ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測

このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。

2019.05.01(第63回)
なぜ中国のテクノロジーの発展は早いのか?

 5月になった。米中貿易戦争が一段落する兆しが見えてきたものの、米中の覇権争いは長期化する模様だ。今回は中国の急速なテクノロジーの発展の背後にある状況を見てみよう。

●なぜ中国のテクノロジーの発展は早いのか?
 米中のテクノロジーをめぐる世界覇権の争いが激化している。トランプ政権は、上下両院が昨年可決した「国防権限法」に基づき、2019年8月以降、米政府機関が「ファーウェイ」など中国通信5社の製品を調達することを禁じ、さらに2020年8月からは、同5社の製品を利用している「世界中のあらゆる企業をアメリカ政府機関の調達から排除することを決めた。実行されれば世界中の企業が、中国が絡むサプライチェーンから排除されかねない。
 このような圧力によって、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、そして日本などの米同盟国が「ファーウェイ」の政府機関からの排除を決め、「ファーウェイ」が各国で計画している5Gのインフラ建設からの排除も決定した。これで、「ファーウェイ」を筆頭にした中国企業の凋落は避けられないとの見方も強い。

●ファーウェイを容認する各国
 しかしながら、トランプ政権の強い圧力にもかかわらず、アメリカの同盟国による「ファーウェイ」排除の動きは鈍い。むしろ、「ファーウェイ」による5Gの通信網インフラを容認する方向に動き出している。
 まずイギリスだが、2月17日、「国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)」が、「ファーウェイ」について利用を一部制限すべき領域はあるが「安全保障上のリスクは抑えられる」との判断を固めた。
 またドイツだが、一部の政府の省庁ではすでに2週間前に「ファーウェイ」を5Gネットワーク構築の入札に参加させる暫定合意がなされている。最終的には内閣と議会の承認が必要だが、トランプ政権の主張とは裏腹に、ドイツ当局の調査でも、「ファーウェイ」機器での不正行為の兆候は見つけられなかったとした。ドイツで「ファーウェイ」機器と通信網が全面的に容認される方向が強まっている。
 さらにインドは、トランプ政権の通信網のアップグレードにファーウェイの機器を使えばサイバーセキュリティーに重大な脅威を及ぼすとの警告にもかかわらず、ファーウェイが提供する割安な価格や高い技術力はそうしたリスクを上回るとの主張が多いとの理由で、政策担当者や通信会社はほとんど耳を傾けていない。トランプ政権の圧力にもかかわらず、インドは「ファーウェイ」の5Gの通信網を導入する方向だ。

●背後にある中国の経済力
 このような状況を見ると、トランプ政権の圧力は有効性を失い、最終的には「ファーウェイ」の5Gの通信網が世界の覇権を握る可能性が強いことが分かる。アメリカは、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドなどの文化的にも近い関係にある諸国とは、それぞれの情報機関が収集した情報共有のネットワークを持っている。「ファイブ・アイズ」だ。
 この協定の中核となっている国がアメリカとイギリスだが、トランプ政権の圧力にもかかわらず、そのイギリスが「ファーウェイ」機器と通信網の排除はしないことを明確にした意味は大きい。すでにアメリカは同盟国を結集する力を失っており、覇権が凋落している分かりやすい兆候だろう。
 そのような状況になっている背景のひとつは、中国の経済力である。その代表的な例はイギリスである。
 中国最大の金持ちのひとりに、李嘉誠(レイ・カーセン)という人物がいる。彼は香港最大の企業集団・長江実業グループ創設者兼会長である。2013年度の世界長者番付によれば、その資産は310億ドルとされ、世界8位の富豪である。長年、中国人としては世界最大の資産家であった。
 いまイギリスは、EU離脱の余波で経済が低迷しつつある。EU諸国との間で関税が復活することを恐れ、EUを主要な市場にしている国々の企業の撤退が後を絶たない。最近では現地工場を持つ「HONDA」が撤退を決めた。イギリス経済の見通しは決して明るいものではない。
 そのような状況のイギリスで、李嘉誠の「長江実業」とその傘下の多国籍企業、「ハチソン・ワンポア(和記黄埔)」は莫大な投資をし続けてきた。中国では「イギリスの半分は李嘉誠が掌握している」とも報道されるくらいだ。

