ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測

このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。

2019.06.01(第64回)
技術の覇権争いの裏、レアアースの争奪戦

 それでは早速、今回のメインテーマを書く。いま米中による「5G」を始めとした最先端技術の覇権争いが過熱しているが、その背後にあってさらに熾烈を極めているレアアースの争奪戦についてである。前回はベネズエラ情勢に焦点を絞ってレアアースやレアメタルを巡る状況を見たが、今回はレアアースに集中して、技術を巡る覇権争いの深層を見て見る。

●熾烈な技術覇権の争い
 いま新しい通信棋客の「5G」や自動運転車、そしてAIのニュースを聞かない日はない。つい先日も、韓国通信大手3社が、世界初となる「5G」のスマホサービスを4月3日午後11時に開始すると、その1時間後には、アメリカの通信大手、「ベライゾン」もスタートさせた。どちらが世界一になるのか、熾烈な競争が続いている。
 また日本でも、「NEC」や「パナソニック」が地域限定で使える高速通信規格「5G」の新サービスに参入すると発表した。これは、工場内の生産ラインを自動制御する「スマート工場」を推進するためのものだ。通信会社を介さない自前の超高速通信網により、機密性を保って遠隔作業などをできるようにして、製造業の競争力向上につなげるとしている。
 一方、米トランプ政権は「5G」の通信基地などのインフラ建設を推し進めている中国の通信最大手のひとつ、「ファーウェイ」を先進国を中心とした市場から排除する圧力を各国にかけているが、その要請にしたがう国は少ない。高速な「5G」の通信インフラを格安に提供する「ファーウェイ」の魅力はあまりに大きいからだ。
 しかし、すでに兵器産業の基盤的な技術が中国のサプライチェーンに依存せざるを得ない状況にあるアメリカとしては、中国が「5G」のみならず電気自動車、自動運転車、そしてIoTやAIの技術で主導権を持つことは絶対に許すことはできない。なんとしてでも中国に技術の覇権を握られてはならない。

●そもそもレアアースとなにか?
 一方、こうした目に見える表層の技術の覇権争いの裏には、レアアースを巡る熾烈な争奪戦がある。それというのも、前回の記事でも書いたように。第4次産業革命を担う最先端の技術は、原材料としてのレアアースなしでは製造することができないからだ。

 周知かもしれないが、記事を進める前に、レアアースの基本を簡単に確認しておこう。レアアースとは、31種類あるレアメタルのなかのひとつの鉱種である。それらは、比較的にまれな鉱物から得られた酸化物から分離されるもので、全部で17元素ある。以下がそのリストだ。

1. Sc スカンジウム
2. Y イットリウム
3. La ランタン
4. Ce セリウム
5. Pr プラセオジム
6. Nd ネオジム
7. Pm プロメチウム
8. Sm サマリウム
9. Eu ユウロピウム
10. Gd ガドリニウム
11. Tb テルビウム
12. Dy ジスプロシウム
13. Ho ホルミウム
14. Er エルビウム
15. Tm ツリウム
16. Yb イッテルビウム
17. Lu ルテチウム

 そして、これらのレアアースからは、次のような機器の生産に使われる。

・風力発電
プラセオジム、ネオジム、ジスプロシウム

・充電式電動ドリル
プラセオジム、ネオジム、ジスプロシウム、テルビウム

・スピーカーとイヤフォン
プラセオジム、ネオジム、ガドリニウム

・LED電球
イットリウム、ユウロピウム

・液晶ディスプレーとプラズマディスプレー
イットリウム、ユウロピウム、テルビウム、セリウム

・ハイブリッド車や電気自動車の永久磁石
プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム

・触媒コンバータ、デジタルカメラ
ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム

・充電式バッテリー
ランタン、セリウム

・ミサイル誘導システムなど先端兵器
プラセオジム、ネオジム、サマリウム、テルビウム、ジスプロシウム

・スマートフォン、DVD、CD、iPodなど
ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム

 以上である。

 これはほんの一例だが、これを見ても幅広い先端機器にレアアースが使われているのが分かる。これらのレアアースは、同じ鉱床から採取できるわけではない。「LREE」と呼ばれる比較的に軽い「軽稀土類元素」、「HREE」の「重稀土類元素」の2つに分かれ、その中間には中国の独自基準の「MREE」と呼ばれる「中稀土類元素」の3つがある。

●埋蔵量の30%が中国
 こうしたレアアースだが、前回の記事にも書いたように、その供給は中国の実質的な独占状態にある。
 世界のレアアースの3分の1が中国に埋蔵されており、「軽稀土類元素」の70%が内モンゴル自治区の鉱区に集中している。特に、包頭市近郊にある「バヤンオボー鉱区」は50%を産出する。また「重稀土類元素」と「中稀土類元素」の鉱床は中国南部に集中しており、江西省のカン州市だけでもこれらのレアアースの50%を産出する。

