、米、味噌、醤油、梅干し、たくあん、オイル」を手造りし、「都会に居ても自給自足生活」の二重生活を提案。神田神保町のお米ダイニングでは毎週水曜と土曜に自給自足くらぶの教室を開催。生きる力アップを提供。2014年、NPO法人メダカのがっこうが東京都の認定NPO法人に承認される。「いのちを大切にする農家と手を結んで、生きる環境と食糧に困らない日本を子や孫に残せるような先祖になる」というのが目標である。尊敬する人は、風の谷のナウシカ。怒りで真っ赤になったオームの目が、一つの命を群れに返すことで怒りが消え、大地との絆を取り戻すシーンを胸に秘め、焦らず迷わずに1つ1つの命が生きていける環境を取り戻していく覚悟である。
★認定NPO法人メダカのがっこうHP: http://npomedaka.net/

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