 現在イギリスの35%以上の天然ガス、30%以上の電力は李嘉誠の手中にあり、イギリス経済は李嘉誠がどう動くかによって決まっていくと言っても過言ではないほど影響力が強い。イギリスの通信大手で、ヨーロッパ、アメリカ、アジアで使える格安SIMで有名な「Three UK」は、「長和電信」のイギリス法人で李嘉誠の会社だ。「Three UK」は、「ファーウェイ」との間で20億ポンドの通信ネットワークの契約を結んでいる。さらに「ファーウェイ」に200億人民元を投資して、同社の5Gのシステム購買契約を済ませている。
 こうした状況なので、イギリスがトランプ政権の要請だったとしても、「ファーウェイ」を排除することは難しかった。ここまでではないにしても、特にドイツなどのヨーロッパ諸国は中国に対する経済的な依存度が高いので、「ファーウェイ」の排除には踏み切ることができない。これから、カナダやオーストラリアなどの他の「ファイブ・アイ」諸国でも、同じような動きが拡大する可能性がある。そうすると、中国がテクノロジー覇権の争いで一歩先んじることにもなる。

●なぜ中国のテクノロジーは急速に発展したのか?
 このように、テクノロジー覇権をめぐる中国の強さの背景には、中国の巨大な経済力の影響があることは間違いない。しかし、それにしても、なぜ中国のテクノロジーがこれほど急速に発展したのだろうか? もちろん、テクノロジーの発展には巨額の投資が必要だ。それには経済力がものをいう。しかし、それだけが理由なのだろうか?
 また、日本の主要メディアでは、中国が知的財産権の侵害を繰り返して日米欧の先端的な技術を盗んだことが、中国のテクノロジーが急速に発展できた理由であるとする報道が目立つ。たしかに、中国の知的財産権の侵害は目に余るものがある。だが、これでは先端的なテクノロジーが発展している説明にはならない。「ファーウェイ」の5Gや、いま開発が急ピッチで進められている6G、また量子暗号の人工衛星や量子コンピュータ、そしてAIなどの中国の先端的なテクノロジーは、すでに欧米の水準を凌駕している。
 また、半導体製造技術でもそうだ。2015年までは「クワルコム」のような世界最先端の工場では、製造可能な半導体の限界は20ナノメートル台だった。2016年からは10ナノ、そして2019年に稼動する最先端工場では7ナノ、2020年には5ナノが稼動すると見られている。そのような状況で、昨年までは中国の先端的な工場で製造できる限界は22ナノであったが、2019年には、なんと5ナノの製造が「AMEC」というメーカーですでに始まっているようだ。あまりに急速な発展だ。
 このようなテクノロジーは、米欧日の水準を越えている。既存のテクノロジーをスパイするだけでは、これを越えるテクノロジーの開発は不可能である。先端的なテクノロジーが急速に開発できた理由は、他にあるはずだ。

●文化大革命と人材の流出
 筆者はかねてからこうした疑問を持っていたが、それに明確に答えてくれる本があった。それは、『「中国製造2025」の衝撃』だ。この本は、中国政府が掲げる国家的な発展計画、「中国製造2025」の基盤となっているものが見えてくる。
 そのひとつは、文化大革命後の人材流出と、1990年代終わりから始まるその激しい帰還の流れである。
 周知のように中華人民共和国が建国されたのは、1949年である。そして、建国間もない1953年から1957年にかけて実行されたのが、「第一次5カ年計画」であった。この期間、ソ連の援助もあって、戦乱で荒廃した国土の復興が進み、経済は大きく成長した。そして、社会主義経済の移行も始まった。
 この結果におおいに満足した毛沢東は、1958年からは、「大躍進政策」と呼ばれる極端な政策を推し進めた。社会主義化を一層推し進めると同時に、中国を一気に工業化して、15年でイギリスに追いつく水準にするというものだった。しかし、その結果は惨憺たるものだった。農村では原始的な鉄の生産が強制などされたため、食料生産は大きく落ち込んだ。その結果、4500万人が餓死した。「大躍進政策」は1961年まで続いた。
 その後、この政策の間違いに気づいた共産党は、毛沢東に代わり劉少奇を国家主席に選んだ。劉少奇は私有財産を認めて経済の自由化を推進し、経済は回復して成長した。
 しかし、権力の喪失を恐れた毛沢東は、青年層の感情に訴えて勢力の盛り返しを図ろうとし、新たな革命を宣言した。「文化大革命」である。毛沢東の熱狂的な信者である「紅衛兵」によって推し進められた毛沢東主義の革命は、毛沢東本人の予想を越えて進行し、全国の大学は閉鎖され、学生は地方の農村に農業労働力として強制的に送られた。「下放」である。「文化大革命」は1977年まで10年間続いたものの、この間に中国経済は大きく落ち込み、停滞した。

 そして、ケ小平が権力を掌握し、現在に続く「改革解放政策」の実施を宣言した3年後の1981年から海外留学制度が始まり、その後、留学許可の枠は順次拡大した。
 これに応じたのは、農村に「下放」され、「文化大革命」の10年間、学習の機会を完全に奪われていた大学生であった。そうした学生による留学ラッシュが始まった。そして、かなりの数の学生は、ハーバード、MIT、スタンフォードといったアメリカの名門校への入学を果たし、PhDを取得するものも多く現れた。そうした人々のうち、相当数が当時は勃興期にあったシリコンバレーの企業に就職し、最先端テクノロジーの開発に携わった。また、後に注目されるベンチャーを立ち上げたものも多い。

