トップが語る、「いま、伝えたいこと」
『先見経済』(セイワコミュニケーションズ刊)という雑誌があります。私は十数年間もこの雑誌の奇数月の第4週号に、社会や経営についての原稿を書いてきました。
同誌は経営者にとって参考になることが実に多く載っているよい雑誌です。できればお読みください。
ところで、今月第4週号に、私は以下のような文章を書きました。これは、いま多くの人々に私が言いたいことなので、セイワコミュニケーションズの了解を得て、ここへ転載します。ぜひ私の言いたいことをお知りください。
時流よりも原則が大事
40年以上も経営コンサルタント業を本業とし、35年も経営者業を兼任してきたので、いつの間にか経営については、それなりに「私なりの見方」ができた。
それらを、これから「船井幸雄の経営語録」というテーマで、隔月に本誌で発表していきたい。
経営戦略(方針や方向づけ)のアドバイスを主業務としてきた私には、いまの日本の産業界をみると、「お金儲け至上主義」に入ってしまって、経営体の主目的である「社会性=世のためになる」「教育性=関係者の人間性を高め、よい能力を引き出す」を忘れてしまったようにみえて仕方がない。
たとえば、東京スター銀行が今年10月25日に東証一部市場に上場したが、この銀行の前身は東京相和銀行であり、2001年に、米国の投資ファンドのローンスターが400億円で買収したものである。今回の上場に当り、その持株の30%を売却したが、その儲けだけで約500億円になる。同社の発行済株式の時価総額は約3000億円になっているし、ローンスターは残りの約70%の株式を持っているのだから、400億円の投資が5年弱で7倍強にも増えたことになる。
これは、国民の血税であり公的資金を8兆円も注ぎこんだ旧長銀を10億円で買い取り、昨年「新生銀行」として東証一部に再上場させた米国投資ファンドのリップルウッドにつぐ、安く買って、再生させ、株式公開したことによる大儲けだが、このような話題が産業界や経営者からうらやましげに続出している。
アタマを使い、お金を活用し、政府などに働きかけ、法律や制度を変更させて稼ぐのが、もっとも賢明だ・・・というような考え方が、いま急速に世の中に拡がってきた。
事実、名門ゴルフ場、一流ホテル、銀行や流通業などの有名企業が、続々と「ローンスター」や「リップルウッド」だけでなく、「ゴールドマン・サックス」「サーベラス」「カーライト」などの傘下になりつつあり、日本人の社長が引っぱる会社でも、去年から「ライブドア」や「楽天」の動きが注目されている。
これらを経営という面でみると、これは「時流」といえよう。この時流は、私には危険な現象にみえる。
私が1970年ごろ、まだ船井総研を創業したころにつくった経営語録の一つに、「企業経営というのは、時流か原則という二つのポイントで考えればいい。時流に合うことをやると原則に反しても経営体は伸びつづけるし、原則に合うことをやると時流に反しても伸びつづける」というコトバ(ルール)がある。
いまから考えると、バカなことを言ったものだと思う。
「時流」などは短期間の現象で、浮き草のようなものと考えてよく、世の中は「原則」で動いており、「時流にとらわれるのは、ほどほどにしておいた方がよい」のがいまでは、分るからである。
1965年(昭和40年)ごろから、1990年(平成2年)ごろまでの私の経営戦略アドバイスのポイントの一つに「不動産を値上りさせること」があった。
安い土地を大量に仕入れ、そこへ電車の駅をつくると、その安い土地の値段が急上昇する。スーパーも同様で、商店街以外の郊外地に安い大きな土地を買い、そこへ大型店をつくると、土地が値上りする。その土地を担保に銀行からお金を借りて、同じことをくりかえすとよい・・・という私のアドバイスは、十数年間も失敗しらずの大成功を収めてきた。
「明治以来、土地の値段は、上りつづけてきた。せまい日本だから、これは原則のようなものだ。土地投資は正しい経営手法だ」と考えて、アドバイスをしていたのだが、土地の値上りも単なる時流にすぎなかったのを、90年代になって痛感させられた。
ありがたかったことは、80年ごろから、私の経営哲学に変化があり、「不労所得」や「競争」は『人間として正しくないこと』のようだ、と確信を持ちはじめていたので、85年以降は、「不動産は本業に必要なもの以外は買わない方がよい」「競争はしない方がいい」と、アドバイスの方針を変えたことである。
ともかく、今回ここでいいたいのは、時流も大事だが、時流よりも、より大事なのは原則であるということ、これは経営だけでなく人生というか、人間として生きていくうえでもっとも大事な守らねばならないことだと言いたいのである。
しかも「原則」も、なるべく大きな原則の方が大事である。
とはいえ、大きすぎる原則よりも、次回からは、本誌の読者の興味になるべく合わせる意味で、企業経営についての身近な原則、いうならば「経営のコツ」といえるものをできるだけ分りやすく述べていきたいと思っている(抜粋ここまで)。
=以上=
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