●高度な精製技術、供給は中国が独占
 ところで中国が、レアアース市場の供給を独占できたのは、国内の埋蔵量が多いだけだからではない。レアアースは、金属の不要物を取り除き、精製しなければならない。それには、相当に高度な技術が必要だ。また、不要物を取り除くとき、放射性物質を含む有毒物質が大量に発生する。
 この結果、1980年代の初頭にはアメリカのような先進国でもレアアースは産出されたものの、環境規制の強化によってレアアースの精製時に生じる有毒物質の処理が国内ではできなくなり、生産が中止された。
 一方、この当時の中国は、環境規制もほとんどなく、また労働力の賃金も相当に安かったため、レアアースの生産に集中した。そして1983年にこのレアアース精製における最初の特許を取得して以来、いわば国家政策としてレアアース精製の技術を高度化し、いまでは世界最先端の技術を持つに至った。

●うまく行っていない中国依存脱却
 他方、中国の独占状態を恐れたアメリカ、オーストラリア、日本など各国は中国以外の供給先を開拓しようとしたが、精製に必要な技術が追いついていないことなどが障害となり、うまくいっていない。2012年にカリフォルニアの鉱区を開発しようとした企業は倒産した。
 この結果、各国は中国のサプライチェーンの過度な依存からまったく脱却できていない。そのため、第4次産業革命を担う最先端の製品が、レアアースの中国のサプライチェーンなしでは製造できない状況になっている。

●電気自動車が典型例
 その典型的な例は電気自動車(EV)だ。いま日本のみならず全世界で「EVシフト」が起こっている。EUなどは、2040年までにガソリン車やディーゼル車の製造と販売を禁止し、完全に電気自動車に一本化する方向だ。
 ところで、電気自動車の心臓部はモーターである。そして、モーターを駆動させるためには高性能の「永久磁石」が必要になる。これなくしては、モーターは動かない。
 そして、電気自動車用のモーターに使われる「永久磁石」の製造には、上のリストにある通り、「プラセオジム」、「ネオジム」、「サマリウム」、「ガドリニウム」、「テルビウム」、「ジスプロシウム」などのレアアースが必要だが、なんとその98%は中国が供給している。この状況を換言するなら、中国の供給するレアアースなしでは、電気自動車の製造は不可能だということになる。もし電気自動車製造の中国依存を脱却しようと思えば、現行の電気自動車のモーターの仕様を根本的に変更しなければならない。

●恐怖する米軍需産業
 こうした状況は電気自動車には限らない。多くの最先端技術の製品に当てはまることだろう。そして、前回の記事にも書いたように、この過度な中国依存をもっとも恐れているのが、アメリカの軍需産業だ。上のリストにもあるように、ミサイル誘導システムほか、レーザー兵器、高性能レーダー、次世代型戦闘機など、レアアースが多用されている。
 こうした最先端兵器が、仮想敵国である中国に依存しないと製造できないという事実は、アメリカの安全保障にとって大きな脅威であることは間違いない。早期にレアアースの自前のサプライチェーンを構築し、中国依存からの完全な脱却を目指すことだろう。
 しかし、CIA系のシンクタンクで安全保障分野を専門に高度な分析を提供している「ストラトフォー」によると、これは容易ではないという。
まず、サプライチェーンの構築には順調に行っても10年から15年はかかる。だが、軍需産業のレアアースのシェアはたかだか5%程度にしか過ぎず、市場規模はあまりに小さい。そのため、軍需産業のためだけに自前のサプライチェーンの構築に投資する企業はほとんどないのではないかと見られている。こうした条件を見ると、中国依存からの脱却は難しいのが現状だ。

●リサイクルはまだ先
 さらに、既存の製品からレアアースを取り出しリサイクルする技術も開発されている。レアアースは製品に使われた後も比較的劣化しないので、リサイクルは可能だ。
 しかし、この技術はまだテストの段階にあり、レアアースの需要に大規模にこたえるようになるためには、この後何年もかかる可能性が高い。遠い将来はいざ知らず、リサイクルは中国依存脱却の切り札にはならない。

●最先端秘術を巡る覇権争いの命運は決まったのか?
 いまトランプ政権は、各国が中国の「ファーウェイ」の通信インフラや機器の導入を止めるように圧力をかけ、中国が最先端技術で覇権を握るのを阻止するのに躍起になっている。また、高関税の適用をちらつかせて、国家主導の「一帯一路」構想を断念させ、あまりに急速な中国の発展の押さえ込みを図っている。たしかにこうした政策は、中国の国営企業優遇策や知的財産権の侵害、また不公正な貿易慣行を改めさせるには一定の効果があるだろう。
 また、アメリカの圧力で中国経済の成長率は大きく鈍化したため、中国といえどもアメリカには勝てないという論調は日本でも強い。最先端技術の覇権を巡る争いでは、やはりアメリカには勝てなかったという印象を持つかもしれない。

 しかし、多くの最先端技術の基盤であるレアアースの状況を見る限り、中国の独占状態は今後も継続し、揺るぐ気配はない。むしろ、最先端技術が発展するとレアアースの需要は高まるため、中国依存はさらに大きくなる可能性が高い。そのような状況を見ると、最先端技術を巡る覇権争いでは、すでに中国が勝利してしまっているといっても過言ではないかもしれないのだ。

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Profile:高島 康司(たかしま やすし)
高島 康司(たかしま やすし)

社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/

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