●1990年代末から始まる帰国ラッシュ
 一方中国では、2001年の「世界貿易機構(WTO)」の加盟に向けて準備が進められていた。「WTO」には自由貿易の厳格なルールが存在しており、国内産業保護のための高関税の適用は許されない。あくまでグローバルな自由貿易の原則にしたがうことが要求される。
 そのような状況で中国が国際競争力を維持するためには、安い労働力を提供して海外企業の生産拠点となると同時に、競争力のある製品の生産・開発能力を強化しなければならない。
 これを担う人材として政府が注目したのが、「文化大革命」後にアメリカへと留学した人々の集団である。政府は、彼らを高給と高いポストの保証で帰国を促した。PhDを取得し、すでにシリコンバレーでキャリアを築いていた多くの中国人がこれに応じて、帰国のラッシュが始まった。
 この帰国ラッシュは、江沢民政権における「文化大革命」で「下放」された第1世代から始まり、胡錦濤、習近平の歴代政権で規模を拡大させながら続いている。世界ではじめて5ナノの半導体の製造に成功した先の「AMEC」の創業者も帰国した人材のひとりだ。
 「AMEC」を操業したのは、中国の半導体の父と呼ばれ、ドクター・ジェラルドの名前で知られるゼーヤオという人物だ。彼はカリフォルニア大学ロサンゼルス校で物理化学のPhDを取得後、半導体製造大手の「アプライドマテリアルズ社」に13年間在籍した。その間、同社の副社長およびエッチング製品事業グループのゼネラルマネージャーなどを歴任している。その後、中国政府の要請に応じて帰国し、2004年に現在の「AMEC」を設立した。
 いま、アメリカの名門大学に留学してPhDを取得し、シリコンバレーの大手IT企業で数年勤務した後、ベンチャー企業に参加して会社設立のノウハウを学び、その後自分のベンチャーをシリコンバレーで立ち上げるというのがこうしたエリートの一般的なキャリアコースだ。
 こうした人々が政府によるリクルートの対象となっている。現在では「海亀」と呼ばれる人材群だ。「海亀」はアメリカでPhDを取得した後、「グーグル」や「アップル」などの最先端企業で働き、その後帰国してベンチャーを設立している。
 いま中国国内では、帰国組も含め、500万人を越える修士号、博士号の取得者、そして研究者がいるとされる。この数はさらに増加している。

●経済力と人材群が最先端テクノロジーの基盤
 もちろん、こうした人材が設立したベンチャーには、中国の政府系ファンドも投資をしている。特に5Gのテクノロジーに関しては、政府の「科学技術部」、「工業情報化部」、「国家発展改革委員会」が「5G推進小グループ」を設置し、「ファーウェイ」を始めとする中国の5G関連企業の全面的な支援を始めた。
 このように見ると、知的財産権の侵害によって、日米欧の企業が開発した先端的なテクノロジーを盗むことが、中国のテクノロジーの基盤であるとする、日本で比較的に広く喧伝されているイメージは、当たってはいないことが分かる。
 中国の経済力を基盤とした旺盛な投資、そして膨大な人材のプールが、中国の先端的なテクノロジー開発を支える基盤だ。これが、イギリスやアメリカを始めとした各国経済への影響力の拡大と合わせて、中国の先端的テクノロジーの世界覇権を目指す基礎になっている。
 ということでは、米中貿易交渉で中国の知的財産権の侵害さえ効果的に禁止できれば、中国のテクノロジー開発の勢いは止ると考えるのは早計だ。現状を見ると、そうはならないはずだ。トランプ政権による中国への圧力とブロックにもかかわらず、5Gや6G、量子コンピュータ、量子暗号、AI、宇宙開発などの最先端のテクノロジーの分野では、中国の価格的にも安いテクノロジーと、アメリカの同レベルだが高価なテクノロジーとが競うことになる。
 「ファーウェイ」の創業者の任正非は、最先端で安いテクノロジーを提供すると、アメリカからどんなに圧力があっても、各国は「ファーウェイ」の機器を導入せざるを得ないはずだというような意味のことをいっているが、まさにそうだろう。

 これから中国は厳しい時期に入る。成長率は鈍化し、不動産をはじめとしたあらゆるバブルが崩壊する可能性もある。そうした中国の状況を見て、日本では中国崩壊論が活性化することだろう。もはや中国には未来がないというイメージが喧伝されるはずだ。
 しかし、そのようなイメージに拘泥していると、中国が持つ潜在的な発展力の現状を完全に見失うことになる。これには注意しなければならない。

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Profile:高島 康司(たかしま やすし)
高島 康司(たかしま やすし)

社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/

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